そんな、無理だよ……。
これ以上、このデスゲームに付き合わされるなんてっ。
私は、私は何も……悪いことなんて、してないのに。
電気ウナギくんのお腹のタイマーは嫌でもカウントダウンを始める。私は、自分の顔が引き攣っているのを感じながらみんなの顔を見た。案の定、全員が顔を逸らしている。
どうして? 誰も助けてくれないの……?
そう叫びたかったけれど、私だって前回と前々回のゲームの時、今のみんなと同じような反応をした。自分にはヒーローなんて荷が重いから、誰かが名乗り出てくれるのを待った。たとえ自分がゲームに参加しなければ生き残れないとしても、自ら死へと続く階段に一歩踏み出すのが怖かったから。
それに、私はなんとなく……どうしてこのメンバーが集められたのか、分かっている。分かった上で私が死ぬことなんてないって思ってる。
今この場に集められたメンバーは、皆木聖のことをいじめている人たちだ。
大村武史を筆頭に、大村くんに付き従う綾部一樹、女子の主犯格の貴田春香、偽善者っぽい湯浅真紘、亡くなってしまったけれど、飯島秋雄だって、皆木くんのことをストレスの捌け口にしていた。
ただ一人……天沢雪音だけは、私もよく知らない。彼女はそもそも不登校気味で、皆木くんと絡んでいるところを見たことがない。けれど、美人な彼女のことだから、表面上はいい子ぶって、貴田さんたちと一緒に皆木くんをいたぶっている可能性はある。
教室で目覚めたメンバーを見た時、私はこのゲームは皆木くんが考えだした復讐なんじゃないかって予想していた。電気ウナギくんだって、皆木くんのあだ名の“ウナギ”にちなんでいるのは一目瞭然だから。
だからここで死ぬのは私以外のみんなであって、私が死ぬ理由なんて、ないはずだ。
私は——私は、積極的に皆木くんのことをいじめてなんかいない。
——ねえ小沼〜あんたちょっと、ウナギの教科書盗んでこいよ。
——やらないと今度はあんたのこと、ウナギよりも酷い目に遭わせるから。
貴田さんをはじめとする「一軍女子」たちの高らかな笑い声が記憶の海を駆け抜ける。やめて! やるから、盗るから、私をいじめないでっ。
皆木くんの教科書を盗んだのは、正当防衛だった。
だって、やらないと私がやられる番になる。
私は脅されたんだ。気が強くて見た目がいいことを理由に女王のように振る舞う女子たちに。私は被害者。ねえ、だから誰か、私を守って……!
「あれ〜誰も名乗り出ないみたいだね。残り時間は一分を切ってるよ」
電気ウナギくんの言葉にはっとしてタイマーを見やる。「分」のところがゼロになり、五十九、五十八、と秒を刻む数字だけが動いていた。
「だ、誰か……助けてください」
絞り出した声はびっくりするほどか細かった。
「俺が——と言いたいところだけど、他の人がいくべきだ。貴田、大村、綾部、皆木。まだゲームに参加してないきみたちの誰かが参加した方がいい。じゃないと、今後はゲームの取り合い合戦になるぞ……?」
一番冷静な湯浅くんがまだゲームに参加していないメンバーに問いかける。そうだ、そうだよ。ゲームに参加しないとみんな、死んじゃうんだよ……? 早めに参加しておいた方が自分の身のためだって!
「……」
それでも誰も、手を挙げなかった。
第二ゲームで人質だった皆木くんは申し訳なさそうに俯いている。
大村くんと綾部くんは言わずもがな。貴田さんは私を睨みつけて怖い顔をしていた。
「みんな、どうして」
三十、二十九、二十八。
秒針はどんどん数を減らしていく。
これ以上タイマーを見ていられない私は電気ウナギくんから顔を逸らした。
「小沼、あんたはずっと、皆木のことで自分は関係ないって顔してたよね。あたし、そんなあんたの被害者ヅラが気に入らなかったの。だから悪いけど、あんたを助けるために命を懸けるのは嫌かな」
「貴田さんっ! 皆木くんのことを積極的にいじめていたあなたがそれを言うの? 私よりもあなたの方が断然悪いことをしているのに!?」
「ふん、自分が死にそうになってからようやく吠えるなんて、みっともないわね」
「何を……!」
「わ、私がやる……」
見かねた様子の天沢さんが手を挙げかけた。けれど、貴田さんに「やめときなよ、無駄死にするよ」と天沢さんのことを睨みつけたところで、ピピーーッ!! というタイマーの音が鳴り響いた。
「残念、時間切れです」
冷酷な声が降ってきた。電気ウナギくんの声は相変わらず高く、作り物めいた声なのに、この時ばかりはどうしてかどす黒く感じられた。
「ゲームの参加者が現れなかったので、人質の小沼さんは失格となります。それではさようなら」
「やだ、やだやだやだやだ! 死にたくないよおおおおおっ!!」
あまりの恐怖に初めて教室の中で大声を上げる。他のみんなが唖然とした様子で震えている表情が目に焼き付いた。
その刹那、ドンッ! という凄まじい音と共に、身体中を貫く痛みを感じたのが、最期だった。
これ以上、このデスゲームに付き合わされるなんてっ。
私は、私は何も……悪いことなんて、してないのに。
電気ウナギくんのお腹のタイマーは嫌でもカウントダウンを始める。私は、自分の顔が引き攣っているのを感じながらみんなの顔を見た。案の定、全員が顔を逸らしている。
どうして? 誰も助けてくれないの……?
そう叫びたかったけれど、私だって前回と前々回のゲームの時、今のみんなと同じような反応をした。自分にはヒーローなんて荷が重いから、誰かが名乗り出てくれるのを待った。たとえ自分がゲームに参加しなければ生き残れないとしても、自ら死へと続く階段に一歩踏み出すのが怖かったから。
それに、私はなんとなく……どうしてこのメンバーが集められたのか、分かっている。分かった上で私が死ぬことなんてないって思ってる。
今この場に集められたメンバーは、皆木聖のことをいじめている人たちだ。
大村武史を筆頭に、大村くんに付き従う綾部一樹、女子の主犯格の貴田春香、偽善者っぽい湯浅真紘、亡くなってしまったけれど、飯島秋雄だって、皆木くんのことをストレスの捌け口にしていた。
ただ一人……天沢雪音だけは、私もよく知らない。彼女はそもそも不登校気味で、皆木くんと絡んでいるところを見たことがない。けれど、美人な彼女のことだから、表面上はいい子ぶって、貴田さんたちと一緒に皆木くんをいたぶっている可能性はある。
教室で目覚めたメンバーを見た時、私はこのゲームは皆木くんが考えだした復讐なんじゃないかって予想していた。電気ウナギくんだって、皆木くんのあだ名の“ウナギ”にちなんでいるのは一目瞭然だから。
だからここで死ぬのは私以外のみんなであって、私が死ぬ理由なんて、ないはずだ。
私は——私は、積極的に皆木くんのことをいじめてなんかいない。
——ねえ小沼〜あんたちょっと、ウナギの教科書盗んでこいよ。
——やらないと今度はあんたのこと、ウナギよりも酷い目に遭わせるから。
貴田さんをはじめとする「一軍女子」たちの高らかな笑い声が記憶の海を駆け抜ける。やめて! やるから、盗るから、私をいじめないでっ。
皆木くんの教科書を盗んだのは、正当防衛だった。
だって、やらないと私がやられる番になる。
私は脅されたんだ。気が強くて見た目がいいことを理由に女王のように振る舞う女子たちに。私は被害者。ねえ、だから誰か、私を守って……!
「あれ〜誰も名乗り出ないみたいだね。残り時間は一分を切ってるよ」
電気ウナギくんの言葉にはっとしてタイマーを見やる。「分」のところがゼロになり、五十九、五十八、と秒を刻む数字だけが動いていた。
「だ、誰か……助けてください」
絞り出した声はびっくりするほどか細かった。
「俺が——と言いたいところだけど、他の人がいくべきだ。貴田、大村、綾部、皆木。まだゲームに参加してないきみたちの誰かが参加した方がいい。じゃないと、今後はゲームの取り合い合戦になるぞ……?」
一番冷静な湯浅くんがまだゲームに参加していないメンバーに問いかける。そうだ、そうだよ。ゲームに参加しないとみんな、死んじゃうんだよ……? 早めに参加しておいた方が自分の身のためだって!
「……」
それでも誰も、手を挙げなかった。
第二ゲームで人質だった皆木くんは申し訳なさそうに俯いている。
大村くんと綾部くんは言わずもがな。貴田さんは私を睨みつけて怖い顔をしていた。
「みんな、どうして」
三十、二十九、二十八。
秒針はどんどん数を減らしていく。
これ以上タイマーを見ていられない私は電気ウナギくんから顔を逸らした。
「小沼、あんたはずっと、皆木のことで自分は関係ないって顔してたよね。あたし、そんなあんたの被害者ヅラが気に入らなかったの。だから悪いけど、あんたを助けるために命を懸けるのは嫌かな」
「貴田さんっ! 皆木くんのことを積極的にいじめていたあなたがそれを言うの? 私よりもあなたの方が断然悪いことをしているのに!?」
「ふん、自分が死にそうになってからようやく吠えるなんて、みっともないわね」
「何を……!」
「わ、私がやる……」
見かねた様子の天沢さんが手を挙げかけた。けれど、貴田さんに「やめときなよ、無駄死にするよ」と天沢さんのことを睨みつけたところで、ピピーーッ!! というタイマーの音が鳴り響いた。
「残念、時間切れです」
冷酷な声が降ってきた。電気ウナギくんの声は相変わらず高く、作り物めいた声なのに、この時ばかりはどうしてかどす黒く感じられた。
「ゲームの参加者が現れなかったので、人質の小沼さんは失格となります。それではさようなら」
「やだ、やだやだやだやだ! 死にたくないよおおおおおっ!!」
あまりの恐怖に初めて教室の中で大声を上げる。他のみんなが唖然とした様子で震えている表情が目に焼き付いた。
その刹那、ドンッ! という凄まじい音と共に、身体中を貫く痛みを感じたのが、最期だった。