「さあ、もう気は済んだ? さっさと始めるよ。じゃあ、第一問、じゃじゃん!『かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこあわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ』——今、ワタシは何回『ぴょこ』と言ったでしょうか?」
突如早口言葉を喋り出したと思ったら、予想外の問題が飛び出してきた。どんなジャンルの問題が出てくるのか分からないから、雪音はさぞ緊張していただろう。大丈夫だ、この問題なら、冷静になれば解ける……。
「かえるぴょこ、ぴょこ……」
雪音は、指折り数えながらゆっくりと「ぴょこ」の数を数えていた。そうだ、ゆっくりでいいんだ。大丈夫、冷静に数えたら間違えない。
「分かりました。答えは八回です」
十五秒ほど経った頃、彼女が答えを口にした。
「はーい、正解でーす! 簡単だったかな?」
場違いな明るい声を響かせて、電気ウナギくんが「正解」と言った。
ふう、と胸を撫で下ろす雪音。消えたいはずの僕も、一緒になって大きく息を吐いた。
「これで安心してる暇はないよ! 続けて第二問いくよ。じゃじゃん! 『あなたはバスの運転手です。一つ目のバス停で十人、乗ってきました。二つ目のバス停で三人降りて、二人乗ってきました。三つ目のバス停で四人おりて、五人乗ってきました。四つ目のバス停で三人降りて六人乗ってきました』——」
間髪を容れずに始まった二問目に、雪音が慌ててまた指を折り始めた。細い指が何度も動くが、問題を読み上げるペースが早いため、追いついていない様子だ。彼女の額からもう一筋の汗が流れる。この場にいる全員が、息をのむのが分かった。
「『五つ目のバス停で七人降りて、二人乗ってきました。さて、バスの運転手は何歳でしょうか?』」
「……は?」
声を上げたのは一樹だった。
今この瞬間、みんなの頭の中に同じ疑問が浮かんでいることだろう。雪音は数えていた。バスに乗っている乗客の数を。最後に「今何人のお客さんが乗っているでしょうか」という問いが出てくると予想していたからだ。いや、そういう問題が出ると予感させるように誘導された問題だったからだ。
「ど、どういうこと?」
一緒になっていた春香が口を挟む。電気ウナギくんはもちろん何も答えない。亜美も「分からない……」と呼応するように呟いた。
「まずいな、ひっかけ問題だ」
真紘が唇噛みながら答える。彼には答えが分かっているのだろうか。こういう時、外野はまだ冷静に問題の答えを考えられるもの。けれど、自らの命が懸かっている雪音にとっては、冷静ではいられないはずだ。
「えっと……バスの運転手の、年齢……」
雪音の目が泳いでいる。無理もない。予想外の問題が飛び出してきたのだ。問題の意味を噛み砕こうとしている様子だが、空回りしているように見える。電気ウナギくんのお腹のところに表示されたタイマーの数字が確実に一秒ずつ減っていた。
「年齢、バス停、人数……」
ぶつぶつと独り言を呟いている彼女のことを、僕は直視できなかった。
ああ、ごめん、天沢さん。
僕なんかのために、きみが。
消えたい僕のために、きみが命を——。
「分かったわ」
カウントダウンが残り一秒となり、万事休すかと思われた時、彼女はすっと電気ウナギくんの方へ顔を向けた。
「答えは——十八歳」
十八歳?
一体どこからそんな答えを出したのか分からない。真紘以外の全員の目が点になっていた。
「天沢雪音さん、正解でーす! おめでとうございます!」
クラッカーでも鳴りそうな勢いで、電気ウナギくんがパチパチと拍手喝采を送る。ふう、と大きく息を吐く雪音。
「どういうことだ?」
答えの意味が分からない武史が、真紘に視線を送った。
「電気ウナギくんが最初に言った台詞を思い出してみろ。『あなたはバスの運転手です』——つまり、バスの運転手は回答権を持った天沢だということになる。天沢の年齢は十八歳。だから、バスの運転手の年齢も十八歳というわけだ」
なるほど、そういうことだったのか……。
言われてみれば簡単な問題だが、問題文を一言一句丁寧に聞いていないと閃かない。雪音はちゃんと冷静に考えていたのだ。僕は、彼女の奮闘ぶりに胸の奥から込み上げるものを感じた。
「ありがとう……天沢さん」
「いいえ。聖くんが無事で良かった」
——聖くん。
耳慣れない呼び名を口にすると共に、雪音がほっとした表情を浮かべて微笑んだ。その笑顔がすごく可愛らしくて、こんな時なのに胸がツンと疼いた。
おかしいな……僕はずっと、この世界から消えてしまいたいと思っていたのに。
雪音の笑顔を見られて、嬉しいと思ってしまう自分がいる。
「はいはい、危なかったですねー。あと一秒で二人とも死んでましたよ? でも良かったですね〜助かって。ナイスファイトでした」
白々しい口ぶりの電気ウナギくんに武史がキレて、電気ウナギくんに掴み掛かろうとした。
「お前、俺たちを弄びやがって……! くだらないゲームでこんなことして楽しいかよっ!」
「おっと、暴力はやめてくださいね。最初に言ったように、このゲームは皆さんの願いを叶えるために始めたことですよ」
「クソッ! 願いを叶えるとか、適当なことほざきやがって」
電気ウナギくんは、あくまで公平な存在だ。多分、僕や真紘、雪音はそのことに気づいている。残りの四人はどうなのか、分からないけれど。
「はいはーい、無駄な問答をしている暇はないよ。次の第三ゲームの人質を発表します。次の人質は——小沼亜美さんです!」
その刹那、びくん、と亜美の肩が大きく跳ねた。顔面蒼白になった彼女は見るからに絶望の色を浮かべている。
「さあ、第三ゲームで人質になる小沼さんを救うためのヒーローをみんなで話し合ってね。制限時間はもちろん五分。よーい、スタート!」
突如早口言葉を喋り出したと思ったら、予想外の問題が飛び出してきた。どんなジャンルの問題が出てくるのか分からないから、雪音はさぞ緊張していただろう。大丈夫だ、この問題なら、冷静になれば解ける……。
「かえるぴょこ、ぴょこ……」
雪音は、指折り数えながらゆっくりと「ぴょこ」の数を数えていた。そうだ、ゆっくりでいいんだ。大丈夫、冷静に数えたら間違えない。
「分かりました。答えは八回です」
十五秒ほど経った頃、彼女が答えを口にした。
「はーい、正解でーす! 簡単だったかな?」
場違いな明るい声を響かせて、電気ウナギくんが「正解」と言った。
ふう、と胸を撫で下ろす雪音。消えたいはずの僕も、一緒になって大きく息を吐いた。
「これで安心してる暇はないよ! 続けて第二問いくよ。じゃじゃん! 『あなたはバスの運転手です。一つ目のバス停で十人、乗ってきました。二つ目のバス停で三人降りて、二人乗ってきました。三つ目のバス停で四人おりて、五人乗ってきました。四つ目のバス停で三人降りて六人乗ってきました』——」
間髪を容れずに始まった二問目に、雪音が慌ててまた指を折り始めた。細い指が何度も動くが、問題を読み上げるペースが早いため、追いついていない様子だ。彼女の額からもう一筋の汗が流れる。この場にいる全員が、息をのむのが分かった。
「『五つ目のバス停で七人降りて、二人乗ってきました。さて、バスの運転手は何歳でしょうか?』」
「……は?」
声を上げたのは一樹だった。
今この瞬間、みんなの頭の中に同じ疑問が浮かんでいることだろう。雪音は数えていた。バスに乗っている乗客の数を。最後に「今何人のお客さんが乗っているでしょうか」という問いが出てくると予想していたからだ。いや、そういう問題が出ると予感させるように誘導された問題だったからだ。
「ど、どういうこと?」
一緒になっていた春香が口を挟む。電気ウナギくんはもちろん何も答えない。亜美も「分からない……」と呼応するように呟いた。
「まずいな、ひっかけ問題だ」
真紘が唇噛みながら答える。彼には答えが分かっているのだろうか。こういう時、外野はまだ冷静に問題の答えを考えられるもの。けれど、自らの命が懸かっている雪音にとっては、冷静ではいられないはずだ。
「えっと……バスの運転手の、年齢……」
雪音の目が泳いでいる。無理もない。予想外の問題が飛び出してきたのだ。問題の意味を噛み砕こうとしている様子だが、空回りしているように見える。電気ウナギくんのお腹のところに表示されたタイマーの数字が確実に一秒ずつ減っていた。
「年齢、バス停、人数……」
ぶつぶつと独り言を呟いている彼女のことを、僕は直視できなかった。
ああ、ごめん、天沢さん。
僕なんかのために、きみが。
消えたい僕のために、きみが命を——。
「分かったわ」
カウントダウンが残り一秒となり、万事休すかと思われた時、彼女はすっと電気ウナギくんの方へ顔を向けた。
「答えは——十八歳」
十八歳?
一体どこからそんな答えを出したのか分からない。真紘以外の全員の目が点になっていた。
「天沢雪音さん、正解でーす! おめでとうございます!」
クラッカーでも鳴りそうな勢いで、電気ウナギくんがパチパチと拍手喝采を送る。ふう、と大きく息を吐く雪音。
「どういうことだ?」
答えの意味が分からない武史が、真紘に視線を送った。
「電気ウナギくんが最初に言った台詞を思い出してみろ。『あなたはバスの運転手です』——つまり、バスの運転手は回答権を持った天沢だということになる。天沢の年齢は十八歳。だから、バスの運転手の年齢も十八歳というわけだ」
なるほど、そういうことだったのか……。
言われてみれば簡単な問題だが、問題文を一言一句丁寧に聞いていないと閃かない。雪音はちゃんと冷静に考えていたのだ。僕は、彼女の奮闘ぶりに胸の奥から込み上げるものを感じた。
「ありがとう……天沢さん」
「いいえ。聖くんが無事で良かった」
——聖くん。
耳慣れない呼び名を口にすると共に、雪音がほっとした表情を浮かべて微笑んだ。その笑顔がすごく可愛らしくて、こんな時なのに胸がツンと疼いた。
おかしいな……僕はずっと、この世界から消えてしまいたいと思っていたのに。
雪音の笑顔を見られて、嬉しいと思ってしまう自分がいる。
「はいはい、危なかったですねー。あと一秒で二人とも死んでましたよ? でも良かったですね〜助かって。ナイスファイトでした」
白々しい口ぶりの電気ウナギくんに武史がキレて、電気ウナギくんに掴み掛かろうとした。
「お前、俺たちを弄びやがって……! くだらないゲームでこんなことして楽しいかよっ!」
「おっと、暴力はやめてくださいね。最初に言ったように、このゲームは皆さんの願いを叶えるために始めたことですよ」
「クソッ! 願いを叶えるとか、適当なことほざきやがって」
電気ウナギくんは、あくまで公平な存在だ。多分、僕や真紘、雪音はそのことに気づいている。残りの四人はどうなのか、分からないけれど。
「はいはーい、無駄な問答をしている暇はないよ。次の第三ゲームの人質を発表します。次の人質は——小沼亜美さんです!」
その刹那、びくん、と亜美の肩が大きく跳ねた。顔面蒼白になった彼女は見るからに絶望の色を浮かべている。
「さあ、第三ゲームで人質になる小沼さんを救うためのヒーローをみんなで話し合ってね。制限時間はもちろん五分。よーい、スタート!」