「……」
電気、ウナギくん……?
ロボットの口から出てきた珍妙な名前に、全員がきょとんとした表情を浮かべている。
が、僕だけは少し違っていた。“ウナギ”という響きに、自然と眉根を寄せる。
——皆木聖って、お前に似つかわしくない名前だよなあ。あ、そうだ、「ミナギ」じゃなくて「ウナギ」って呼ぼ。だってお前、痩せっぽっちでひょろながくてちょうど良いじゃん。
ケッケッケッ、と嗤いながら最初に僕にそのあだ名をつけたのは、武史だっただろうか。その時から、僕のこのクラスでの呼び名は「ウナギ」になった。表立ってそう呼んでくる人もいれば、陰でこそこそと悪口を言うのに使っている連中もいた。僕は、たった今目の前で「電気ウナギくん」などと名乗り出たロボットを見つめて、汗を一筋垂らす。
「きっしょい名前だな。んで、ゲームってのはなんなんだよ」
「きみ、確か飯島秋雄くんだったか。ちょっとはゲームマスターを敬った方がいいよ? あ、あと、ワタシは絶対に嘘は言わないので、あまりワタシの発言を疑うのもよくないですからね。その辺り、ご注意を」
「ああ、なんだって? うぜえんだよっ」
相当ストレスが溜まっているのか、秋雄の目は血走っている。今にも電気ウナギくんに飛びつきそうな勢いだ。
だが、ストレスが溜まっているのは僕たちも同じだった。
早くこの状況をなんとかしてほしい。スマホを返して欲しい。家に帰りたい。
「彼と不毛なやり取りをしていても進みませんからね。ゲームについて説明しますね? きみたち二年二組の八人は今、見ての通り教室に閉じ込められています。時刻は夜の十一時です。さて、教室に閉じ込められたきみたちですが——これからゲームに参加していただきます。題して、『あなたは誰の大切な人?−人質リレーゲーム−』です!」
「人質リレーゲーム……?」
「人質」などという物騒なワードが出てきて全員がざわつく。タイトルだけを聞いても、一体どんなゲームをさせられるのか、想像がつかない。
「ひとまず詳しいルールを説明しますね。口で伝えるだけじゃ分かりにくいから、黒板にルールを書きまーす、はい!」
はい、という合図とともに、黒板に突如現れた文字に、誰かが「ひっ」と悲鳴を上げた。魔法でも使ったんだろうか。突然黒板に文字が浮かび上がるなんて、とても現実だとは思えなかった。
それでも、書かれたルールを自然と目で追ってしまう。
内容はこうだった。
◎『あなたは誰の大切な人?−人質リレーゲーム−』ルール
・これから皆さんには簡単なゲームに参加していただきます
・ゲームは全部で最大八ラウンド
・一ゲームごとに、「人質」が指名されます
・「人質」はゲームに参加できません
・「人質」が指名されてから五分以内に、ゲームに参加する人を立候補で決定してください
・「人質」になるのは各人一回のみ、必ず一度は「人質」になります
・ゲームに参加できるのは、毎ゲームごとに一人だけです
・五分以内にゲームの参加者が現れなければ「人質」は命を失います
・ゲームを途中で放棄すると命を失います
・指示なく教室から出ると命を失います
・ゲームの参加者がゲームにクリアできなければ、「人質」とそのゲームの参加者の両方が命を失います
・ゲームの参加者がゲームにクリアすれば、「人質」と参加者はそのターンは両方生き残ることができます
・生き残るには、最大八回のゲームが終わるまでに、“「人質」として生き残ること”&“一度ゲームに参加してクリアすること”が条件です
・最後まで生き残った人は、なんでも願いを叶えることができます。ただし、命を失った人を生き返らせることはできません
「なんだ、この訳の分からんゲームは……」
ルールを読み終えた武史が呟く。他のみんなにも、怯えや戸惑いの表情が浮かんでいる。
「命を失う? 生き残る?」
混乱を極めた一樹の声と、「はんっ!」と大きく鼻を鳴らす秋雄の声が同時に響いた。
「こんなこと書いて俺たちを惑わそうってか。ばかばかしい! 大体、“命を失う”なんてどうやってやんだよ。そもそもここはただの教室だろ。窓だってちょっと開いてんだし、一階だぞ。助けを呼んだり逃げたりできるはずだ! まったく、高校生だからってなめんじゃねえよっ」
吐き捨てるように言った秋雄の台詞を聞いて、僕ははっとする。
そうだ、ここは一階だ。
それに目を覚ましてからずっと雨樋から流れる水の音が聞こえていた。ということは、どこかの窓が開いている可能性が高い。さっと窓の方を見つめると、確かに教室の一番後ろの窓が空いていた。
「そうだ、俺はもうこんな意味不明な茶番劇に付き合ってる暇ないんだ。さっさと退場させてもらうぜ!」
「おい、ちょ!」
窓の方に駆け寄っていく秋雄を、真紘が咄嗟に止めようと手を伸ばした。だが猛スピードで進む秋雄にその手は届かず、あっという間に秋雄は窓を開け放つ。窓から両足をひょい、と飛び越えた瞬間——ドンっ! という地鳴りのような音が響いた。
電気、ウナギくん……?
ロボットの口から出てきた珍妙な名前に、全員がきょとんとした表情を浮かべている。
が、僕だけは少し違っていた。“ウナギ”という響きに、自然と眉根を寄せる。
——皆木聖って、お前に似つかわしくない名前だよなあ。あ、そうだ、「ミナギ」じゃなくて「ウナギ」って呼ぼ。だってお前、痩せっぽっちでひょろながくてちょうど良いじゃん。
ケッケッケッ、と嗤いながら最初に僕にそのあだ名をつけたのは、武史だっただろうか。その時から、僕のこのクラスでの呼び名は「ウナギ」になった。表立ってそう呼んでくる人もいれば、陰でこそこそと悪口を言うのに使っている連中もいた。僕は、たった今目の前で「電気ウナギくん」などと名乗り出たロボットを見つめて、汗を一筋垂らす。
「きっしょい名前だな。んで、ゲームってのはなんなんだよ」
「きみ、確か飯島秋雄くんだったか。ちょっとはゲームマスターを敬った方がいいよ? あ、あと、ワタシは絶対に嘘は言わないので、あまりワタシの発言を疑うのもよくないですからね。その辺り、ご注意を」
「ああ、なんだって? うぜえんだよっ」
相当ストレスが溜まっているのか、秋雄の目は血走っている。今にも電気ウナギくんに飛びつきそうな勢いだ。
だが、ストレスが溜まっているのは僕たちも同じだった。
早くこの状況をなんとかしてほしい。スマホを返して欲しい。家に帰りたい。
「彼と不毛なやり取りをしていても進みませんからね。ゲームについて説明しますね? きみたち二年二組の八人は今、見ての通り教室に閉じ込められています。時刻は夜の十一時です。さて、教室に閉じ込められたきみたちですが——これからゲームに参加していただきます。題して、『あなたは誰の大切な人?−人質リレーゲーム−』です!」
「人質リレーゲーム……?」
「人質」などという物騒なワードが出てきて全員がざわつく。タイトルだけを聞いても、一体どんなゲームをさせられるのか、想像がつかない。
「ひとまず詳しいルールを説明しますね。口で伝えるだけじゃ分かりにくいから、黒板にルールを書きまーす、はい!」
はい、という合図とともに、黒板に突如現れた文字に、誰かが「ひっ」と悲鳴を上げた。魔法でも使ったんだろうか。突然黒板に文字が浮かび上がるなんて、とても現実だとは思えなかった。
それでも、書かれたルールを自然と目で追ってしまう。
内容はこうだった。
◎『あなたは誰の大切な人?−人質リレーゲーム−』ルール
・これから皆さんには簡単なゲームに参加していただきます
・ゲームは全部で最大八ラウンド
・一ゲームごとに、「人質」が指名されます
・「人質」はゲームに参加できません
・「人質」が指名されてから五分以内に、ゲームに参加する人を立候補で決定してください
・「人質」になるのは各人一回のみ、必ず一度は「人質」になります
・ゲームに参加できるのは、毎ゲームごとに一人だけです
・五分以内にゲームの参加者が現れなければ「人質」は命を失います
・ゲームを途中で放棄すると命を失います
・指示なく教室から出ると命を失います
・ゲームの参加者がゲームにクリアできなければ、「人質」とそのゲームの参加者の両方が命を失います
・ゲームの参加者がゲームにクリアすれば、「人質」と参加者はそのターンは両方生き残ることができます
・生き残るには、最大八回のゲームが終わるまでに、“「人質」として生き残ること”&“一度ゲームに参加してクリアすること”が条件です
・最後まで生き残った人は、なんでも願いを叶えることができます。ただし、命を失った人を生き返らせることはできません
「なんだ、この訳の分からんゲームは……」
ルールを読み終えた武史が呟く。他のみんなにも、怯えや戸惑いの表情が浮かんでいる。
「命を失う? 生き残る?」
混乱を極めた一樹の声と、「はんっ!」と大きく鼻を鳴らす秋雄の声が同時に響いた。
「こんなこと書いて俺たちを惑わそうってか。ばかばかしい! 大体、“命を失う”なんてどうやってやんだよ。そもそもここはただの教室だろ。窓だってちょっと開いてんだし、一階だぞ。助けを呼んだり逃げたりできるはずだ! まったく、高校生だからってなめんじゃねえよっ」
吐き捨てるように言った秋雄の台詞を聞いて、僕ははっとする。
そうだ、ここは一階だ。
それに目を覚ましてからずっと雨樋から流れる水の音が聞こえていた。ということは、どこかの窓が開いている可能性が高い。さっと窓の方を見つめると、確かに教室の一番後ろの窓が空いていた。
「そうだ、俺はもうこんな意味不明な茶番劇に付き合ってる暇ないんだ。さっさと退場させてもらうぜ!」
「おい、ちょ!」
窓の方に駆け寄っていく秋雄を、真紘が咄嗟に止めようと手を伸ばした。だが猛スピードで進む秋雄にその手は届かず、あっという間に秋雄は窓を開け放つ。窓から両足をひょい、と飛び越えた瞬間——ドンっ! という地鳴りのような音が響いた。