「はい、本人が同意したので、早速第六ゲーム——ラストゲームを開始します。第六ゲームはこれ、じゃじゃん! 『30ゲーム』です〜!」
 30ゲーム。
 初めて耳にするゲームの名前だ。だが、聖くんは知っているのか、神妙な顔で電気ウナギくんの顔を見つめている。
「『30ゲーム』は、お互いが交互に、1から順番に三つまでの数字を言い、最後に30を言った方が負けになるゲームです! たとえば先攻の人が1、2、3と言ったら、次の人は4から3つまでの数字を答えます。4だけでもいいし、4、5でもいい。4、5、6でも大丈夫。とにかく一回のターンで言えるのは三つの数字のみ。もちろん、数字を飛ばすのはなし。最後にやむを得ず30を言った方が負けになります」
 一見複雑そうなルールかと思いきや、シンプルな内容だった。どうやら運で勝敗が決まるゲームではなさそうだけど……初めてこのゲームの存在を知った私は、どうやったら勝てるのか、見当がつかない。
「……聖くん、大丈夫?」
 私は心配しながら彼に問う。聖くんは私の顔を見て、「ああ」と頷いた。
 何かを諦めているような、決意しているような、どこか達観した眼差しだった。
「ルールを分かってもらえたところで、じゃあ始めまーす!」
「ちょっと待って。先攻・後攻はどうやって決める?」
「うーん、そうだね。まあここはラストゲームのサービス(・・・・)として、きみが決めていいよ、皆木くん」
 電気ウナギくんがそう言った時、なぜか聖くんは驚きに目を大きく開いていた。
「それなら……先攻で」
「おーけー。じゃあ皆木くんから、どうぞ!」
 電気ウナギくんがあっさりと先攻を譲った。聖くんの表情がキリッと引き締まる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「1」
 彼が「1」だけを宣言する。最初から1で止めたのは少々驚いた。私なら何となく、二つか三つまで数字を言ってしまいそうだったから。
「2、3、4」
「5」
「6、7」
「8、9」
 リズムよく、二人が数字を刻んでいく。聖くんが物怖じしないせいか、電気ウナギくんの表情が次第に楽しそうにニタリと歪んでいくのが分かった。
「10」
「11、12、13」
「14、15、16」
「17」
「18、19」
「20、21」
 あまり迷うことなくあっさりと20を超えてしまう。本当に大丈夫なの……? 私は不安を覚えたけれど、その不安はすぐに解消された。
「22、23、24」
「25」
「あ——」
 聖くんが「25」と言った瞬間、私は彼の勝利を確信してしまった。
 次のターンで、電気ウナギくんは26〜28までの数字を言うことになる。だが、どこで数字を止めたとしても、聖くんはその次のターンで「29」までの数字を言えばいい。
 つまり、聖くんが最後に「29」と宣言すれば、その次に電気ウナギくんは「30」を言わざるを得なくなるのだ。
 もしかして聖くんは最初からそれを分かってた……?
「26」
「27、28、29」
 勝利を確信した聖くんがそこで息を止めた。
「30——」
 電気ウナギくんの高い声が教室に響き渡る。と同時に「おめでとう〜!」という場違いな明るい声が、彼の口から漏れ出た。
「皆木聖くん、ゲームクリアです! ちょっと簡単だったかな〜。まあ、知ってる人は知ってる必勝法を使ってるみたいだったから、このゲームに当たったきみは運が良かったね」
 やっぱりそうなんだ。
 この「30ゲーム」には必勝法があった。
「最後のターンで自分が『29』を言えば、相手は必ず『30』と言わざるを得なくなる。逆算していけば、毎ターンどの数字で止めるか(・・・・・・・・・)だけを考えていれば、必ず僕は最後に『29』を言うことができた。その数字は、1、5、9、13、17、19、21、25だ。ただし、最初のターンで先攻(・・)になって、『1』で止めなければ成功する確率は下がる。もっとも、後攻でも途中で修正して5、9……で止められれば大丈夫だった。でもそれも、相手が同じように必勝法を知っていれば使えない手だ。電気ウナギくんは必勝法を知ってるはず——だから、先攻を譲ってくれた時はびっくりした」
 聖くんの言い分を聞いて私は納得した。
 だから彼は、先攻・後攻を決めた際に目を見開いていたんだ。
「ラストゲームくらい、きみに花を持たせてあげようと思ってね。でもよく知ってましたね〜必勝法」
「それは……ちょっと前に、クラスのやつらとやらされたことがあったから。負けたのが悔しくて、どうやったら勝てるのか、研究したんだ」
 聖くんの顔に翳が差す。
 そうか……そういうことだったの……。
 聖くんの言う「クラスのやつら」というのは多分、大村くんたち、つまり聖くんに嫌がらせを繰り返していた人たちに違いない。これは想像だけれど聖くんは彼らにこのゲームを仕掛けられて、負けたら罰としてまた嫌がらせをされていたのではないか——そんなふうに想像すると、やるせなさに胸が軋んだ。
 でも結果的に、その時の経験が今に活きた。
 逆に言えば、大村くんたちがもし「30ゲーム」をしていたら、彼らはあっさりゲームをクリアしていたかもしれないということ。
 今このタイミングで「30ゲーム」が選ばれたのは、何か意味がある気がしてならなかった。
「なるほどなるほど。経験が活きて良かったね。それじゃあ、最後のゲームをクリアした皆木くんと天沢さんは二人とも生き残り決定です! 本当におめでとう。最初に説明したルール通り、二人の願いを何でも叶えてあげます〜!」