「それでは、第五ゲームの参加者は貴田春香さんで決定しました。ゲームの内容を発表します。じゃじゃん! 第五ゲームは『あいこでも負けになるじゃんけん』です!」
じゃんけん。
また、運ゲーか?
誰も口に出さないが、全員が同じことを考えているはずだった。
「今からワタシと貴田さんがじゃんけんをします。勝負は一回きり。その名の通り、あいこでも貴田さんの負けになるから、ちゃんと勝たなきゃ意味ないよー」
「あいこでも負けだなんて、そんなの不利じゃない」
「そう? どうせあいこになったらもう一回やり直すだけだし、余計な手間が省けていいと思うけどなあ。まあ、負ける確率が三分の二になるのは確かに貴田さんが不利ですね。でも仕方ないよ。だってこのゲームは、みんなの願いを叶えるためにしてることだから。多少のハンデは必要ってこと」
まただ。
“みんなの願いを叶えるため”。
電気ウナギくんは何度も同じことを口にしている。だが、俺たちには彼の言葉の意味が分からない。生き残った者は願いが叶えられるらしいが、その前に命を失うなら元も子もないじゃないか。
「それじゃ、早いとこゲームを済ませちゃうよ。そうそう、可哀想な貴田さんに大ヒント! ワタシはこれから“グー”を出すよ〜。だから、貴田さんは“パー”を出したら勝てます」
「は? 誰がそんな手に引っ掛かるかっての」
心理戦を持ちかけてきた電気ウナギくんの言葉にも、貴田は動じない様子で答える。だが彼女の身体は分かりやすいほどに震えている。
この手の心理戦になった場合、素直にパーを出すか、裏を読んでグーを出すか迷いどころだ。だが、もしグーを出したとして、本当に電気ウナギくんがグーを出せば、あいこになり負けてしまう。裏の裏を読んで、さらにチョキを出すという手もあるが、これもすごいハイリスク。貴田が生き残る方法は、電気ウナギくんに勝つしかない。これはかなりの賭け勝負になる……。
それを分かっているのかいないのか、彼女はふっと大きく息を吐いた。
「真紘くん、待っててね。あたしが絶対助けてみせるから」
「あ、ああ……」
にっこりと俺に向かって微笑む貴田。実は彼女が俺に気があるということを知っている。自意識過剰だとは自覚しているが、なんとなく態度で分かってしまうのだ。
俺はさ……貴田。
貴田のこと、傷つけたくないんだ。
きみがどんなに皆木をいじめている張本人だって知っていても、たぶん俺はきみに反論できない。俺も、同じように皆木をいじめているやつらと同じだって、天沢に言われる前に薄々気づいてたから。
貴田を好きにはならない。
けれど、貴田を突き放すことも、俺にはできないんだ。
「心の準備はおーけー? じゃあいきますよ。最初はグー、じゃんけん、ぽん!」
二人が同時にじゃんけんの手をつくった。
身も凍るような気持ちでその瞬間を見守る。
結果は……。
「電気ウナギくんがグーで、貴田さんがチョキ……。負けだ」
一目瞭然のことながら、天沢が勝敗を呟いた。貴田の目が大きく見開かれる。同時に、俺の心臓も縮み上がった。
「はは……ははっ。負けた……?」
信じられないというふうに、貴田がふらふらとその場に崩れ落ちる。俺は貴田の肩を掴み、「ごめん」と呟くしかなかった。
「ざんねーん! 貴田さんの負け。言ったでしょ、ワタシはグーを出すって。素直に先生の話は聞きましょうって、もう何回言わせたらいいんですか。じゃ、そんな捻くれ者の貴田さんと、哀れな人質の湯浅くん。仲良くさようなら〜」
ガチガチと、貴田の歯が震える音が一気に速くなる。
「やだ……いやだ! あたし、本当は真紘くんのこと、」
好きなの、という声は、バチンッ! という電流の音に弾けて消えた。
貴田、俺たち本当に馬鹿だな。
他人を傷つけて、自分は互いを救ったつもりになってるなんて。
天国で、また会おうな。
じゃんけん。
また、運ゲーか?
誰も口に出さないが、全員が同じことを考えているはずだった。
「今からワタシと貴田さんがじゃんけんをします。勝負は一回きり。その名の通り、あいこでも貴田さんの負けになるから、ちゃんと勝たなきゃ意味ないよー」
「あいこでも負けだなんて、そんなの不利じゃない」
「そう? どうせあいこになったらもう一回やり直すだけだし、余計な手間が省けていいと思うけどなあ。まあ、負ける確率が三分の二になるのは確かに貴田さんが不利ですね。でも仕方ないよ。だってこのゲームは、みんなの願いを叶えるためにしてることだから。多少のハンデは必要ってこと」
まただ。
“みんなの願いを叶えるため”。
電気ウナギくんは何度も同じことを口にしている。だが、俺たちには彼の言葉の意味が分からない。生き残った者は願いが叶えられるらしいが、その前に命を失うなら元も子もないじゃないか。
「それじゃ、早いとこゲームを済ませちゃうよ。そうそう、可哀想な貴田さんに大ヒント! ワタシはこれから“グー”を出すよ〜。だから、貴田さんは“パー”を出したら勝てます」
「は? 誰がそんな手に引っ掛かるかっての」
心理戦を持ちかけてきた電気ウナギくんの言葉にも、貴田は動じない様子で答える。だが彼女の身体は分かりやすいほどに震えている。
この手の心理戦になった場合、素直にパーを出すか、裏を読んでグーを出すか迷いどころだ。だが、もしグーを出したとして、本当に電気ウナギくんがグーを出せば、あいこになり負けてしまう。裏の裏を読んで、さらにチョキを出すという手もあるが、これもすごいハイリスク。貴田が生き残る方法は、電気ウナギくんに勝つしかない。これはかなりの賭け勝負になる……。
それを分かっているのかいないのか、彼女はふっと大きく息を吐いた。
「真紘くん、待っててね。あたしが絶対助けてみせるから」
「あ、ああ……」
にっこりと俺に向かって微笑む貴田。実は彼女が俺に気があるということを知っている。自意識過剰だとは自覚しているが、なんとなく態度で分かってしまうのだ。
俺はさ……貴田。
貴田のこと、傷つけたくないんだ。
きみがどんなに皆木をいじめている張本人だって知っていても、たぶん俺はきみに反論できない。俺も、同じように皆木をいじめているやつらと同じだって、天沢に言われる前に薄々気づいてたから。
貴田を好きにはならない。
けれど、貴田を突き放すことも、俺にはできないんだ。
「心の準備はおーけー? じゃあいきますよ。最初はグー、じゃんけん、ぽん!」
二人が同時にじゃんけんの手をつくった。
身も凍るような気持ちでその瞬間を見守る。
結果は……。
「電気ウナギくんがグーで、貴田さんがチョキ……。負けだ」
一目瞭然のことながら、天沢が勝敗を呟いた。貴田の目が大きく見開かれる。同時に、俺の心臓も縮み上がった。
「はは……ははっ。負けた……?」
信じられないというふうに、貴田がふらふらとその場に崩れ落ちる。俺は貴田の肩を掴み、「ごめん」と呟くしかなかった。
「ざんねーん! 貴田さんの負け。言ったでしょ、ワタシはグーを出すって。素直に先生の話は聞きましょうって、もう何回言わせたらいいんですか。じゃ、そんな捻くれ者の貴田さんと、哀れな人質の湯浅くん。仲良くさようなら〜」
ガチガチと、貴田の歯が震える音が一気に速くなる。
「やだ……いやだ! あたし、本当は真紘くんのこと、」
好きなの、という声は、バチンッ! という電流の音に弾けて消えた。
貴田、俺たち本当に馬鹿だな。
他人を傷つけて、自分は互いを救ったつもりになってるなんて。
天国で、また会おうな。