「それでは第四ゲームの内容を発表します。じゃじゃん! 第四ゲームは『サイコロゲーム』です。サイコロを三回転がして、出た目を足した数が大きい方が勝ちだよ」
 彼の手に、どこからともなくサイコロが現れる。ルール自体は最初のトランプの時と同じで、めちゃくちゃシンプルだ。というか、また運ゲーか。俺は咄嗟に武史を見る。彼は最初ゲームの内容に驚いている様子だったが、やがてニッと口の端を持ち上げた。
「本当に、サイコロの目を足して大きい方が勝ちになるんだな?」
「はい、もちろん。ワタシは一切嘘はつきませんよ」
「了解。じゃあ、そっちからどうぞ」
 二人分の命が懸っているのに、どうして武史はこうも冷静でいられるのだろうか。この運ゲーに何か策でもあるのか——疑問に思いながら武史の方を見ると、彼はやはりニヤニヤと笑いながら電気ウナギくんがサイコロを振るのを見守っていた。
 電気ウナギくんがサイコロを振った。
 一回目は三。二回目は五。三回目は……六。
 合計すると、十四。
「十四だと……」
 なかなか良い目が出てしまい、俺はごくりと生唾をのみこんだ。サイコロを三回振って出た目を足した数の中で一番大きいのは十八だ。六が三回出れば十八になる。そんな中、十四という数字は、こちらにとってはかなり不利な数じゃないか。
「武史」
 緊張しながら武史の名前を呼ぶ。武史は俺に向かって真顔で大きく頷いた。大丈夫、安心しろ——そんなふうに言っているように見えた。
「じゃあ次、俺の番だな」
 今までに聞いたことのないくらい真剣な声で、武史がサイコロを振りかぶった。
 そしてそのサイコロを——水平に投げた。
 三回とも、同じ容量で水平に。出た目はすべて六。そうか。武史は最初から六の目を上にしてサイコロを投げたのだ。絶対に六を三回出せる方法を思いついた彼に、俺は心の中で拍手喝采を送った。
「へへ、やったぞ! 足して十八! 俺の勝ちだな。どうりでおかしいと思ってたんだ。デスゲームなのに、運だけで勝ち負けが決まるってのがな。このゲームにもどこか抜け道があるんじゃないかって考えた俺、天才じゃね?」
 勝利を手にした武史は満足そうにニタリと頬を緩ませる。電気ウナギくんが、「あちゃー」と声を上げて、武史の方を見た。
「どうやら一矢報われたようですね——という言いたいところですが、大村武史くん。きみ、失格です」
「……は?」
「なんで?」
 俺と武史が同時に疑問の声を上げる。背中をツーっと冷たい汗が伝った。
「言ったでしょう? ルール説明の時に、『サイコロを三回転がして(・・・・)、出た目を足した数が大きい方が勝ち』だって」
「ああ、だから三回投げただろ!」
「だーかーらー、投げちゃダメなんだって。ちゃんと転がさないと(・・・・・・)。大村くん、きみはサイコロを水平に振っただけで、サイコロを転がしていない。先生の言うことはちゃんと真面目に聞かないとね? ルールを破ったので問答無用で失格でーす!」
 すっと武史の顔から血の気が引く。ついでに俺も。なんだ、これは。そんなの言葉の綾っていうやつじゃねえか——そう文句を言ってやりたいが、恐怖のあまり喉元で空気が掠れる音が漏れるだけだった。
「き、汚ったねえぞ! おい、良い加減にしろっ。本当に運ゲーだなんてふざけんな! というか皆木、本当はお前がこのゲームを仕組んだんだろ!? お前のせいで俺たちは死なないといけねえんだっ!」
 激昂した武史が皆木の首根っこを掴みにかかる。武史も、皆木がこのゲームを始めたのだと考えていたのか。ぼうっとする頭でただそれだけを思う。死を前にした俺は、武史のように猛り狂う気力がなかった。
「ち、違う。僕じゃない。僕はこんなことしない」
「しらばっくれやがって! てめえ、死にてえのか!?」
 武史の剣幕にしてやられたのか、皆木が片目をぎゅっと瞑る。そんな二人の間に割って入ったのは、なんと天沢だった。
「大村くん、やめて! 聖くんはそんなことするような人じゃないよ。聖くんのこといじめるみんなとは違う!」
 天沢の言葉に、皆木の両目が弾かれたように見開かれる。
「はあ? てめえ、不登校だかなんだか知らねえけど、外野のくせに生意気なこと言いやがって……!」
 武史の手が、今度は天沢の方へと伸びていく。あ、やばい。このまま女に手を出すのか——他人事のようにそう考えていた瞬間、「はいはい、静かにしてね」という電気ウナギくんの声が降ってきて。
 バチン! という凄まじい衝撃音が鳴った。途端、電気ショックが身体を貫き意識が遠のく。
「きゃああああああっ!」
 ああ、そうか。
 俺は結局武史の忠犬ハチ公のままで、死んでいくのか。
 それも悪くない。悪くない……なあ。
 皆木、悪かったな。
 今更謝ってももう遅いけど。