君の愛もいらない

   ◆

 その日は朝から雨が降っていた。春らしく、天気が定まらない時期だった。
 それでも、僕は浮かれていたと思う。
 高校は別だけど、僕たちの関係が変わることなんてないって、信じて疑わなかったから。
 瀬凪は、僕の家に泊まりに来ていた。内容は違うのに、一緒に春休みの宿題をしようって集まった。
 勉強して、ゲームして、漫画を読んで。
 ただただ楽しい、いつも通りの時間だった。
 でも、それは僕だけだったんだと思い知らされた。

 それは、朝ご飯を食べてすぐのことだった。
 夕方に帰る予定のはずなのに、瀬凪は僕の部屋に戻るとすぐに、荷物を片付け始めた。
 心なしか言葉数も減り、怒っているようにも見えた。

「瀬凪、もう帰るの?」

 瀬凪の様子を伺って言葉を発したのは、それが初めてだった。
 それくらい、話しかけにくい雰囲気をまとっていた。
 僕たちの間に流れる沈黙を、雨音が埋めていく。

「……ん」

 瀬凪は、たった一音で応える。
 僕は動揺が隠せなかった。
 そんなにも静かな瀬凪を、見たことがなかったから。

「どうして?」

 その質問には、答えてもらえなかった。

「雨降ってるし、まだいなよ」

 僕が引き留めようとしても、瀬凪は僕のほうを見なかった。
 荷物をまとめ終え、瀬凪はドアの前まで黙って進む。そしてドアノブに手をかけたけど、すぐには出て行かなかった。

「瀬凪?」

 僕はその寂しそうな背中に呼びかけた。
 それでも、瀬凪はこちらを振り返ったりはしなかった。

「……ごめん」

 瀬凪は一切表情を見せてくれなかったから、瀬凪がなにを思っていたのか、今でもわからない。
 なにに謝っているのだろうと疑問を抱いているうちに、瀬凪は僕の部屋を出て行った。
 そのとき、部屋の外の音が聞こえた。
 そうだ、雨が降っているんだ。
 昨日は雨の予感もなかったから、瀬凪は傘も持っていなかったはず。
 そう思って、僕は慌てて瀬凪を追いかけた。瀬凪はまだ玄関で靴を履いているところだった。

「瀬凪、傘は……」

 僕が言いかけたところで、瀬凪は玄関のドアを開けた。
 やっぱり雨は強くなっている。
 それなのに、瀬凪は一歩踏み出した。一瞬にして瀬凪は雨に濡れる。

「瀬凪待って。傘貸すから」

 僕が改めて呼んでも、瀬凪は構わず雨の中を進んだ。

「瀬凪!」

 玄関先まで出ると同時に、瀬凪が走り出してしまった。
 瀬凪は僕よりも運動ができる。つまり、瀬凪に追いつくことは不可能だ。
 僕は雨に打たれながら、小さくなっていく瀬凪の背中を見つめていた。

 少しして瀬凪に電話をかけた。
 だけど、繋がらなかった。
 いや、出てもらえなかったと言うのが正しいのかもしれない。
 それからだ。
 その日から、僕は瀬凪に会っていないし、連絡も取りあっていなかった。