『舞台で脚本や演技を侮辱すれば呪われる』
 それを最初にアレンに話したのは、彼の妹であるポーレットだった。
 初めて聞いたときは、ありがちな噂だと思った。月桂学園(げっけいがくえん)の演劇部は、全国的に見ても、演技力と演出がほかの学校の演劇部から一線を画している。そんな彼らのプライドから生まれた噂なのだと、アレンは決めつけた。
 しかし、その噂は本当だった。
 そう言わざるを得ないようなことが、現実に起こってしまったのだから。
 
♢♢♢

 静かになった屋敷。アレンがエントランスへ来た時、相手はすでにそこにいた。
 純白だったエプロンを深紅に染め、片方の手には赤黒くなったナイフを握ったその人物は、猫のような豪快なあくびをした。
 とろんとした目つき。しかし、その奥にいつもの剽軽(ひょうきん)さはない。
 メイド役の朝奈だった。
「やっほー」と手を振る朝奈を無視して、アレンは正面から向かい合った。
「これで……終わりだよ」
 アレンは言った。
「まさか、現実世界じゃないとはいえ、人殺しになるだなんて思わなかったー……」
 アレンは眉間にしわを寄せ、渋面を作る。「それは、俺だって同じだよ。物語のなかとはいえ、誰かを傷つけることになるだなんて……」
「でも、それももう終わりだねー」
「どの口が言ってるの?」
 そもそも、なぜアレンたちが脚本の世界に閉じ込められたのか。
 それは、予行公演が終わった後のことだった。