正門の前には、たくさんの卒業生やその家族が集まっている。つい先日卒業したばかりだというのに、すでに懐かしさを感じるのだから、人間は不思議だ。
不思議と言えば、あのゲームの存在だ。あの世界から戻った後、詩は市内の病院で目覚めた。どうやらステージから落ちた時に、頭を打ったらしい。幸い大事にはならなかったが、あの時は総身が冷える思いだったのは、言うまでもない。あれから二年。現実世界へ戻ってきた後、あの時のことを覚えていたのは、アレンいわく、彼と詩のふたりだけだったのだ。だが、それは正直疑わしいと、内心思っていた。というのも、あの後メイド役である朝奈が退部したのだ。中学三年生だったので、受験勉強のため、と思えばそれまでだが、詩にはどうもそうとは思えなかった。
実際、そうだった。
アレンは、詩にすべてのことを話してくれたのだ。ゲームの全容、朝奈が脚本の盗作をしていたこと、そして、それに気づいていながら、そのことを隠し続けていたこと。包み隠さずすべてを、詩に告白したのだ。彼は、軽蔑されると思っていたようだが、詩にその気は全くなかった。詩もなぜか、あの物語には強く惹かれたのだから、おあいこだと思ったのだ。
「あっ……」
校門からでてきた金髪の少年に、詩は思わず声を漏らした。あれから背がすっかりと伸び、いまでは詩よりも高くなっている。
「アレン……!」
詩が駆け寄ると、アレンは驚いたような顔をして、「う、詩さん……?」とつぶやく。声も、前より低くなっていた。
「どうしてここに?」
「いや……卒業まであんまり話す機会がなかったし、それに、海外に行くって聞いてたから……」
アレンは少し寂しそうな顔をして、「そうですね……」とつぶやいた。彼の長いまつげが、頬に儚げな影を映している。
「少し移動しましょう。ここは騒がしいので」
「う、うん」
アレンに導かれるまま、詩は学校から離れる。正門から少し離れた橋の上で、ふたりは対峙した。
「海外に留学するって聞いたときは驚いたけど……でも、アレンならやっていけるよね」
「別に、ひとりぼっちってわけでもないですからね。向こうには祖父母がいるので、なにかあったらそこを頼るつもりです」
「そっか……」
詩はもの悲しくなって、橋の下を見る。水がゆっくりと下流に向かって流れていく。詩も四月から大学生だ。
「俺、必ず日本に帰ってきます」アレンは言った。「その時に、聞いてほしい話があるので、その……待っててほしいんです」
「え?」
詩はきょとんとした。だが、すぐにふっと微笑んで見せる。
「……わかった。じゃあ、恋人も作らずに待ってるね」
しばしぽかんとした後、アレンはかっと顔を赤くして手すりに顔を伏せてしまった。
物語に、筋書きは存在しない。ひとの数だけ物語は存在しているのだ。
あの世界は、そういう世界なのだ。
だからこそ、侮辱してはいけないのだ。
そして、こんなうわさが存在するのだ。
『舞台で脚本や演技を侮辱すれば呪われる』
不思議と言えば、あのゲームの存在だ。あの世界から戻った後、詩は市内の病院で目覚めた。どうやらステージから落ちた時に、頭を打ったらしい。幸い大事にはならなかったが、あの時は総身が冷える思いだったのは、言うまでもない。あれから二年。現実世界へ戻ってきた後、あの時のことを覚えていたのは、アレンいわく、彼と詩のふたりだけだったのだ。だが、それは正直疑わしいと、内心思っていた。というのも、あの後メイド役である朝奈が退部したのだ。中学三年生だったので、受験勉強のため、と思えばそれまでだが、詩にはどうもそうとは思えなかった。
実際、そうだった。
アレンは、詩にすべてのことを話してくれたのだ。ゲームの全容、朝奈が脚本の盗作をしていたこと、そして、それに気づいていながら、そのことを隠し続けていたこと。包み隠さずすべてを、詩に告白したのだ。彼は、軽蔑されると思っていたようだが、詩にその気は全くなかった。詩もなぜか、あの物語には強く惹かれたのだから、おあいこだと思ったのだ。
「あっ……」
校門からでてきた金髪の少年に、詩は思わず声を漏らした。あれから背がすっかりと伸び、いまでは詩よりも高くなっている。
「アレン……!」
詩が駆け寄ると、アレンは驚いたような顔をして、「う、詩さん……?」とつぶやく。声も、前より低くなっていた。
「どうしてここに?」
「いや……卒業まであんまり話す機会がなかったし、それに、海外に行くって聞いてたから……」
アレンは少し寂しそうな顔をして、「そうですね……」とつぶやいた。彼の長いまつげが、頬に儚げな影を映している。
「少し移動しましょう。ここは騒がしいので」
「う、うん」
アレンに導かれるまま、詩は学校から離れる。正門から少し離れた橋の上で、ふたりは対峙した。
「海外に留学するって聞いたときは驚いたけど……でも、アレンならやっていけるよね」
「別に、ひとりぼっちってわけでもないですからね。向こうには祖父母がいるので、なにかあったらそこを頼るつもりです」
「そっか……」
詩はもの悲しくなって、橋の下を見る。水がゆっくりと下流に向かって流れていく。詩も四月から大学生だ。
「俺、必ず日本に帰ってきます」アレンは言った。「その時に、聞いてほしい話があるので、その……待っててほしいんです」
「え?」
詩はきょとんとした。だが、すぐにふっと微笑んで見せる。
「……わかった。じゃあ、恋人も作らずに待ってるね」
しばしぽかんとした後、アレンはかっと顔を赤くして手すりに顔を伏せてしまった。
物語に、筋書きは存在しない。ひとの数だけ物語は存在しているのだ。
あの世界は、そういう世界なのだ。
だからこそ、侮辱してはいけないのだ。
そして、こんなうわさが存在するのだ。
『舞台で脚本や演技を侮辱すれば呪われる』