咲きかけの桜の木の下で、アレンはひとつ、ため息をついた。その手には、卒業証書を入れる筒があった。
 あの摩訶不思議なデスゲームに巻き込まれて、もうすぐ二年になる。今日は卒業式だった。とはいえ中高一貫校なので、ほとんどは内部進学、ということになる。学校によっては中等部では卒業式をしないこともあるそうだが、うちの学校ではしっかりとするようだ。
 実際、アレンのように外部進学をする人間もいるのだから、友人との別れと中学の過程修了という節目に、このような式を催してくれるのは、ありがたい限りだ。 
「んもー、なんで内部進学しなかったわけ?」
 いつの間にか隣にいたポーレットが、不満げに問うてきた。アレンは四月から、父親の故郷であるフランスへ留学することになっている。
「何度も言ってるでしょ。俺はそもそも、演技がしたくて演劇部に入ったわけじゃなくて、衣装づくりがしたかっただけだから」
 そんななかで、座長のごり押しで役者になってみた結果、その演技力の高さから、ほぼレギュラーメンバーのようになってしまったのだ。
「あたしはこのまま役者になりたいなあ! だって楽しいんだもん!」
 ポーレットには、あのゲームの記憶はない。あの時のことを覚えているのは、アレンと朝奈、そして、詩だけだった。朝奈はあのゲームが終わった後、演劇部を辞め、外部の高校へと進学した。罪悪感でもあったのだろう。
 詩も、つい先日卒業していった。
「ま、アレンもほどほどに頑張りなさいよね。あたしは友達と写真撮ってくるから!」
 あわただしくその場から去るポーレットの背を見ながら、アレンはなんとなく、詩のことを思い浮かべた。