「――早番のみなさん、おはようございます! そして遅番だったみなさん、お疲れさまでした!」

 わたしはオーナーとして早番――これから勤務に入るスタッフたちと、遅番――昨夜から今朝にかけて勤務していたスタッフたちに、元気よく挨拶をした。みなさんから「おはようございます、「お疲れさまです」と挨拶が返ってくる。

 我が〈ホテルTEDDY〉のスタッフは基本的に早番・中番・遅番の三交代制で働いてもらっている。
 コンシェルジュも陸さんの他に交代要員としてあと二人、女性の()(えき)優梨(ゆり)さんと男性の本橋(もとはし)(あらた)さんがいる。今日の早番は優梨さんで、陸さんの仕事はこれで終わりのはずなのだけれど、彼は帰る支度をしていない。彼のことだから多分、まだ他のお客様からの要望を抱えているんだろう。

「……あれ、陸さんはまだ上がらないの?」

「ああ、俺はもうちょっと残って働く。休憩はちゃんと取るから心配しなくていいよ、オーナー」

「……いや、そういう問題じゃ」

 彼にキッパリ言い切られ、わたしは困惑した。
 わたしも本人の意思を尊重してあげたい気持ちはやまやまなのだけれど、経営者としてそうは問屋が卸さないのが現実なのだ。過重労働だ労基違反だと労働基準監督署やら厚生労働省やらから指導が来る。

「大丈夫だって。労働基準監督署だって、本人が働く意欲までは奪えないだろ」

「またそんな屁理屈を……。咎められるのは経営者のわたしなんだよ?」

「俺はただ、お客様の希望や要望を尊重して差し上げたいだけだ。役所のいうことなんかいちいちハイハイって聞いてられるか」

「…………」

 ……ダメだ。この人には何を言ってもムダだ。わたしは陸さんへの説得を諦めた。

「――今日からお泊まりになる、ご予約のお客様は?」

 ゴホンと一つ咳払いをして、フロント係の(いし)()志穂(しほ)さんと支配人の大森さんに訊ねる。

「今日は、()(ざき)様という親子連れのお客様が十三時にチェックインの予定でございます」

「田崎様……、聞いたことないなぁ。ご新規さまかな」

 志穂さんが答えてくれたけれど、初めて聞く名前にわたしは首を傾げる。毎年、この時期に親子連れのお客様がこのホテルをご利用して下さっていることは憶えているけれど、名字が違っていたような……。

「いえ、毎年この時期に宿泊されているそうでございますよ。何でも、お嬢さんの美優(みゆ)様のお誕生日をお祝いされるとかで」

「美優ちゃん……、ああ! あの子か」

 大森さんの話で思い出した。毎年、このホテルでお誕生日のケーキを注文されるお客様がいることを。そのケーキが美優ちゃんという可愛いお嬢さんのためだったのだ。確か、今年で六歳になるはずだ。