セイラは、惑星Nが滅びた有様を全て豊久に話した。頭の回転の速い豊久は、セイラが言わんとすることが分かった。
「要するに、君たちの惑星の二の舞にならないように政治運営をすればいいってことでしょ? でも、僕は科学者になりたい。総理大臣なんてなりたくない。僕のおじいさんが政治家だった。でもおじいさんは、広島で被爆してから政治家になって、ひどい差別をされた。そしておじいさんは、そんな差別や分断のある世界は、ダメだと主張して総理大臣になろうとした。そしたら殺された。僕が小学生の時だよ。何で、おじいさんは死ななければならなかったの? 僕にとっては、優しいおじいさんだった。大好きだった」
豊久の目には、大粒の涙で溢れていた。
「そうだったのね」
セイラは、会ったことはなかったが、祖父高岡俊二の話を雄二から聞いていた。祖父と、豊久のおじいさんがダブって見えた。だから軽々しくは、セイラも言えなかった。
「僕は科学者になって、夢をかなえたい。宇宙の始まりと、終わりを発見したい。君は百億光年先の過去から来た。だから僕は君の話に興味を持った。ねえ良かったらうちの両親に相談するから、部屋が一つ空いているから、そこで一緒に住まない? 行く宛て、ないよね?」
セイラは、この子が父と母のビデオメッセージで言っていた男の子だと確信した。
「ありがとう。助かるよ。でもどうやってあなたのご両親に私を紹介するの?」
「そこは任せておいて!」
豊久は自信ありげに言った。

 丘を降りると、そこには大きな家が建っていた。豊久の実家である。
「ここが、僕の家だよ」
「わー、すごい! 大きなお家なのね?」
「うん。まあね」
すると豊久の母が出てきた。あたり一帯は暗くて、豊久の後ろにいたセイラには、彼女は気づいてないようである。
「あら、豊久! 蛍はいたの?」
彼女は、眼鏡を掛けた教育ママのように、セイラには見えた。
「蛍はいなかったけど、宇宙人に会えたよ!」
「バカ! 本当のことを言っちゃダメだよ!」
セイラは、豊久が、融通が利かないことに頭を抱え込んだ。しかし豊久の母は、意外な反応を示した。
「あら、どこの星の方?」
「地球から約百億光年先の惑星Nという星出身です」
セイラは、咄嗟に真面目に答えた。
「そうなの? まー、そんな遠いところから! 豊久、部屋が一部屋空いているから、そこに案内しなさい」
豊久は、母の反応に驚いた。
「母さん、びっくりしないの? 驚かないの?」
「私は光栄だよ。家を選んでくれて。同じ宇宙家族じゃないの、豊久!」
「えー?」
豊久は母に感嘆したと共に、違和感を覚えた。そこにセイラが豊久の耳元に口を挟んだ。
「大丈夫。お母さんには、私の香水の匂いを嗅がせているから、今のお母さんは宇宙規模で物事を考えられるようになったの。それだけよ」
すると奥の居間から、豊久の父も出てきた。
「おい、お客さんかい?」
「初めまして、惑星Nから来ました、高岡セイラです」
「大変だったね! 惑星ごと亡くなって」
「え? どうして、父さんがそれを?」
「だから、私の香水のせいよ」
再び驚く豊久に、セイラはまた彼の耳元で口を挟んだ。
「セイラちゃん、良かったら家の養子にならないかね?」
豊久の父は、矢継ぎ早に言った。セイラは、豊久に目配せをした。
「はい。お父様、お母様さえ、よろしければ。喜んで!」
「あ、そうそうわしは、豊造って名前だよ。こっちは、美咲だよ」
豊造は、隣にいた妻を紹介した。
「初めまして、セイラちゃん。美咲よ。今日は疲れているだろうから、お風呂に入ってゆっくり寝てね」
「ありがとうごいざいます。では、そうさせてもらいます」
この一部始終を見ていた豊久は、開いた口が塞がらなかった。
「君ってやつは、全く油断も隙もあったものじゃない」
セイラは微笑んだ。豊久は諦めモードに突入した。セイラには敵わない。直感的に豊久は、そう感じた。これから俺どうなるの? 豊久はふとそう思ったようだった。

 セイラはこの家で、蛍のように暗がりを照らし出した。