宇宙船は、同じスピードで進む。太陽系に入る直前、セイラは目を覚ました。「お父さん、お母さん、どこ?」
セイラは寝ぼけていた。だが自分が、雄二からもらった水色の宇宙服を着ているのを見て、自分の現在地を悟った。
「そうだ。私は地球という星に行って、私の故郷惑星Nがどうして核戦争をして滅びたのか、地球人に伝えなければならない! それがお父さんと、お母さんの遺言。セイラは神妙な面持ちになった。セイラの感覚では、一晩寝て起きた感覚なのだが、もうすぐ惑星Nから百億光年離れていた地球に着く。ふとビデオテープが置いてあることに、セイラは気づいた。ビデオテープを再生すると、父と母が映し出された。
「セイラ、これを見ている頃にはもうすぐ地球だね。まず地球の日本という国の横浜市旭区の裏山にこの機体は着陸する予定だ。横浜は、この国の首都東京の郊外にある。そこにポケットサイズの翻訳機があるから、ここで現地の言語、日本語に合わせればいい。そうすれば日本語で、セイラは話せるようになる」
雄二は説明を急いでいるようだった。
「お母さんからもセイラに説明するわ。着いたら機体の到着音は、一人の男の子にしか聞こえないように設定されているから、その点は安心してね」
美奈も急いで説明しているようにセイラは感じた。
「肝心のその男の子だが、機体到着後から約三十二年後に、その国の総理大臣になる子だ。彼のご家族は資産家であったが、子供は彼しかいない。家も大きい方だ。きっと彼のご家族が、セイラを受け入れてくれるに違いない。それと到着後の翌年一月十七日に、兵庫県というところを中心とした大地震が起こる。また、到着後から約七年後、アメリカという大国で同時多発テロが、九月十一日に起こる。それによりアメリカは戦争に突入する」
「セイラ、もうすぐ到着よ。元気でね!」
美奈の言う通り、機体はもうすぐ地球だ。
「わー、惑星Nと似て、何て美しい星なの?」
セイラは、思わず叫んだと同時に不思議な気持ちになった。
「セイラ、最後に伝えたいことがある。お父さんは、宇宙はまだまだ広すぎて、分からないことが多いけど、この宇宙には始まりも終わりもない。無始無終なんじゃないかってね。要するにどこかで軌道が丸くなっている。だから同じところをぐるぐる回っている。惑星Nからしたらは、地球は約百億光年後の世界だ。地球からしたら惑星Nは、約は百億光年前の世界だ。と同時に、地球から、約百億光年後の世界なのかもしれない。よく考えてくれ。それじゃあな」
最後に雄二から言われたことの意味に、セイラはきょとんとするばかりだった。
機体は、まもなく地球の大気圏に突入する。セイラは、ドキドキと共に、ワクワク感も出てきた。最後に雄二から言われたことの意味を見つけてやろうと思うと、不安が消えた。大気圏に突入した機体は、揺れに揺れた。そして着陸した。一人の少年を除いて、付近は静まり返っていた。

  ピカ、ゴオーン ドーン!

それは一九九四年五月の連休が明けて、蛍のシーズンが近づいてきたある夜のことだった。
十五歳の中学生、大嶋豊久は家の三階の窓から、夜空を見上げていた。すると流れ星のようなものが、夜空から、横浜市旭区の自宅裏山に落ちた。その大きな音に、彼はびっくりした。家族を呼ぶも、誰もその音には気づいてはいない。彼は仕方なしに、一人で、夜の裏山へと向かった。家族には蛍を見てくると言い残して、家を出た。

 現場付近に行くと、何やらロケットらしき物体があった。しばらく遠くから豊久は、それを観察していると、そのロケットから自分と年齢が同じくらいの女の子が降りてきた。

 豊久は、怖くなり、つい声をあげてしまった。それに気づいた女の子は、豊久の方へと近づいてきた。豊久は、動けなかった。

 それを見ていた女の子は、ケラケラと笑い出した。彼女は豊久に話しかけるも、言葉が通じなかったため、宇宙言語翻訳機を使い、豊久に日本語で話しかけた。

「何でそんなに驚いているの? 私は化け物じゃないわ」
「ひぇー、しゃべった!」
「そりゃしゃべるわよ!」
「だって、君宇宙人でしょ? 何で日本語が話せるの?」
「この宇宙言語翻訳機のおかげよ」
女の子は得意げに言った。
「はあ、宇宙人がいる!」
なおも豊久は、驚き続けて痙攣(けいれん)しそうになっていた。
「あなたは誰?」
女の子は尋ねた。
「それ、こっちのセリフだから! 君こそ誰?」
「私、高岡セイラ。ここから百億光年先の惑星Nから、あなたたち地球人に伝えなければならないことがあって来たの」
「セイラか。僕は大嶋豊久。中学三年生だよ」
「中学三年生? ということは、十五歳?」
「そうだけど」
「私も十五歳!」
「え、でも百億光年かけて、地球へ来たのでしょ? そしたら百億十五歳じゃないの?」
「うるさい! コールドスリープ、まあいわゆる冷凍睡眠を使って、カプセルの中で、老いないようになっていたの」
「ま、どっちにしても百億十五歳か」
「コラ!」
セイラと豊久は爆笑した。
「コールドスリープ、すげえ! ねえ、さっき言っていた、地球人に伝えなければならないメッセージって何?」
その瞬間、セイラは顔をこわばらせた。
「今から三十二年後に起こりえることを伝えに来たの」
「三十二年後? 僕は、そのころ四十六歳になっているよ」
「そしてあなたは、この国の総理大臣になっている」
「え? 僕が! そんな、まさか!」
「えー、そうなのよ。だからあなたにしか、このロケットが着陸した時の音は聞こえなかったの」
「なるほどね」
豊久は感心しきっていた。
「ねえ、じゃあこの先未来に何が起こるかも知っているの」
「来年一九九五年一月に、兵庫県を中心にした大震災が起こる。今から七年後、アメリカで同時多発テロが起こる。それによりアメリカは戦争に突入する」
「へー。でも本当にそんなこと起こるの?」
「あなたたちには、時間が必要ね」
「ね、それで今から三十二年後の二〇二六年頃に何が起こるの?」
「核戦争よ!」
「え? 噓でしょ!」
「だからあなたには、日本の総理大臣になった暁(あかつき)には、その核戦争を止めて欲しいの!」
「でも、どうやって?」