惑星Nで唯一の被爆国ということもあり、小国連合の代表的地位に就いていたJ国だったが、右傾化が進み人々は被爆者の言ってきたことなどなかったことにしようとしていた。いや実際、皆自分が被爆したことがなかったから、簡単に核のボタンを押せると思っていた。しかしいざ自分が核のボタンを押し、核戦争をしかけられる立場になった与田総理は、躊躇していた。いや与田総理だけではない。シュリンプ大統領も、ユーチン大統領も、誰も核戦争など望んでいない。それは自殺行為だからである。

 しかしながらシュリンプがユーチンの味方をして、次々とユーチンが侵略した戦争を、シュリンプがユーチンの有利に終わらせる。戦争は終わるが、小国は不満が高まる。そして勝手にシュリンプはノーベル平和賞ものの働きをしたと勘違いする。もう小国は、二人の独裁者に対して、我慢の限界に達していたのである。

 雄二は大人になり、美奈と結婚した。そして二人は、セイラという女の子を授かった。雄二は、コールドスリープ(冷凍睡眠)を使って、カプセルロケットでこの星から脱出する方法を考える会社を起ち上げていた。
「パパ、何やっているの? 幼いセイラは、好奇心で、よく雄二の仕事を邪魔してきた」
その度に雄二は、父のような仕事人間になっては子供が可哀そうだと思い、セイラをあやしながら仕事していた。
「セイラとパパ、ママで、将来宇宙旅行に行こう。その時に必要な宇宙船をパパは今作っているよ。将来、いろんな星に行けるよ、セイラ!」
「パパとママとセイラで、みんなで宇宙旅行に行くの?」
「そうだよ」
「わー、楽しそう!」
セイラは無邪気に笑った。彼女は髪をブロンドヘアーにしていた。そして水玉模様のドレスをよく着ていた。
「よーし、そしたら水玉模様の宇宙服も、セイラのために作っておくよ!」
雄二は、セイラにいつも甘い。こんな話を毎日のようにしながら、カプセルロケット宇宙船の開発を進めてきた。そしてコールドスリープの実用化に向けて、厚生宇宙省の役人と話も進めていた。しかし話はいつも受け入れてもらえない。彼が、高岡俊二総理の息子、高岡雄二だからだ。彼の会社はいつも目を付けられていた。特に厚宇省の役人からは、相当目を付けられていた。

雄二の宇宙船開発と、コールドスリープカプセル開発は、その間にも着々と進み完成間近になっていた。しかし一つだけ誤算があった。カプセルロケット宇宙船は、どう作っても一人が定員であった。それ以上の人数が乗れば、この惑星Nの大気圏を突破する時、摩擦熱と惑星Nの古代人が作った人工太陽に見つかって地上に熱風で戻されてしまう。そう、この人工太陽は、惑星Nの人間が宇宙へ出ていくことをもともと監視する役割も担っていたのだ。理由は分からない。ただもし核戦争になり、この惑星Nごと吹っ飛べば、状況は変わるだろうと雄二は考えていた。そのためにはタイミングが大事になる。核戦争で、惑星Nごと吹っ飛ぶ少し前に宇宙船を発射せねばならない。そのタイミングなど、与田総理と、ユーチン大統領、シュリンプ大統領がいつ核攻撃のボタンを押すかにかかっている。庶民には分からない。いや国会議員ですら分からない。総理、大統領の特権であるとともに、頭痛の種なのだ。