「速報です。被爆者で、一貫して我が国の核武装に反対してきた、総理の高岡俊二夫妻が撃たれました。頭を銃が貫通しており、夫妻とも即死の模様です。犯行声明は出されており、核武装支持者の男だとのことです。警察は男を緊急逮捕しました」
夕方学校から帰ると、テレビの速報で雄二は両親を亡くしたことに気づいた。
「そ、そんな! 嘘だろ! 嘘だって言ってくれよ! 何だよ、これ!」
雄二はテレビに向かって、怒鳴りだした。その私を制止しようと、美奈は必死だった。
「ダメ、雄二さん! 私が付いているから。これからどんな時も私が付いているから! 落ち着いて!」
その声に雄二は我に返った。総理の息子の私よりも、この時、この瞬間を分かっていたかのような美奈の態度だった。
「ワー、嫌だよ! ふざけるなよ! 返せよ俺の親父とお袋! あー、もー!」
雄二は、美奈に抱きつきながら泣いていた。初めてのことだった。こんなに泣いたことは、今までなかった。雄二の感情は爆発し、壊れてしまった。立ち直れない。雄二はそんな気がした。今まで、美香の前でさえ、こんなに泣いたことはなかった。そんな雄二が美奈の前で大泣きしていた。美奈の着物は、いつの間にか、雄二の涙でびしょ濡れになっていた。不思議な感覚でもあった。自分の感情を、誰かの前で本気で見せるのはこれが初めてだった。なぜそれが美香ではなく、美奈だったのだろうか? 雄二は考え込んでしまった。そのまま雄二は、二、三日寝込んでしまった。その間美奈は雄二の看病を必死にしてくれた。雄二は、適応障害と医師から診断された。今の現実が、彼の生きてきた現実世界でなくなってしまった。
彼の両親を殺した実行犯は、彼より少し年上の二十代の男だった。無論被爆者ではない。被爆者が、核兵器の恐ろしさを語ってきた。しかし、核兵器の本当の恐ろしさは、実際に被爆した者にしか分からない。ゆえに男は犯行に及んだ。そして、父の後を継いだ橋場内閣は、短命政権に終わった。核武装推進の野党第一党民衆党の与田内閣が発足し、いよいよJ国も核武装法案が可決されてしまった。
美香とはその後会ってない。後で聞いた話だが、美香は野党第一党民衆党のスパイAIロボットだったのだ。そのことが公然になるや否や、美香は爆破装置により破壊された。雄二の心の内は複雑だった。かつての初恋相手がスパイだった。そして、破壊された。雄二は自身が未熟だったと感じたと共に、父俊二に美奈のような深い愛情で包み込んでくれる許嫁に決めてくれて感謝の思いになった。父母の墓前で、雄二は涙した。