二人は同じ高校・大学へ行き、社会人になっていた。豊久二十四歳。科学に没頭していたが、世の中の政治でしか変えられないことがあることも分かってきた。それが二〇〇五年の郵政民営化解散総選挙で、豊久は立候補した。だが豊久の心にはいつも庶民がいた。被爆して世の中を変えたいと思い、総理に立候補し、暗殺された祖父の無念を晴らしたい。そして本当の意味で平和な世界を築きたい。そう思っていた。しかしそんな豊久を支えてくれていたセイラは、その年余命半年のがんにかかってしまった。

「セイラ、せっかくこれからって時に、どうして!」
豊久は彼女の見舞いに来ていた。
「ごめん。ごめん。コールドスリープしたからとはいえ、もう百億ニ十五歳なの。もう長くないって思いながら、ここまで大往生でしょ?」
セイラは冗談を言った。
「セイラがいなくなったら、僕どうしたらいいの?」
豊久の顔は、青白くなっていった。
「豊久なら、きっと大丈夫だよ! 私がいなくても、もう大丈夫だよ!」
「え、どういう意味?」
「そのままの意味!」
「そもそも自分の星は、自分で守らなくちゃ! あ、でも私たちは守れなかったけどね。豊久がこれから政治経験を積んでいけば、きっと大丈夫。だけど唯一心配なことがあるとしたら」
「あるとしたら?」
「政治家って、先生って呼ばれるでしょ?」
「うん」
「それで、自分は人と違うって、うぬぼれる輩が出てくるの。そうなった時に、同じように傲慢にならないことが大切よ! 弱い人たちの心が分からなくなったら、核戦争は止められない。絶対に!」
「それは?」
「あとは自分で考えて」
「分かったよ」
それからというもの、豊久は思案に明け暮れるようになっていった。その半年後、セイラは亡くなった。とうとう豊久だけになってしまった。孤独が彼を襲う。しかしこの孤独をセイラは、ずっと抱えていたのかと思うと、豊久は自分が何とかしなくてはと思った。
 時は二〇二五年一月、豊久は外務大臣などの閣僚経験を経て、第百〇代総理大臣になった。一方アメリカ合衆国では、ドナルゾ・スランプ大統領が誕生していた。スランプ大統領は、惑星Nのシュリンプ大統領のように、強国ロシアの独裁者ヒーチンと手を組んだ。弱い者いじめの構図で、弱小国に諦めさせ、戦争を終らせるという手法だ。豊久総理は、国内では、核武装論。外交では、スランプのやり方に対応せねばならず、毎日寸暇を惜しんで仕事に全うした。

 そんなある日、とうとう野党と与党の右派の人間たちに押され、日本国の核武装案が締結された。これには、北の将軍様もご立腹だった。ますますロシアと、北を怒らせてしまう。しかし豊久が電撃訪朝すると、流れが変わってきた。北に、大量の豚汁を寄付する見返りに、核兵器の使用を控えてもらうという条約を結んだ。しかしこの豚汁外交が弱腰だと映り、豊久までもが暗殺される。彼の後に総理に就任した農家総理は、今度は日本ファーストで内政しか行わず、アメリカファーストのようにもいかずに短命政権で終わる。

 二〇二六年我慢の限界を迎えた北は、日本との豚汁条約を破棄し、アメリカと日本だけでなく、ロシアにも核ミサイルを発射してしまう。歴史は繰り返す。豊久の息子は、コールドスリープを使い、カプセル宇宙船で脱出し、百億光年先の、新惑星Nに向かうことになる。地球は無残にも、きのこ雲が立ち、惑星Nの二の舞となってしまった。
「皆バカだよ! 自分が気にいらないと、排除する。そして力による平和を追求するから、そのバランスが崩れた時、核戦争になった。それも被爆者の意見を無視して。所詮偉そうに核武装しろよって言うやつに限って、被爆者じゃない。分からない奴らが核武装したがる。無念だ」
豊平(とよひら)は、消えゆく地球を見ながら吐き出した。彼が向かう新惑星Nは、地球と百八十度反対に位置している。そう、あの惑星Nは、再び星の誕生を迎えようとしているのだ。今度こそ負の歴史を止めに、豊平は行く。