はじめまして。美月と申します。
突然出てきた私という人間に「誰だ?」と疑問を抱かれたことでしょう。
それとも、この本を読んでくださった方ならばなんとなくお分かりでしょうか。
私は、萌生さんとXで仲良くさせていただいていた、創作仲間の美月です。本書の中でもそのまま「美月」という名前で登場させてもらったので、ここでもXのアカウント名で語らせていただくことになりました。
私がここにコメントを残したのには、理由があります。
本書『そのタイトルを禁句にします。』の作者である葉方萌生さんが、消息を絶ってしまったからです。
本来であれば、この本は出版されない予定でした。
ですが、なんとかして萌生さんの声を世間に届けたい——その一心で、私はスターツ出版に掛け合い、なんとかこの本を出版していただく運びになりました。
最後の最後でこうして私が筆を取っているのは、いなくなってしまった萌生さんのことを、偲んでいるからに他なりません。
ここから先は、私の気持ちを素直に綴りたかったこともあり、少々砕けた口調で語らせてください。
彼女と一度も会ったことのない私ですが、彼女を慕っていた友人の一人として、最後に私の想いを聞いてくださると幸いです。
□ □ □
2025年がもう、終わろうとしている。
つい先日、年が明けたばかりだと思っていた。本業に、趣味の執筆に……と忙しくしていると、本当にあっという間に時間が過ぎてしまう。
2026年が始まったら、萌生さんがいなくなってもう1年か——。
2025年1月27日に締切を迎えたノベマ!の「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」に、創作仲間だった葉方萌生さんが作品を応募していた。『そのタイトルを禁句にします。』という作品だ。当該作品は見事特別賞を受賞し、私たち仲間の間では祝福ムードが漂っていたのだけれど。
受賞発表が行われた日、当の本人からは何の反応もなかった。
それどころか、萌生さんはコンテストが締め切られた日を境に、Xに一度も投稿をしていない。私は、彼女が長期的な体調不良に陥っていたことを知っていたので、調子が悪く投稿もできない状態なのだと思っていた。何度かDMをしてみたけれど、比較的返信が早い彼女にしては珍しく、ずっと返信がない。よっぽど体調が悪いのだと思っていた。
それに、「69,」のこともあり、気が気ではなかった。
彼女と頻繁にDMでやり取りをしていたころ、私たちは「69,」の怪異について調べようとしていた。「69,」の感想コメントが書き込まれ始めて半年以上が経っても、運営の方で原因が分からなかったようで、ノベマ!のサイトごとリニューアルが行われることになった。それが、今年の4月のことだ。今のところ、新しいサイトでは「69,」からのコメントの被害はないらしい。けれど私は、「69,」の怪異が終わったとは思っていない。だって、「69,」は人ならざるもの——萌生さんともそんなふうに話していた。
またいつか、「69,」は新しいサイトの方にも現れるんじゃないかって。
ずっと、私は恐怖が拭えずにいる……。
萌生さんの受賞した作品は、作者消息不明ということで、出版には至らないはずだった。だが、私は編集部に必死に掛け合って、彼女の本を出版してほしいと頼み込んだ。彼女のご家族の方とも相談して、なんとかこの本をお届けすることができたのだ。彼女のご家族は、萌生さんが大阪で一人暮らしをしていることを教えてくれたが、彼女が仕事を辞めていることは知らなかった。連絡をしてももちろん返事もなく、一人暮らしの家はもぬけの殻状態だと言った。ご両親は二人とも顔を真っ青にしていて、見るに耐えない状態だった。
萌生さん、一体あなたはどこへ消えてしまったの……?
最近、全国各地で行方不明者が多発していること、また行方不明だった人が首を絞められて殺されていたことが発覚したなど、似たような事件を報道するニュースが増えた。
年齢も性別もバラバラで、単なる自殺ではないかと憶測する人たちがいる一方、同一犯による連続殺人事件ではないかと疑う声も多数上がっている。
そんな中、萌生さんが最後に遺した本小説——『そのタイトルを禁句にします。』に記された、あの絶版本のことが頭をよぎった。
殺された人たちはみんな、あの神谷先生の本のタイトルを口にしてしまったんじゃないだろうか——……。
おそらく、ニュースでは亡くなった人たちが彼の本を好んで読んでいたかどうかなど、それほど細かい情報は流れていないだろう。警察がそんな些細なことまで調べているかどうかも怪しい。本のタイトルと事件を結びつけられる人間がいるとは思えない。答えは、萌生さんの書いた小説の中にしか、ない気がするのだ。
だから私は、もう一度声を大にして言いたい。
神谷結人の本——『莠ャ驛ス蟄ヲ逕滓オェ貍ォ』のタイトルを、禁句にします。
絶対に口に出してはいけません。
そしてどうか、この本の作者である葉方萌生さんの所在を知っている方がいれば、情報をください。出版社か、私のXにご連絡していただければと思います。念のため、問い合わせ先の情報を記載しておきます。
○スターツ出版へのご連絡
--------------------------------------------
〒104-0031
東京都中央区京橋*******
スターツ出版編集部
Mail:starts-info @*******
TEL:03-××××−△△△△
--------------------------------------------
○「美月」のXへのご連絡
https://x.com/miduki_815
□ □ □
本書をお読みくださっている皆様が、今の私の希望です。
どうかよろしくお願いします。
突然出てきた私という人間に「誰だ?」と疑問を抱かれたことでしょう。
それとも、この本を読んでくださった方ならばなんとなくお分かりでしょうか。
私は、萌生さんとXで仲良くさせていただいていた、創作仲間の美月です。本書の中でもそのまま「美月」という名前で登場させてもらったので、ここでもXのアカウント名で語らせていただくことになりました。
私がここにコメントを残したのには、理由があります。
本書『そのタイトルを禁句にします。』の作者である葉方萌生さんが、消息を絶ってしまったからです。
本来であれば、この本は出版されない予定でした。
ですが、なんとかして萌生さんの声を世間に届けたい——その一心で、私はスターツ出版に掛け合い、なんとかこの本を出版していただく運びになりました。
最後の最後でこうして私が筆を取っているのは、いなくなってしまった萌生さんのことを、偲んでいるからに他なりません。
ここから先は、私の気持ちを素直に綴りたかったこともあり、少々砕けた口調で語らせてください。
彼女と一度も会ったことのない私ですが、彼女を慕っていた友人の一人として、最後に私の想いを聞いてくださると幸いです。
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2025年がもう、終わろうとしている。
つい先日、年が明けたばかりだと思っていた。本業に、趣味の執筆に……と忙しくしていると、本当にあっという間に時間が過ぎてしまう。
2026年が始まったら、萌生さんがいなくなってもう1年か——。
2025年1月27日に締切を迎えたノベマ!の「モキュメンタリーホラー小説コンテスト」に、創作仲間だった葉方萌生さんが作品を応募していた。『そのタイトルを禁句にします。』という作品だ。当該作品は見事特別賞を受賞し、私たち仲間の間では祝福ムードが漂っていたのだけれど。
受賞発表が行われた日、当の本人からは何の反応もなかった。
それどころか、萌生さんはコンテストが締め切られた日を境に、Xに一度も投稿をしていない。私は、彼女が長期的な体調不良に陥っていたことを知っていたので、調子が悪く投稿もできない状態なのだと思っていた。何度かDMをしてみたけれど、比較的返信が早い彼女にしては珍しく、ずっと返信がない。よっぽど体調が悪いのだと思っていた。
それに、「69,」のこともあり、気が気ではなかった。
彼女と頻繁にDMでやり取りをしていたころ、私たちは「69,」の怪異について調べようとしていた。「69,」の感想コメントが書き込まれ始めて半年以上が経っても、運営の方で原因が分からなかったようで、ノベマ!のサイトごとリニューアルが行われることになった。それが、今年の4月のことだ。今のところ、新しいサイトでは「69,」からのコメントの被害はないらしい。けれど私は、「69,」の怪異が終わったとは思っていない。だって、「69,」は人ならざるもの——萌生さんともそんなふうに話していた。
またいつか、「69,」は新しいサイトの方にも現れるんじゃないかって。
ずっと、私は恐怖が拭えずにいる……。
萌生さんの受賞した作品は、作者消息不明ということで、出版には至らないはずだった。だが、私は編集部に必死に掛け合って、彼女の本を出版してほしいと頼み込んだ。彼女のご家族の方とも相談して、なんとかこの本をお届けすることができたのだ。彼女のご家族は、萌生さんが大阪で一人暮らしをしていることを教えてくれたが、彼女が仕事を辞めていることは知らなかった。連絡をしてももちろん返事もなく、一人暮らしの家はもぬけの殻状態だと言った。ご両親は二人とも顔を真っ青にしていて、見るに耐えない状態だった。
萌生さん、一体あなたはどこへ消えてしまったの……?
最近、全国各地で行方不明者が多発していること、また行方不明だった人が首を絞められて殺されていたことが発覚したなど、似たような事件を報道するニュースが増えた。
年齢も性別もバラバラで、単なる自殺ではないかと憶測する人たちがいる一方、同一犯による連続殺人事件ではないかと疑う声も多数上がっている。
そんな中、萌生さんが最後に遺した本小説——『そのタイトルを禁句にします。』に記された、あの絶版本のことが頭をよぎった。
殺された人たちはみんな、あの神谷先生の本のタイトルを口にしてしまったんじゃないだろうか——……。
おそらく、ニュースでは亡くなった人たちが彼の本を好んで読んでいたかどうかなど、それほど細かい情報は流れていないだろう。警察がそんな些細なことまで調べているかどうかも怪しい。本のタイトルと事件を結びつけられる人間がいるとは思えない。答えは、萌生さんの書いた小説の中にしか、ない気がするのだ。
だから私は、もう一度声を大にして言いたい。
神谷結人の本——『莠ャ驛ス蟄ヲ逕滓オェ貍ォ』のタイトルを、禁句にします。
絶対に口に出してはいけません。
そしてどうか、この本の作者である葉方萌生さんの所在を知っている方がいれば、情報をください。出版社か、私のXにご連絡していただければと思います。念のため、問い合わせ先の情報を記載しておきます。
○スターツ出版へのご連絡
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〒104-0031
東京都中央区京橋*******
スターツ出版編集部
Mail:starts-info @*******
TEL:03-××××−△△△△
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○「美月」のXへのご連絡
https://x.com/miduki_815
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本書をお読みくださっている皆様が、今の私の希望です。
どうかよろしくお願いします。