それからすぐに着信が鳴った。アプリの電話ではなく、通常の電話だった。通話ボタンを押すと、久しぶりに聞いた彼の息遣いに、やっぱり胸が高鳴ってしまう。
『えっと、電話、久しぶりだな。急にごめん』
「いや、大丈夫。文面で話すより電話で話す方が手っ取り早くて楽だもんね」
『そうそう。込み入った話の時は電話派かな。それより大丈夫か? 鼻声みたいだけど』
「ああ、実は昨日ちょっと熱があって、今日もまだ微熱なんだけど。でもしんどくはないから大丈夫」
『そうか。それは大変だな。あまり長くならないようにするわ』
「お気遣いありがとう」
結人とならば、どんなに長く電話をしていても平気なのだけれど、気遣ってくれた手前、さすがにご厚意を無碍にするわけにはいかない。また元気になってから思う存分電話をしようと、密かに決意した。
『さっきの話の続きなんだけど、ノベマ!で不審なコメントか……。実はここ何週間か、新刊の準備の方が忙しくて、ノベマ!での執筆があんまりできてなくてさ、サイトも見てなかったんだ。しばらくマイページも開いてなかったから、ちょっと待ってな。今確認するわ』
結人がそう言うと、パソコンのキーボードをカタカタと打ち込む音がした。どうやらパソコンでノベマ!を開いているらしい。少しすると、「まじかよ……」と彼が呟く声が聞こえてきた。
「結人、どうかした……?」
恐る恐る尋ねてみる。
結人はしばらく言葉を失っていたが、やがて「来てる」と返事をしてくれた。
『「69,」からのコメント、俺の作品にも来てるわ。昨日から今日にかけて。内容は——』
そこで電話の声が途切れた。どうしたんだろう、と訝しがっていると、彼は「……なあ、萌生の方でもノベマ!で確認してもらえないか? コメント全部読み上げるの、なんか大変そうだ。『十年越しのこの愛にさよならを』っていう最新作に感想が来てる。この作品、俺のデビュー作の続きみたいなもんなんだけど。あの作品には思い入れがあったから、別名義でまた書いてみようと思って」と言った。
私は彼の指示通り、スマホでノベマ!を開く。「榊しのぶ」という作家名を検索して、彼の最新作をタップした。最終更新日は7月頭になっている。感想欄を見ると——なんとそこには、20件もの感想が書き込まれていた。
「——え?」
20件?
感想コメントが投稿された日付を見ると、彼の言う通り昨日と今日にすべて書き込まれたものだった。
【ねえ、まだみてくれてないかな?】
2024/08/08/09:03
【でもへいき。あなたがきづいてくれるまで、ここでかきこみをつづけるからね】
2024/08/08/11:34
【きのうのコメント、もうけされちゃってるね】
2024/08/08/12:41
【なんかいけしたっていみないのに】
2024/08/08/14:09
【あなたはわたしのものだし】
2024/08/08/16:16
【ほかのやつらがかくれんあいしょうせつなんて、うすっぺらくてきらい】
2024/08/08/18:56
【とくにあのおんなの……せいかくのわるさがにじみでてるよねえ】
2024/08/08/19:10
【ひとのおとこをとっておいて、よくへいきでじゅんあいしょうせつなんかかけるね】
2024/08/08/21:33
【あいつのしょうせつ、わたしとあなたとあいつのことがかかれてた】
2024/08/08/23:45
【ゆるせないゆるせない】
2024/08/09/03:04
【あなたはわたしのものなのに、あいつのしょうせつではちがっていた】
2024/08/09/04:52
【あいつのしょうせつでは、あなたはあいつのものだってことになってて】
2024/08/09/05:21
【ゆるせないよね。ね、あなたもそうおもうでしょ?】
2024/08/09/06:38
【だって、あなたがあいしているのはこのわたしだけじゃない】
2024/08/09/07:01
【それを、よこからうばうなんて、しょうわるおんなすぎるよね】
2024/08/09/08:29
【わたしとあなたのこいをじゃましてくるあいつがにくい】
2024/08/09/09:17
【このさくひんでは、ちゃんとあいつのことこらしめてくれるよね?】
2024/08/09/09:36
【しゅやくはあなたとわたし】
2024/08/09/10:08
【わたしたちのじゅんあいストーリーだよね】
2024/08/09/10:44
【あなたと、あなたのさくひんだけをあいしてる】
2024/08/09/11:05
『えっと、電話、久しぶりだな。急にごめん』
「いや、大丈夫。文面で話すより電話で話す方が手っ取り早くて楽だもんね」
『そうそう。込み入った話の時は電話派かな。それより大丈夫か? 鼻声みたいだけど』
「ああ、実は昨日ちょっと熱があって、今日もまだ微熱なんだけど。でもしんどくはないから大丈夫」
『そうか。それは大変だな。あまり長くならないようにするわ』
「お気遣いありがとう」
結人とならば、どんなに長く電話をしていても平気なのだけれど、気遣ってくれた手前、さすがにご厚意を無碍にするわけにはいかない。また元気になってから思う存分電話をしようと、密かに決意した。
『さっきの話の続きなんだけど、ノベマ!で不審なコメントか……。実はここ何週間か、新刊の準備の方が忙しくて、ノベマ!での執筆があんまりできてなくてさ、サイトも見てなかったんだ。しばらくマイページも開いてなかったから、ちょっと待ってな。今確認するわ』
結人がそう言うと、パソコンのキーボードをカタカタと打ち込む音がした。どうやらパソコンでノベマ!を開いているらしい。少しすると、「まじかよ……」と彼が呟く声が聞こえてきた。
「結人、どうかした……?」
恐る恐る尋ねてみる。
結人はしばらく言葉を失っていたが、やがて「来てる」と返事をしてくれた。
『「69,」からのコメント、俺の作品にも来てるわ。昨日から今日にかけて。内容は——』
そこで電話の声が途切れた。どうしたんだろう、と訝しがっていると、彼は「……なあ、萌生の方でもノベマ!で確認してもらえないか? コメント全部読み上げるの、なんか大変そうだ。『十年越しのこの愛にさよならを』っていう最新作に感想が来てる。この作品、俺のデビュー作の続きみたいなもんなんだけど。あの作品には思い入れがあったから、別名義でまた書いてみようと思って」と言った。
私は彼の指示通り、スマホでノベマ!を開く。「榊しのぶ」という作家名を検索して、彼の最新作をタップした。最終更新日は7月頭になっている。感想欄を見ると——なんとそこには、20件もの感想が書き込まれていた。
「——え?」
20件?
感想コメントが投稿された日付を見ると、彼の言う通り昨日と今日にすべて書き込まれたものだった。
【ねえ、まだみてくれてないかな?】
2024/08/08/09:03
【でもへいき。あなたがきづいてくれるまで、ここでかきこみをつづけるからね】
2024/08/08/11:34
【きのうのコメント、もうけされちゃってるね】
2024/08/08/12:41
【なんかいけしたっていみないのに】
2024/08/08/14:09
【あなたはわたしのものだし】
2024/08/08/16:16
【ほかのやつらがかくれんあいしょうせつなんて、うすっぺらくてきらい】
2024/08/08/18:56
【とくにあのおんなの……せいかくのわるさがにじみでてるよねえ】
2024/08/08/19:10
【ひとのおとこをとっておいて、よくへいきでじゅんあいしょうせつなんかかけるね】
2024/08/08/21:33
【あいつのしょうせつ、わたしとあなたとあいつのことがかかれてた】
2024/08/08/23:45
【ゆるせないゆるせない】
2024/08/09/03:04
【あなたはわたしのものなのに、あいつのしょうせつではちがっていた】
2024/08/09/04:52
【あいつのしょうせつでは、あなたはあいつのものだってことになってて】
2024/08/09/05:21
【ゆるせないよね。ね、あなたもそうおもうでしょ?】
2024/08/09/06:38
【だって、あなたがあいしているのはこのわたしだけじゃない】
2024/08/09/07:01
【それを、よこからうばうなんて、しょうわるおんなすぎるよね】
2024/08/09/08:29
【わたしとあなたのこいをじゃましてくるあいつがにくい】
2024/08/09/09:17
【このさくひんでは、ちゃんとあいつのことこらしめてくれるよね?】
2024/08/09/09:36
【しゅやくはあなたとわたし】
2024/08/09/10:08
【わたしたちのじゅんあいストーリーだよね】
2024/08/09/10:44
【あなたと、あなたのさくひんだけをあいしてる】
2024/08/09/11:05