『おー久しぶり。仕事はまあ、ぼちぼちかな。それよりどうした? ノベマ!のことで相談って』
相変わらずフランクな口調で返信が送られて来る。
ちなみに彼はノベマ!で別名義で活動をしている。商業作家としての彼は主に京都を舞台にしたヒューマンドラマやミステリー、大人の恋愛小説を得意としているのだが、ノベマ!ではレーベルカラーにあった青春恋愛小説を書いているのだ。名義も神谷結人ではなく、榊しのぶという名だ。「しのぶ」という名前が中性的で、小説の内容が青春恋愛なので、読者からは女性だと思われている節がある。榊しのぶ=神谷結人だということを知っているのは、おそらく私ぐらいじゃないだろうか。
榊しのぶとして、ノベマ!での人気はそこそこ、といったところだろうか。ノベマ!で定期的に開催されている短編コンテストで時々入賞はしているが、スターツ出版から書籍化まではされていない。知っている人は知っている、という程度の作家だった。
ノベマ!編集部の方も、榊しのぶが神谷結人だということは知らないのではないだろうか。少なくとも、彼自身が編集部に告げない限りは、今のところ分からないだろう。
彼の返信の様子から察するに、どうやらノベマ!で起こっている不可解な感想コメント騒動について、彼は知らないみたいだ。商業作家としての活動に忙しくて、それどころではないのだろう。榊しのぶはともかく、神谷結人はベストセラー作家だ。次から次に仕事が舞い込んできていてもおかしくはない。
私は彼とのトーク画面に、相談内容を打ち込んだ。
『最近、ノベマ!で「69,」っていうユーザーから不審な感想コメントが来ているの。私の作品だけじゃなくて、同じような青春系の作品を書いている人に、つけられているみたい。でも、明らかに私個人を攻撃するような内容もあって……編集部に、対応を頼んでる最中なんだけど……』
そこで私は一旦文面を切り、彼にあの件について伝えるか迷った。
ノベマ!編集部の調査担当者である吉岡さんが行方不明になったこと。この件については、公の場では口外しない約束になっているが、結人にならばこっそり伝えても大丈夫じゃないだろうか。彼は、秘密を言いふらすような人ではないし、二人だけの話にとどめてくれるだろう。そう考えた私は、吉岡さんの件についても話した。
『ノベマ!編集部が「69,」からのコメントを制限したり、制限しても何度も復活する「69,」のアカウントについて調査したりしてくれることになってたんだけど。その調査担当の代表だった吉岡さんっていう編集部の方が、行方不明になってしまったようなの。それで今、調査は中止中。不快なコメントは随時パトロールして削除してくれるようだけど、これからも「69,」からのコメントが来ると思うと怖くて……。結人の小説にはコメント、来てない?』
この1ヶ月の間に起こった、一連のコメント騒動について詳細に語ってみせた。
「既読」がついてからしばらくの間、彼から返信はなかった。私が送ったメッセージの内容について深く考え込んでいるのだろう。一度考え出すと止まらない人だから、彼がスマホのトーク画面とにらめっこして考えあぐねている姿が想像できた。
やがて、ピロロンという通知音が聞こえる。
私は彼からの返信に目をやった。
『なあ萌生、今から通話できる?』
「え、通話?」
思いもよらない返信の内容だったので、多少面食らう私。すぐに心臓がドキドキと鳴っていることに気づいた。
結人と、電話か。
決して楽しい話をするのではないにしろ、気になる人と通話をするというハプニングに、不覚にも胸が躍ってしまう。いけない、いけない。深刻な話をするのに、ドキドキしてどうすんの。私は、なんとか心を落ち着けて『いいよ』と送った。
相変わらずフランクな口調で返信が送られて来る。
ちなみに彼はノベマ!で別名義で活動をしている。商業作家としての彼は主に京都を舞台にしたヒューマンドラマやミステリー、大人の恋愛小説を得意としているのだが、ノベマ!ではレーベルカラーにあった青春恋愛小説を書いているのだ。名義も神谷結人ではなく、榊しのぶという名だ。「しのぶ」という名前が中性的で、小説の内容が青春恋愛なので、読者からは女性だと思われている節がある。榊しのぶ=神谷結人だということを知っているのは、おそらく私ぐらいじゃないだろうか。
榊しのぶとして、ノベマ!での人気はそこそこ、といったところだろうか。ノベマ!で定期的に開催されている短編コンテストで時々入賞はしているが、スターツ出版から書籍化まではされていない。知っている人は知っている、という程度の作家だった。
ノベマ!編集部の方も、榊しのぶが神谷結人だということは知らないのではないだろうか。少なくとも、彼自身が編集部に告げない限りは、今のところ分からないだろう。
彼の返信の様子から察するに、どうやらノベマ!で起こっている不可解な感想コメント騒動について、彼は知らないみたいだ。商業作家としての活動に忙しくて、それどころではないのだろう。榊しのぶはともかく、神谷結人はベストセラー作家だ。次から次に仕事が舞い込んできていてもおかしくはない。
私は彼とのトーク画面に、相談内容を打ち込んだ。
『最近、ノベマ!で「69,」っていうユーザーから不審な感想コメントが来ているの。私の作品だけじゃなくて、同じような青春系の作品を書いている人に、つけられているみたい。でも、明らかに私個人を攻撃するような内容もあって……編集部に、対応を頼んでる最中なんだけど……』
そこで私は一旦文面を切り、彼にあの件について伝えるか迷った。
ノベマ!編集部の調査担当者である吉岡さんが行方不明になったこと。この件については、公の場では口外しない約束になっているが、結人にならばこっそり伝えても大丈夫じゃないだろうか。彼は、秘密を言いふらすような人ではないし、二人だけの話にとどめてくれるだろう。そう考えた私は、吉岡さんの件についても話した。
『ノベマ!編集部が「69,」からのコメントを制限したり、制限しても何度も復活する「69,」のアカウントについて調査したりしてくれることになってたんだけど。その調査担当の代表だった吉岡さんっていう編集部の方が、行方不明になってしまったようなの。それで今、調査は中止中。不快なコメントは随時パトロールして削除してくれるようだけど、これからも「69,」からのコメントが来ると思うと怖くて……。結人の小説にはコメント、来てない?』
この1ヶ月の間に起こった、一連のコメント騒動について詳細に語ってみせた。
「既読」がついてからしばらくの間、彼から返信はなかった。私が送ったメッセージの内容について深く考え込んでいるのだろう。一度考え出すと止まらない人だから、彼がスマホのトーク画面とにらめっこして考えあぐねている姿が想像できた。
やがて、ピロロンという通知音が聞こえる。
私は彼からの返信に目をやった。
『なあ萌生、今から通話できる?』
「え、通話?」
思いもよらない返信の内容だったので、多少面食らう私。すぐに心臓がドキドキと鳴っていることに気づいた。
結人と、電話か。
決して楽しい話をするのではないにしろ、気になる人と通話をするというハプニングに、不覚にも胸が躍ってしまう。いけない、いけない。深刻な話をするのに、ドキドキしてどうすんの。私は、なんとか心を落ち着けて『いいよ』と送った。