誰が、いつ言ったのだろう。
『赤ん坊は、天からの尊い授かりもの』
産まれたばかりの彼らは、濁りのない澄んだ瞳で、私たち大人を見つめる。
時には、自身の恥や傷、罪悪まで見透しているようで、きまり悪さも感じる。
いいな。何も知らない。汚されてない。縛られてない。
その背中には、目に見えない無数の羽根があるのだ。
純白のまっさらなそれは、羽ばたき、やがてこの世を飛ぶ力に変わる。
年月が経つと、やがて傷つき、汚れ、抜け落ちていく。成長する身体、少しの狡さの対価のように。
時には、産まれて間もなく羽根を無惨にもぎ取られてしまった者に、むしり取られる事もある。
その度に何度も、何度も、原型を保つために直し、補強しながら、歪に飛び続ける。
それすら疲れて、衰えた身体を引き摺る頃には、朽ち果てた羽根の存在なんて、忘れている。
天寿を迎え、最期の瞬間がきた時。たった一本でも、真っ白な羽根が残せていたら。
無数の羽根を生やした小さな者に空から迎えられ、彼らと入れ替わり、天に還れるのだ。
その者は、どこか見覚えのある澄んだ眼で、無邪気に微笑む。
「お疲れ様。次は、ぼくの番だね」