夢を見ていた。
 とても、素敵な夢。

「そんなにこっちを見て、どうした?」

 闇のように深く暗い瞳。
 だけど、その奥には愛しい者への熱が込められていて。
 この視線が私に向けられていたら、どれだけ素敵だろう。
 そんなことを思いながら、ただ彼を見つめる。
 そして彼は照れくさそうに笑った。
 名前もなにも知らない、夢にだけ現れる彼。
 これが予知夢だったらいいのに。
 そんな私の小さな憧れは、彼の言葉で打ち砕かれる。

「……愛してるよ、桜子(さくらこ)

 ああ、やっぱり。
 やっぱり、この人は私と人生を分かち合う人ではない。
 私がいくら希ったって、この人の物語に登場することはできない。
 だったら、私の夢に現れないでほしい。
 そう思う反面、夢を通してでも会えることを喜んでいる私がいた。

「私も、お慕いしております」

 彼の言葉に返したのは、私の声ではない。
 本当に、なんて素敵で、なんて残酷な夢なんだろう。
 優しく微笑む彼を見つめながら、そんなことを思った。