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 とはいえ夕飯にはまだ早い時間だったので、三人はお茶とケーキを楽しみながら広いダイニングテーブルを使ってボードゲームやトランプで遊んでいた。
 美季は初対面の相手だということもすっかり忘れてゲームにはまり込んでいた。
 こんな遊びをしたのは、いったいいつ頃だったろうか。
 駆け引きに夢中になって本気で遊んだのは、もしかしたら生まれて初めてだったかもしれない。
 ケーキにフルーツ、アイスと、夕飯前に食べ過ぎないように抑えるのが大変なほどおいしい物に囲まれていたし、相手が憧れのイラストレーターさんという事実も信じられなかった。
「あの、お仕事大丈夫なんですか」
「気分転換も仕事のうちだから」
 余裕の笑みを浮かべるアンジュを横目に未森が含みのある笑みを浮かべる。
「この人、なんでもそう言うの」
「だって、タブレット見つめてばかりいたって、いい考えが浮かぶわけじゃないでしょ。今日必要な作業は全部終わらせたし。あとは担当さんの返事待ち」
「ね、偉いのよ。これがプロ」
「わあい、ほめられた」と、パンチを繰り出す仕草に二人で笑い合っている。
 そんな掛け合いに目を細めていた美季が、「そういえば」と切り出した。
「アンジュさんのイラストって、必ずどこかにトランプとかボードゲームが描かれてますよね」
「うん、必ず入れてる。だから、こうやって実際に遊んでみるのも、仕事のうちなの」
 都合の良すぎる言い訳だなあと思いながら話しているうちに、未森が七並べで先に上がってしまった。
「ちょ、なんでよ」と、アンジュが顔をしかめる。「妨害作戦は完璧だったはずなのに」
「この前も同じ作戦使ってたでしょ。こっちだって、対策するわよ」
「ぐぬぬ」と、本気で悔しそうだ。
「じゃあ、そろそろ夕飯の支度に取りかかるから」と未森が立ち上がる。
「都合のいい勝ち逃げじゃん」
「うちは大切なお客様にお泊まりいただくペンションですので」
「はあい。それじゃあ、お手々洗って待ってまぁす」と、アンジュがわざとらしく拗ねてみせて、テーブルの上を片づけ始めた。
「美季さんも言ってやって」と、未森が耳打ちしてくる。
「畏れ多くて」
「甘やかしちゃダメよ」
「こう見えて意外としっかり者です」と、テーブルの向こうからアンジュが体を乗り出してくる。
「しっかりしてる人はわざわざ自分をしっかり者だなんて言いません。ねえ?」
「ああ、まあ、ですかね」
「えー、私の味方だと思ったのに」と、アンジュが頬を膨らませる。
「えっと……」
「お客さんをからかうんじゃないの」と、未森がエプロンをかぶる。
「はあい」
 そんななにげないやりとりに自分も巻き込んでくれる二人に感謝しながら、美季は抑えきれない幸せを胸に片づけを手伝っていた。