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翌朝、茉里乃のやつはまた寝坊したらしい。
「お姉ちゃん、乗せてって」
「はいよ」
何度繰り返されたか分からん光景じゃが、お互いにわだかまりはないようじゃ。
こやつらの喧嘩なんて毎度こんなもんだ。
もう喧嘩したことすら覚えておらんのかもしれん。
車に乗り込んだところでお団子頭が声をかけた。
「忘れ物はない?」
「うん、大丈夫」
お団子頭を傾けて袋を差しだす。
「はい、お弁当」
「あっ」
「どうせ忘れると思って、最初からあたしが持ってきておいたの」
「ありがと」
「シートベルト」
「うん」
軽トラがつまずくように上下しながら発進し、坂を上っていく。
ちょろりと尻尾を振って見送ってやるが、今日はそれほど魔法は必要なかろう。
どれ、退屈しのぎに、いびきをかいて寝ておる羽美香の口にカナブンでも放り込んでくるとするか。