◇
吾輩が食事を終えて玄関ポーチで顔を洗っておると、客と一緒に潮が出てきよった。
「すみません。港まで送ってもらえるなんて」
「いいんですよ。雨ですから。うちの茉里乃も連れてこなくちゃならないし」
玄関ドアを背中で押さえたまま、傘立てを指す。
「あと、傘も一本持っていってください」
「それは申し訳ないです」
「遠慮なさらないで。使い古しのビニール傘ですから。やんだら処分しちゃってください」
玄関ドアから羽美香も顔を出す。
「おねえ、私も探しに行くよ」
「大丈夫よ。軽トラで拾ってくるから。あんた、酔ってるんだし」
「居場所分かるの?」
「狭い島だもの。どこかにいるでしょ」
そうつぶやくと、雨を見上げながらため息をついた。
――ここじゃない、どこかに。
二人には聞こえておらんようじゃったが、吾輩には聞こえておるぞ。
なにしろ吾輩は猫又だからな。
しゃあない、吾輩も出かけるとするか。