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 吾輩が食事を終えて玄関ポーチで顔を洗っておると、客と一緒に潮が出てきよった。

「すみません。港まで送ってもらえるなんて」

「いいんですよ。雨ですから。うちの茉里乃も連れてこなくちゃならないし」

 玄関ドアを背中で押さえたまま、傘立てを指す。

「あと、傘も一本持っていってください」

「それは申し訳ないです」

「遠慮なさらないで。使い古しのビニール傘ですから。やんだら処分しちゃってください」

 玄関ドアから羽美香も顔を出す。

「おねえ、私も探しに行くよ」

「大丈夫よ。軽トラで拾ってくるから。あんた、酔ってるんだし」

「居場所分かるの?」

「狭い島だもの。どこかにいるでしょ」

 そうつぶやくと、雨を見上げながらため息をついた。

 ――ここじゃない、どこかに。

 二人には聞こえておらんようじゃったが、吾輩には聞こえておるぞ。

 なにしろ吾輩は猫又だからな。

 しゃあない、吾輩も出かけるとするか。