深い暗闇に、時東はひとり立っていた。
 泥沼に沈んだように、足はぴくりとも動かない。いや、だが、仮に動いたとしても、右に行けばいいのか、左に行けばいいのか。なにかもわからなかった。
 途方に暮れていると、少し先にぼんやりとした灯りが浮かび上がった。長方形のかたちにうっすらと光っている。ああ、扉だ。時東は思った。
 では、扉だとすれば、どこに繋がるものなのだろう。
 悩んでいるうちに、今度は扉の前に小さな影が浮かぶ。その影を認識し、時東ははっと息を呑んだ。
 ――ごめん。ごめんね、悠。でも、だって、寂しかったんだもん。
 甘えを含んだ舌足らずな声。
 幼い顔は泣いているのか、それとも、笑っているのか。皆目見当がつかなかった。
 はじめてしっかりと付き合った相手だった。バンド活動が第一になっていたかもしれない。けれど、同じバンドに所属していた相手もそれは同じだったはずで、だから、その範疇で大事にしていたつもりだった。好きだったつもりだった。
 言葉もなにも出なかった。立ち尽くしていると、今度は背の高い少年が現れた。うつむく少女の肩をそっと抱き寄せる。
 何年も親友だと思っていた彼の瞳が、自分を糾弾する色に染まっていく。
 ――俺は、おまえがずっと嫌いだった。嫌いだったよ。おまえはなんでもできるもんな。なんでもひとりでできるもんな。でも、なぁ、おまえ、わかってたか? おまえがメインに立つその後ろで、俺がどれだけ苦労してたか。なにを思ってたか。おまえ、少しでもわかってたか? 
 だって、と心の中で叫ぶ。だって、おまえはそれが楽しいって言ってたじゃないか。それを信用した俺が駄目だったのか。おまえの表面を丸呑みして、本音に気が付かなかったから駄目だったのか。
 固まったままの時東に、彼は繰り返す。
 ――わかろうと思ったか?
 ――思わなかっただろう。想像もしなかっただろう。おまえの陰に隠れる俺の気持ちなんて。
 ――おまえがかわいいのは自分だけなんだよ。自分がかわいいだけで、自分が一番で、俺たちはおまけの引き立て役だ。
 そんなことはない。大事だった。大事だったから、『親友』だったんだろう。一緒にバンド名を決めたとき、自分たちは笑っていたはずだ。それさえも時東の思い込みだったのだろうか。ふたりは時東と対峙している。身を寄せ合ったまま。
 ――おまえの傍にいると疲れる。残る人間なんていねぇよ。
 ――ねぇ、だから。だから、その人も離れていこうとしてるんじゃないの。
 少女の指が時東の背後を指す。心臓がドクンと大きく波打つ。少女は笑っている。ぎこちなく振り返ろうとした瞬間、眼が覚めた。
 恐ろしいほどに、心臓がバクバクと音を立てている。まだ、夜の最中だ。けれど、前も後ろもわからないような、あの漆黒ではない。
 自身の指先も、そこから伝わる布団の冷たい感触も、きちんとわかっている。闇に慣れた目が、畳の目や障子といった見慣れた部屋の光景をたどったところで、時東は小さく息を吐いた。
 壁時計の時を刻む音が静かな空間に響いている。過去に停滞することも、戻ることもなく。ただ、一定のリズムで先に進んでいく。
「夢だ」
 言い聞かせるために発した声は、喉にへばりついたなにかを無理やり吐き出すような、みっともないものだった。
 枕元に置いていたスマートフォンで確認した時間は、午前一時。東京にいたころは、あたりまえに起きていた時間だった。
 この家にいると、不思議と健康的な時間に寝起きをしてしまう。時間を華やかに消化するあの街と違い、ここの夜が静かだからだろうか。
 ゆったりとした流れに身を置くうち、自分もその流れの一部だと信じてしまいそうになった。
 そうやってぬるま湯に浸かろうとしていたから、あんな夢を見たのだろうか。もう二度といらないと思ったはずの感情に、手を伸ばしそうになったから。過去が罰しにきたのだろうか。
 溜息を呑み込んで、時東は起き上がった。カーディガンを羽織って、襖に手を掛ける。薄暗い階段をゆっくりと降りて、一階に着いた瞬間。廊下の奥から見えた灯りに、緊張で張りつめていた力が抜けた気がした。
 

[24:時東悠 1月29日1時14分]


 灯りに誘われるように居間に近づいた時東だったが、襖に手をかける寸前でためらってしまった。
 けれど、どうせ足音でバレているに違いない。そう言い聞かせて、息を吐く。隙間から漏れる光は、正しく誘蛾灯だった。
「南さん」
 小さく声をかけて、襖を引く。やはり気がついていたのだろう。さして驚いたふうでもなく、南がノートパソコンから顔を上げた。珍しいなと思いながら、勝手に正面に座る。そのことに南はなにも言わなかった。静かに時東の存在を容認し、手元に視線を戻す。カチカチという文字を打つ音。
 南さんもパソコンなんてするんだなぁ、なんて言えば、おまえは俺をなんだと思っているのかと渋い顔をされるのだろう。そんなことを想像しながら、ぼんやりと口を開く。
「起きてたんだ」
「明日、店は休みにしたし。月末だからいろいろとやっておこうかと」
「帳簿?」
「そう。親父がやってたころは基本的に母親が付けてたらしいんだけど。いざ再開するってなったときに、ぜんぜんわかんねぇし、はじめて確定申告するときは本当に困った」
「南さんにもできないこと、あるんだ」
 ぽつりと呟けば、断続的に響いていた音が止まった。
「あたりまえだろうが。今だって面倒だから嫌いだよ。でも、そうも言ってられねぇし。外の先生に頼むとそれはそれで金もかかるし。まぁ、でも、俺が生きて生活していくために必要なことだから」
 パソコンを閉じて、南が時東に視線を向けた。邪魔をしていることはわかっていたけれど離れがたくて、「そうなんだ」と相槌を打つ。
 生きていくために必要なこと。俺にとって必要なことは、譲れないことは、なんだったのだろう。夢の続きのように、そんなことを考える。だから、南がどんな顔で自分を見ていたのかわかっていなかった。
「時東」
 呼ばれて、黙考から覚める。
「なに?」
 長年の癖で張り付けた笑顔にか、物言いたそうな雰囲気は感じ取ったものの、気がつかない振りを押し通す。しばらくのあと、南が口にしたのは、取り繕った表情への指摘ではない、だが、予想外のものだった。
「おまえ、夜にギター弾きたかったら弾いてもいいからな」
「え? でも、迷惑でしょ」
「べつに。隣の家までも距離あるし。あそこのばあちゃん、耳遠いし」
「そういう問題なの」
「春風も昔はよくここで弾いてたけど」
 なんで、また、その名前が出てくるかなぁ。苛立ちを呑み込んで、「そうなんだ」と同じ相槌を繰り返す。今はとりわけ聞きたくなかった。
「中学かそれくらいのころの話だけどな」
 だから聞きたくないんだってば、そんな話。駄々をこねたい衝動を誤魔化して、笑う。
「今も昔も仲良いんだね、想像できる気もするけど」
「うちの親父に明日の朝も早いのに煩いって怒鳴られて、ふたりで河原に移動したら補導されそうになった」
「もっと怒られたんじゃないの、それ。お父さんに」
「その警官も近所のおっちゃんだったからな。次はないからなでお目こぼし貰ったけど」
 時東がギターにはじめて触れたのは、中学校に入学したときだ。時東が夢中になった魔法をはじめて見せてくれたのは、「親友」だった。
 楽しくて、楽しくて、ずっとそれが続くのだと漠然と信じていた。そんな、馬鹿みたいなことを、ずっと。ずっと。あの日まで。あの瞬間まで。
「もし南さんは春風さんがいなくなったらどうする?」
 ぽろりと零れた問いかけが失言だったと悟ったのは、空気が変わった気がしたからだった。
「あぁ、その、死んじゃうとかそういうことじゃなくて。そういうことじゃなくても、人の縁が切れることはあるでしょう」
「想像できねぇな」
 慌てて補足した時東の顔をじっと見つめ、南は答えた。いつもどおりの声。
「あいつとはずっと一緒にいる気がする」
「ずっとって」
 曖昧なそれに、時東は失笑した。子どもじゃあるまいし。いつまでも一緒だなんて言える年じゃ、もうないくせに。
「あいつも前に半ば冗談で言ってたんだけどな。俺の店でも手伝いながら、一緒に暮らすかって」
「え……?」
「それはないだろって言ったんだけど。まぁ、つまり、そういう感覚なんだろうな。家族というか、なんというか」
 失笑すらできなかった。黙り込んだ時東の反応をどう取ったのか、南が小さく息を吐いた。
「水でも飲むか?」
「あ……」
「座ってろ。淹れてやるから」
「でも、南さん」
「いい。立つついでだ」
 至って普通の足取りに見えたものの、右足に少し重心がかかっていない気がした。廊下に出て行った背中を見送り、時東はそっと表情を消した。
 南食堂は、今日は春風が手伝って営業したのだと聞いた。常連客に明日は休みにする旨を伝えることができたから、明日は休業日にしたのだ、とも。
 自分にできることは、本当になにもないのだな、と思い知った。けれど、毎回同じようなショックを受ける自分がおかしいのだ。
 ――なにしてるんだろうな、本当。
 夢見に引きずられ、人肌が恋しくなって、そうして、勝手に苛立っている。
 どうかしているとわかっているのに、どうにもできなくなってしまいそうだった。でも、それは、いつからなのだろう。
 廊下からかすかに聞こえた咳き込む声に、そういえば、まだ冬だったのだな、と時東は思った。
 今年はどうなりたいのだろう、と。年末にどこか呑気に考えていたことが、なぜかひどく遠い。
 変わっていく。そのことを、たぶん、時東は望んでいなかった。戻って来る足音に、意識して表情を作り替える。いつからこれが習慣になったのかも、もうわからなかった。だが、それでいいと思っていた。
「一気に飲むなよ、腹冷えるぞ」
「うん」
 子ども扱いに笑って、目の前に置かれたコップに手を伸ばす。
「ありがとう」
 立ったまま、じっと見られている気がして、時東は内心で首を傾げた。また変な笑顔だと思われたのだろうか。悩んだ末、話題の矛先を変える。南が右手に持っているものに気がついたからだ。
「煙草、吸うんだ」
「たまにな」
 思い出したように南の視線が手元に動き、そのまま時東の傍に腰を下ろす。
「最近は、あんまり吸わねぇけど」
 一緒に持ってきたらしい灰皿を机上に置いて、煙草に火を点ける。最近は吸わないと言ったわりには使いさしなんだな、と不思議に思ったことが伝わったのか、南が口を開いた。
「あぁ、これは、春風の」
「……そうなんだ」
「あいつ、適当に物を置いてくから」
 そういえば、前にも似た話を聞いた気がした。くゆる紫煙を追いながら思い出す。あの日だ。この家の縁側で、この人に「曲が創れなくなった」と、誰にも言うつもりのなかったことを告白した、あの日。
「おかげで、あいつの物ばっかりなんだよな、この家。昔からだけど」
 マーキングみたいだな、と思ったものの、さすがに言葉にすることはできなかった。小さく笑う。ちらりと動いた南の視線に、また笑えていなかったのかと不安になった。だが、確認することはできなかった。代わりに「らしい」ことを口にする。
「いいの? 勝手に」
「べつに一本くらいで、どうとも言わねぇだろ。あいつの貯蓄額やべぇらしいぞ」
「……だろうね」
「使い道もないって本人は言ってたけどな」
 だろうな、と思った。堅実に生きていくためだけだったらば、大金なんて必要はないからだ。時東自身、それなり以上の金額を貰うようになってからも、生活は変わらなかった。派手な生活を夢見て芸能界に入ったわけでもない。ただ。ただ、俺は。
「なぁ、時東」
「なに?」
「うまい?」
 問われて首を傾げる。
「お水? ありがとう。冷たくて眼が覚める」
 良いのか悪いのかはわからないけれど、どうせこのあとも眠れないだろうし、いいのかもしれない。にこ、とほほえんだ時東の顔を見つめ、南が小さく息を吐いた。吸いさしを灰皿に押し付けて、一言。
「それ、結構な量の塩、入ってたんだけど」
 唐突に告げられたそれに、時東は思い切り咽た。それでか。それで、南も咳いていたのか。
「お、俺の、南さんに対する信用を利用してなにするの」
「だから一気に飲むなって言っただろうが」
 そういう問題じゃないと思いたい。自覚すると、なんだか喉が塩辛い気がしてきた。気分の問題ではあるけれど。
「おまえ、また味覚死んでるのか」
 淡々と事実を問いただす調子に、コップを掴んだままだった指先に力が入る。応とも否とも言えない。いつから気づかれていたのだろう。それが、答えになった。
「ここに来たら味が戻る。それも、もうないんだったら、ちゃんと病院なり行って治せ」
 正論だとわかっていた。わかっていて、それでも、どうしようもなくささくれ立つ。あんな夢を見たせいだろうか。それとも、この人だからだろうか。
 わからない。わからないけれど、時東の心を動かすのは、いつもこの場所だ。この場所だけだ。
「南さんも俺を捨てるの」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
 自分の声は切羽詰まっていたのだろうか。応じる南の声が和らぐ。子どもを宥めるように。
「時東。なにか聞いてほしいなら、話くらい聞くから」
「聞いてほしいことなんてない」
 言葉尻に被せ、時東は吐き捨てた。
「聞いてほしいことなんてなにもない。南さんに俺の過去を知ってほしいなんて思わないし、俺のどうでもいい後悔を聞いてほしいとも思わない。ただ、今の俺を見て。今の俺の隣にいて。それだけで」
 なにを言っているのだろう。頭のどこかに残る冷静な部分はたしかにそう言っているのに、言葉が止まることはなかった。
「本当にそれだけでいいのに」
「時東」
「俺は過去の救済なんて、求めてない」
 止まることのない言葉があふれ続ける。みっともないことは自覚していて、とてもではないが顔を上げることはできなかった。握りしめたままの手の甲が白い。
 ここで距離を取り直されたのは、そう遠い日の話ではない。この人がそれを求めるのなら、と。その距離に従おうと決めたのも、遠い日の話ではない。それなのに。
「南さんとは違う」
 そうだ。この人とは違う。この人は、俺とまったく違う。なのに、なんで、こんなにも惹かれるのだろう。自分のものにしたいと思うのだろう。諦めることはできなかった。蓋をしたつもりで、こうして勝手に顔を出す。
 沈黙を何時間にも感じた。けれど、なにをどう取り繕えばいいのかも、わからなかった。
「寝ろ」
 呆れたような、それでいて優しい声だった。
「明日には東京に戻るんだろ。早く寝ろ」
 呪縛が解けたように、ぱっと顔を上げる。いつもと変わらない顔のまま、南は時東を見ていた。
 はじめて逢ったころから変わらない、どこか不機嫌そうで、気難しそうで、それなのにたまらなく優しくて、いつだって時東を受け入れてくれる瞳。
 そのことにほっとして、同時に勝手に傷ついた。この人は変わらない。俺くらいがなにかを言ったところで、伝えたところで、変わらない。
 その「変わらない」ことに安堵していたことも事実のはずなのに、なぜか今は苦しかった。
「寝て、全部忘れろ」
「全部って」
「嫌な夢も、怖い夢も、朝起きたら全部なくなる」
 笑おうとした時東を無視し、淡々と声が続く。
「覚えていても、段々、薄らいでいく」
 それは、なんの話なのだろうとふと思った。まるで、時東がどんな夢を見たのか承知しているみたいだった。そんなこと、あるわけがないのに。
「しょうもないこと話して、笑って、飯食って、そうこうしてるあいだに、また生きていける」
 あぁ、と一拍遅れて気づく。これは、南自身の話だったのか。
「南さんも、そうやって生きてきたの」
「そうだ。誰だって、そうだ」
 でも、と思った。でも、あんたの隣にはあの人がいたんだろう。あんたが立ち直るまでのあいだ、ずっといたんだろう。あんたのことを大事に思っていて、あんたも大事に思っている人が。
 俺にはいなかった。
 俺には、誰もいなかった。
「じゃあ、俺の傍にいて」
 情緒不安定なガキだと思われてもいい。そう思っているあいだは、きっとこの人は俺を捨てない。時東はそう思った。情の深い人だから、絶対にこの人は、俺が縋っているうちは、俺を捨てられない。
「そのあいだ、ずっと、俺の傍にいて」
 だが、本心だった。ずっと、ずっと。時東が隠し続けていた、本音。
 驚いた顔で南が自分を見つめていることに気がついて、はっとする。時東はようやく我に返った。なにを言い募っていたのだろう、自分は。なにをこんなに必死に。
「嘘。嘘、ごめんなさい」
 きっと笑えていない。確信はあったものの、そう言うことしかできなかった。もう嫌だ。この人の前で自分を保つことができない。この五年、ずっと保っていたはずの「時東はるか」が死んでいく。解放なんて綺麗なものじゃない。それは恐ろしいことだった。赦しがたいことだった。
「南さんこそ、忘れて。明日も早いんでしょう」
 明日は休むという話を聞いたことは、口にしてから思い出した。けれど、もうなんでもいい。とりあえず、受け流してくれたら、それでもいい。
「忘れねぇよ」
 それなのに、なんで、そんなことを言うんだ。舌打ちをしたくなった。忘れろと言ったばかりの声で、そんなことを。
「忘れない」
 矛盾を感じさせることのない声が言い切る。
「おまえが捨てたことも、俺が知ってることは覚えてる。だから、安心しておまえは忘れたらいい」
 取り繕いきれないまま、時東はただその声を聞いた。
「それで、もし、いつか。……いつか、思い出してもいいと思えるものがあったら、そこだけを大事にしろ」
 いつか。いつか、そんな日が来るのだろうか。来るはずはないと思っていたし、来なくていいと諦めていた。今もそれは変わらないのに、なんで。
 なんで。その先の感情の答えを出すことはできなかった。静かな声が、かつて自分が言ったのだろう言葉を紡ぐ。
「おまえの歌で、おまえは食っていくんだろう」
 そうだけど、違う。俺は、三人で食っていきたかったんだ。あのふたりと、俺で。でも。
「……うん」
「おまえはそうやって、五年間、踏ん張って来たんじゃないのか」
 俺の五年なんて、なにも知らないくせに。そうも思うのに、たまらなかった。感情が、流れ落ちていく。
「うん」
 子どものような声で頷く。どうしたらいいのかわからなかった。言葉もない。ただ、その体温に触れたかった。触れることを許されたかった。けれど、そうではないから必死に拳を握り込んで、もう一度、頷く。
「うん」
 好きだと思い知った。好きだ。好きだ。好きだ、あなたが。もう、なにも誤魔化せないほどに。そのすべてを込めて、囁く。それが精一杯だった。
「ありがとう」