「お疲れ様」
「あ、支度できたよ!」
ダイニングテーブルの上に、夕飯で食べた残り物と八木沢くんのために作った料理を並べていく。
「いつも通り、小鉢に入っている物は好きなだけ食べて」
こんにゃくの煮物。
れんこんのきんぴら。
タコの唐揚げ。
麻婆豆腐。
ポテトサラダ。
八木沢くんのために料理を作りたいと張り切ったはいいけれど、これだけバリエーションのある料理を作る時間も余裕も高校生にはない。
「今日も、すごっ」
「品数だけはあるからね」
「ありがと」
「ううん、俺が勝手にやってることだから」
母さんに許される範囲で買ってきたお惣菜や作り置き、もちろん母さん手作りの物も混ざっているおかげで、これだけの種類を毎日用意することができている。
なんて贅沢な食卓って思われるのは承知済み。
でも、我が家は八木沢くんを預かるかわりに、過分すぎるほどの食費をもらっている。
(八木沢くんに満足してもらえる料理を提供したい……)
すべては八木沢くんに、満足した食事を提供するために。
(あー、もっと調理実習とか母さんの手伝いを真面目にやってれば……)
品数が多ければ満足できるってわけじゃないなんてことは分かり切ってるけど、これが自分のできる唯一。
料理を美味しく作る腕も技術もないんだから、品数の豊富さで勝負するしかない。
これだけは、八木沢くんとの同居生活が終わる最後の日までやり抜きたい。
「そして、本日のメインはラーメンもどきっ」
小鉢よりも少し大きめの器に入ったラーメンもどきを八木沢くんの席に置く。
麺は、しらたき。
スープは、醤油味のラーメンスープ。
「八木沢くんは俳優さんだから、食べ過ぎて体重に影響が出ないように……」
「柊」
「ん?」
家に帰ってきたときは、疲れた表情を見せていた八木沢くん。
「いただきます」
でも、『いただきます』と声を発したときの、八木沢くんの笑顔に心が揺れる。
「……召し上がれ」
同居人の八木沢くんの食事姿を見て、俺が作った料理を美味しそうに食べてくれることに喜びを抱く。
たとえすべて俺が作った物でなくても、八木沢くんが箸を進めていく様子は俺の家で同居することに不快感を抱いていないってことが分かって嬉しい。
「うまっ」
「あっためただけだけどね」
同居人が嬉しい言葉をくれるのに、自分の顔はきっと残念そうなもの。
八木沢くんのためだけに料理を作ることが許されるのなら、もっと手をかけて自分の手で料理をしたい。
でも、化け物並みに脅威な数学と英語を前に、料理をするための時間が奪われていってしまう。
「授業、難しい?」
「え?」
「英語の勉強してたみたいだから」
「あー……英語が壊滅的で」
自分で用意したラーメンもどきだけど、醤油ラーメンのスープの香りがあまりにも良すぎて食欲をそそられてしまう。
「英語ならなんとかなるかも」
「……海外で仕事、したことあったっけ?」
「将来のこと考えて、学校の授業とは別に英会話のレッスン受けてるから」
「え、すごっ。俺なんて、授業に付いていくだけで精いっぱいなのに……」
売れっ子俳優は、海外進出も視野に入れているのかもしれない。
将来はこれになりたいっていう夢を持たない自分にとっては、夢を叶えるためならどんな努力も惜しまない同級生の活躍がかっこよすぎて仕方がない。
(でも、そこに嫉妬はしなかったんだよなー……)
ただ平凡な小学生、中学、高校生活を歩む自分は、一生を懸けたって八木沢くんのような輝かしい人生を送ることはできない。幼いなりに、自分の人生に見切りをつけていたのかもしれない。
(自分には、期待しない……)
自分の分も頑張ってくれなんて感情を彼に押しつけるつもりはまったくないけど、そこに似たような感情は抱いているのかもしれない。
(八木沢くんには、もっともっと輝きを魅せつけてほしい……)
ラーメンスープの香りを取り込むフリをして、こっそり深呼吸。
これからも八木沢くんが輝く瞬間を目に焼きつけていくために、心の準備を整えていく。
「あとで一緒に予習する?」
「お願いします!」
芝居もできて、顔も整っていて、勉強もできて、どこに欠点があるのか探してみたくなるほどの人材と、一つ屋根の下で暮らしていることに大きな喜びを抱く。
「喜びすぎ」
「だって、高校の英語死ぬ」
八木沢くんとは小学生の頃からの付き合いだけど、高校生になった今でも彼の顔は見飽きることがない。
「そんなに見つめられると、食べ辛いんですけど……」
「八木沢くんの顔を見てると、幸せな気持ちになれるから」
「そういうこと、高校生が言わないって」
「あ、八木沢くん、照れた?」
俺の言葉を受けて、箸が進まなくなった八木沢くん。
「俺はね、人気俳優の八木沢嶺矢くんと一緒に暮らす幸せを噛み締めたいんだよ」
クラスメイトの八木沢嶺矢くんと一緒に暮らすことになったのは、父さんからの命令がきっかけだった。
「あ、支度できたよ!」
ダイニングテーブルの上に、夕飯で食べた残り物と八木沢くんのために作った料理を並べていく。
「いつも通り、小鉢に入っている物は好きなだけ食べて」
こんにゃくの煮物。
れんこんのきんぴら。
タコの唐揚げ。
麻婆豆腐。
ポテトサラダ。
八木沢くんのために料理を作りたいと張り切ったはいいけれど、これだけバリエーションのある料理を作る時間も余裕も高校生にはない。
「今日も、すごっ」
「品数だけはあるからね」
「ありがと」
「ううん、俺が勝手にやってることだから」
母さんに許される範囲で買ってきたお惣菜や作り置き、もちろん母さん手作りの物も混ざっているおかげで、これだけの種類を毎日用意することができている。
なんて贅沢な食卓って思われるのは承知済み。
でも、我が家は八木沢くんを預かるかわりに、過分すぎるほどの食費をもらっている。
(八木沢くんに満足してもらえる料理を提供したい……)
すべては八木沢くんに、満足した食事を提供するために。
(あー、もっと調理実習とか母さんの手伝いを真面目にやってれば……)
品数が多ければ満足できるってわけじゃないなんてことは分かり切ってるけど、これが自分のできる唯一。
料理を美味しく作る腕も技術もないんだから、品数の豊富さで勝負するしかない。
これだけは、八木沢くんとの同居生活が終わる最後の日までやり抜きたい。
「そして、本日のメインはラーメンもどきっ」
小鉢よりも少し大きめの器に入ったラーメンもどきを八木沢くんの席に置く。
麺は、しらたき。
スープは、醤油味のラーメンスープ。
「八木沢くんは俳優さんだから、食べ過ぎて体重に影響が出ないように……」
「柊」
「ん?」
家に帰ってきたときは、疲れた表情を見せていた八木沢くん。
「いただきます」
でも、『いただきます』と声を発したときの、八木沢くんの笑顔に心が揺れる。
「……召し上がれ」
同居人の八木沢くんの食事姿を見て、俺が作った料理を美味しそうに食べてくれることに喜びを抱く。
たとえすべて俺が作った物でなくても、八木沢くんが箸を進めていく様子は俺の家で同居することに不快感を抱いていないってことが分かって嬉しい。
「うまっ」
「あっためただけだけどね」
同居人が嬉しい言葉をくれるのに、自分の顔はきっと残念そうなもの。
八木沢くんのためだけに料理を作ることが許されるのなら、もっと手をかけて自分の手で料理をしたい。
でも、化け物並みに脅威な数学と英語を前に、料理をするための時間が奪われていってしまう。
「授業、難しい?」
「え?」
「英語の勉強してたみたいだから」
「あー……英語が壊滅的で」
自分で用意したラーメンもどきだけど、醤油ラーメンのスープの香りがあまりにも良すぎて食欲をそそられてしまう。
「英語ならなんとかなるかも」
「……海外で仕事、したことあったっけ?」
「将来のこと考えて、学校の授業とは別に英会話のレッスン受けてるから」
「え、すごっ。俺なんて、授業に付いていくだけで精いっぱいなのに……」
売れっ子俳優は、海外進出も視野に入れているのかもしれない。
将来はこれになりたいっていう夢を持たない自分にとっては、夢を叶えるためならどんな努力も惜しまない同級生の活躍がかっこよすぎて仕方がない。
(でも、そこに嫉妬はしなかったんだよなー……)
ただ平凡な小学生、中学、高校生活を歩む自分は、一生を懸けたって八木沢くんのような輝かしい人生を送ることはできない。幼いなりに、自分の人生に見切りをつけていたのかもしれない。
(自分には、期待しない……)
自分の分も頑張ってくれなんて感情を彼に押しつけるつもりはまったくないけど、そこに似たような感情は抱いているのかもしれない。
(八木沢くんには、もっともっと輝きを魅せつけてほしい……)
ラーメンスープの香りを取り込むフリをして、こっそり深呼吸。
これからも八木沢くんが輝く瞬間を目に焼きつけていくために、心の準備を整えていく。
「あとで一緒に予習する?」
「お願いします!」
芝居もできて、顔も整っていて、勉強もできて、どこに欠点があるのか探してみたくなるほどの人材と、一つ屋根の下で暮らしていることに大きな喜びを抱く。
「喜びすぎ」
「だって、高校の英語死ぬ」
八木沢くんとは小学生の頃からの付き合いだけど、高校生になった今でも彼の顔は見飽きることがない。
「そんなに見つめられると、食べ辛いんですけど……」
「八木沢くんの顔を見てると、幸せな気持ちになれるから」
「そういうこと、高校生が言わないって」
「あ、八木沢くん、照れた?」
俺の言葉を受けて、箸が進まなくなった八木沢くん。
「俺はね、人気俳優の八木沢嶺矢くんと一緒に暮らす幸せを噛み締めたいんだよ」
クラスメイトの八木沢嶺矢くんと一緒に暮らすことになったのは、父さんからの命令がきっかけだった。