「意外と告白してみたら、上手くいくんじゃないか?」
「僕も、そんな風に思うけどね」
西ノ宮と梅里の援護を受けるものの、俺が抱いている感情をまるで恋愛感情のような綺麗なものとして表現してくれる二人に違和感。
「……人気急上昇中俳優に恋愛は禁止です」
「事務所の方針?」
元気を消失していく俺を見かねた西ノ宮は、落ち着いた声で冷静に現状を理解しようと努めてくれる。
「……俺が決めたこと」
顔を見合わせる西ノ宮と梅里。
後ろの席に座っている築島の表情だけは分からないけど、みんながみんな俺のことを心配してくれているのはよく分かっている。
「だから、弊社の俳優に手、出さないでね!」
この場に、俳優の八木沢嶺矢ファンは自分しかいない。
八木沢くんに手を出すような人間がこの場にいないことを理解していながらも、この話題を打ち切りたかった俺は適当に話を流す。
「じゃあ、読書に戻るから」
興味深そうに本を覗き込むフリをしながら、自分と同じグループに属さない八木沢くんにこっそりと視線を向けた。
でも、黒板近くにいる八木沢くんが、教室の後方にいる俺の視線に気づくことはない。
(これが、当たり前……これが、普通の距離……)
推しと同じ高校に通っていたって、推しと同じクラスだからって、推しと一緒に暮らしているからって、俺と八木沢くんの距離は少しも縮まることがない。
「はぁ」
空が茜色から深い黒へと移り変わる直前の時間帯。
橘高先輩と大武先輩と三人だけの部活動を終え、先輩たちと過ごした緊張感を解放するために大きく深呼吸した。
(八木沢くんと一緒に帰りたかったなぁ)
高校生にもなると、一緒に帰る相手が見つからなくなることに気づかされる。
それだけ年齢を重ねるごとに交流関係が広くなっているってことでもあり、これからどんどん年を重ねていくと、同じ方向に帰ってくれる人は完全に消滅してしまうのかって寂しくなる。
(八木沢くん……仕事で頑張ってるんだから、無理に部活誘えないけど)
少しずつ通い慣れていく予定の道を歩きながら、教室で読んだ本の内容を振り返る。
(これがマンガの世界とかなら、八木沢くんの台本を読む手伝いをするって流れに持ち込むのもいいけど……)
独りで帰宅していることもあって、さっきから溜め息が止まらない。
教室では自分の気持ちを受け止めてくれる友人たちがいても、今の自分はたった独り。
(現実は守秘義務の関係で、台本の読み合わせなんてできない……!)
どこへぶつけたらいいか分からない苛立ちを抱えながら、家へと到着。
すると、母親が駐車場に停めてある車に乗り込もうとしている姿を目撃する。
「母さん?」
もうすぐ夕飯の時間だっていうのに、母さんはどこかへと出かける準備をしていた。
「これから、嶺矢くんの実家に行ってくる」
「八木沢くんのお母さんに何かあった……」
「ううん、たまには嶺矢くんの近況報告兼ねて、ご飯食べてこようかなって」
「そっか……」
八木沢くんが俺の家で同居する前は、お母さんと二人で暮らしていた八木沢くん。
「付いてきたいかもしれないけど、よく我慢したね」
車に荷物を詰め込みながらも、息子のことを褒めてくれる母。
「本当は……体が弱い八木沢くんのお母さんの力になりたい」
八木沢くんのお母さんは、体が弱い。
息子の八木沢くんのために何かしたいと思っても体調が悪くなってしまって、八木沢くんの力になれないことをいつも悔やんでいる優しい人。
「でも、俺がやりたいのは、八木沢くんにご飯を食べてもらうこと。進学するために、ちゃんと勉強すること。部活を頑張ること。この三つ」
悲観的な思考を捨て去るような強い声で、はっきりと母親に宣言した。
「柊が決めたことだもんね」
「俺は……八木沢くんのお母さんの力にはなれないから」
だんだんと丸まっていく背中が情けなくもあるけど、俯いていたって事態に変化は起きない。
だったら顔を上げて、母親をちゃんと送り出したい。
「柊にもパパにもできないことをやるために、お母さんがいるの」
髪が乱れるほどの強い力で頭を撫でられる。
「嶺矢くんは未成年だから、そう遅くはならないと思うけど……」
「八木沢くんのことなら、俺に任せて」
自信に溢れた自分なんてらしくないけど、母に心配をかけたくない。
だから、ちゃんと演じる。
俺に任せておけば大丈夫ってことを伝えるために、ほんの少しでも上へ口角を上げてみる。
「嶺矢くんのこと、お願いね」
「うん、いってらっしゃい」
母親が出発するのを見送り、自分の家へと帰宅。
夕飯で食べる小鉢の中身は用意できているから、あとはメインを考えるだけ。
(今日も父さんは遅いって言ってたな)
靴を脱いで、家の中に入る。
その過程で、俺はあることに気づいてしまった。
(今日の夜、八木沢くんと二人きり!?)
「僕も、そんな風に思うけどね」
西ノ宮と梅里の援護を受けるものの、俺が抱いている感情をまるで恋愛感情のような綺麗なものとして表現してくれる二人に違和感。
「……人気急上昇中俳優に恋愛は禁止です」
「事務所の方針?」
元気を消失していく俺を見かねた西ノ宮は、落ち着いた声で冷静に現状を理解しようと努めてくれる。
「……俺が決めたこと」
顔を見合わせる西ノ宮と梅里。
後ろの席に座っている築島の表情だけは分からないけど、みんながみんな俺のことを心配してくれているのはよく分かっている。
「だから、弊社の俳優に手、出さないでね!」
この場に、俳優の八木沢嶺矢ファンは自分しかいない。
八木沢くんに手を出すような人間がこの場にいないことを理解していながらも、この話題を打ち切りたかった俺は適当に話を流す。
「じゃあ、読書に戻るから」
興味深そうに本を覗き込むフリをしながら、自分と同じグループに属さない八木沢くんにこっそりと視線を向けた。
でも、黒板近くにいる八木沢くんが、教室の後方にいる俺の視線に気づくことはない。
(これが、当たり前……これが、普通の距離……)
推しと同じ高校に通っていたって、推しと同じクラスだからって、推しと一緒に暮らしているからって、俺と八木沢くんの距離は少しも縮まることがない。
「はぁ」
空が茜色から深い黒へと移り変わる直前の時間帯。
橘高先輩と大武先輩と三人だけの部活動を終え、先輩たちと過ごした緊張感を解放するために大きく深呼吸した。
(八木沢くんと一緒に帰りたかったなぁ)
高校生にもなると、一緒に帰る相手が見つからなくなることに気づかされる。
それだけ年齢を重ねるごとに交流関係が広くなっているってことでもあり、これからどんどん年を重ねていくと、同じ方向に帰ってくれる人は完全に消滅してしまうのかって寂しくなる。
(八木沢くん……仕事で頑張ってるんだから、無理に部活誘えないけど)
少しずつ通い慣れていく予定の道を歩きながら、教室で読んだ本の内容を振り返る。
(これがマンガの世界とかなら、八木沢くんの台本を読む手伝いをするって流れに持ち込むのもいいけど……)
独りで帰宅していることもあって、さっきから溜め息が止まらない。
教室では自分の気持ちを受け止めてくれる友人たちがいても、今の自分はたった独り。
(現実は守秘義務の関係で、台本の読み合わせなんてできない……!)
どこへぶつけたらいいか分からない苛立ちを抱えながら、家へと到着。
すると、母親が駐車場に停めてある車に乗り込もうとしている姿を目撃する。
「母さん?」
もうすぐ夕飯の時間だっていうのに、母さんはどこかへと出かける準備をしていた。
「これから、嶺矢くんの実家に行ってくる」
「八木沢くんのお母さんに何かあった……」
「ううん、たまには嶺矢くんの近況報告兼ねて、ご飯食べてこようかなって」
「そっか……」
八木沢くんが俺の家で同居する前は、お母さんと二人で暮らしていた八木沢くん。
「付いてきたいかもしれないけど、よく我慢したね」
車に荷物を詰め込みながらも、息子のことを褒めてくれる母。
「本当は……体が弱い八木沢くんのお母さんの力になりたい」
八木沢くんのお母さんは、体が弱い。
息子の八木沢くんのために何かしたいと思っても体調が悪くなってしまって、八木沢くんの力になれないことをいつも悔やんでいる優しい人。
「でも、俺がやりたいのは、八木沢くんにご飯を食べてもらうこと。進学するために、ちゃんと勉強すること。部活を頑張ること。この三つ」
悲観的な思考を捨て去るような強い声で、はっきりと母親に宣言した。
「柊が決めたことだもんね」
「俺は……八木沢くんのお母さんの力にはなれないから」
だんだんと丸まっていく背中が情けなくもあるけど、俯いていたって事態に変化は起きない。
だったら顔を上げて、母親をちゃんと送り出したい。
「柊にもパパにもできないことをやるために、お母さんがいるの」
髪が乱れるほどの強い力で頭を撫でられる。
「嶺矢くんは未成年だから、そう遅くはならないと思うけど……」
「八木沢くんのことなら、俺に任せて」
自信に溢れた自分なんてらしくないけど、母に心配をかけたくない。
だから、ちゃんと演じる。
俺に任せておけば大丈夫ってことを伝えるために、ほんの少しでも上へ口角を上げてみる。
「嶺矢くんのこと、お願いね」
「うん、いってらっしゃい」
母親が出発するのを見送り、自分の家へと帰宅。
夕飯で食べる小鉢の中身は用意できているから、あとはメインを考えるだけ。
(今日も父さんは遅いって言ってたな)
靴を脱いで、家の中に入る。
その過程で、俺はあることに気づいてしまった。
(今日の夜、八木沢くんと二人きり!?)