『赤嶺舞を殺したやつは、誰だ?
私は、赤嶺舞を殺したやつを許さない。
懺悔の部屋で自らの罪を告白し、償え。
さもなくば、全ての本性と悪事を晒して息絶えるがいい。』
パソコンに映し出された文字を静かに見つめる。
これで全ての準備は整った。
あとは事の成り行きを、みんなに気づかれないよう鑑賞するだけだ。
思わず笑みが浮かび上がる。
けれど、すぐに真一文字に結ぶ。
いけないいけない。愉悦の感情に浸り、溜飲を下げるのはもっと後だ。早漏すぎる。これは反省だ。
机の脇に置いた赤ワインをゆっくりと喉に流し込む。芳醇な香りが喉から鼻を刺激し、渋い風味を舌の上で転がす。
ふむ、とひとつ頷いてから、ワイングラスを床に放り投げた。ワイングラスは甲高い音を室内に響かせ、粉々に砕け散った。無論、中に入っていたワインもフローリングの板目の隙間を伝い、ゆっくりと赤の支配域を広げていく。
一応は厳選して買ったつもりだったが、どうやら紛い物だったようだ。腹立たしい。
まるで、これから暴かれていくやつらの本性のようだと思った。
どれほど香りや味に細工を凝らしても、所詮そのものの本質は変わらない。安かろう悪かろうを隠すための、下賤で卑劣な手段だ。
さぞ知識を培い、能力を磨き、実績を積み上げ、優越感を高めてきたのだろう。
さぞ人脈を広げ、体裁を取り繕うことに邁進し、処世術が上手くなったのだろう。
さぞ心を許せる相手を見つけ、豊かに物を手に入れ、幸福感を味わってきたのだろう。
さぞ、さぞ、さぞ……。
じつに、くだらない。
そんなものでいくら自らを飾り立て、満たしてきたところで本質は変わらない。
人の心の性根にあるものは、いつだって変わらない。
人は、そんな簡単に変わることなんてできない。
今度はペットボトルに入った水をひと口飲んだ。普通だ。普通の、水だ。
「ふふふ」
笑いが込み上げてくる。やめなければ、と再び思うも、どうやら今回ばかりは無理そうだ。
「さようなら。明るい未来たち」
画面に表示されたボタンにカーソルを合わせて、エンターキーを押す。
本性と真実を暴く時間の、始まりだ――。