『入れ替わり後初登校、お疲れ様でした。
 僕は多少慣れているとはいえ、美雨さんの方はかなり緊張したのではないでしょうか。かく言う僕も、何度かヒヤッとする場面がありました。初日は毎回緊張しますね……。
 さて、このノートは美雨さんと日々の出来事を共有したり、ちょっとしたルールを決めたりするのに活用したいなと思うのですが、いかがでしょうか?
 一つだけ最初に例を挙げるとすれば、宿題についてです。
 宿題は、各自午後八時までに、入れ替わり先でやっておくことにしませんか? やっぱり、その日の授業を受けた人がやるべきだと思うんです。……と言っても、僕の方は美雨さんよりだいぶ頭が悪いので、多少ヘマをしてしまうかもしれませんが。
 もし、いやこうした方が良い、などの意見があれば、遠慮なくこのノートに書いてください。では、お返事お待ちしています』
 
 鳴海桜晴としての初登校を終え、無事に入れ替わりが終了すると、机の上のノートに、昨日と同じように桜晴からのメッセージが残されていた。
 ノートを読んで、彼がこの入れ替わりに関してかなり真剣に考えてくれていることが分かる。宿題の部分については概ね賛成だ。それから、日々の出来事を共有するというのも、大事なことだと思う。
 でも、一つだけ気に食わないことがあった。

「“美雨さん”、ってなんかやだ!」

 そう、私が不本意だと思ったのは、彼の私への呼び名だ。
 まだ関係性が希薄だから「さん」を付けるのは分かるんだけど、ノートに文字で残されると、なんだかむず痒い……!
 私は彼が書いたメッセージの隣に、こう書き記した。

『今日はお疲れ様でした。とても緊張しました。だって桜晴、あんまり友達いないみたいなんだもん。焦ったよ。誰と一緒に行動すればいいか分からないし。あ、でも安心して! なんと私、江川真斗くんと友達になりました。えへん。どうどう? 学校のこととか、記憶喪失のフリしてたくさん教えてもらいました。すごいでしょ。江川くん、私があんまり積極的に話しかけるからびっくりしてたけど(笑)。でも、好きな漫画が一緒だったから、意気投合したよ〜。明日からの生活が、楽しみになりました。
 それで、提案してくれたこのノートの件だけど、どちらも賛成です。
 宿題はやっておきます。てか桜晴、ノート汚すぎ! もうちょっと綺麗に書こうよ。私がお手本として美しいノートをつくってあげるから、桜晴もそっちでは丁寧にノート書いてよね。
 それと日々の共有についても、ぜひやらせてください。
 その上で一つだけ要望があります。
 私のこと、“美雨さん”じゃなくて“美雨”って呼んでください。私も桜晴って呼びます。』