――疑り深い性格の亜恋は、別名義で再始動を始めた彼女のことを、自分のツブヤイターの裏アカウントで、こっそり監視している。
あれからの皇愛莉は、否定から一転、自身のブログに盗作が事実であったことの謝罪や、ノベルマ大賞を辞退していた旨の報告文を掲載し、大炎上。だが、その炎上に反応することはなく亜恋やその他の被害者への謝罪メールを送信後、本人は活動を自粛。
やがて、激務だった大手企業を辞職し、自分の身の丈にあった会社へ再就職。初めての転職で最初の頃は業務を覚えるのに四苦八苦しているようだったけれど、社員への労りが深いアットホームの優良企業だったようで、人の温かさに感謝しながら前向きにキャリアを積んでおり、新名義『莉衣亜』での執筆活動も、無理のないペースで続けている。
もちろん、更新ペースは以前ほど早くない。むしろ仕事やプライベートが充実しすぎて、遅いぐらいの速度でのんびりと更新しているぐらいだ。
時々、そちらの名義で惚気のようなボーイフレンドの画像(後ろ姿)がツブヤイターに上がってくるが、それを見るとなぜか無性にイラっとするので、そんな時は冷静に『悪質な画像を通報』ボタンを押し、二度とその惚気画像が自分のパソコンの画面に表示されないよう徹底している。
いずれにせよ、正直、かつての『皇愛莉』よりも、今の方が彼女らしく充実した毎日を送っているように、亜恋には見えていた。
「今頃、リアルな恋愛にでも忙しいんじゃないですかねぇ」
「……へ? 何か言いました??」
「あ、いえ。こっちの話です。春奈ちゃん……あ、今の赤草先生ですけど。彼女に聞いた話によると、あの騒動の後、ファンタジー部門で受賞候補に上がってた人と付き合い始めてラブラブだって噂なので……」
「ええ⁉︎ そうなんですか? あの時のファンタジー部門っていうと……田所? 田中? 島田?? ニイト? んー、名前出てこないや。誹謗中傷の〝ぷんぷん丸〟の人ですよね?」
くすくすと笑いながら「はい」と頷く亜恋だが、もちろんのこと、ラブラブだというのは嘘だ。
実際、ツブヤイターを監視している限り、その二人は付き合っているというより、いざという時に踏ん切りのつかない男の方が、創作に仕事に資格取得にと忙しい女の尻に敷かれており、友達以上恋人未満といったモダモダした関係を、三年経った今でも続けているといった感じ。
なお、その男の名前は、田所でも島田でもない、ぷんぷん丸こと〝田島チイト〟である。
たいして興味がない人物だし、皇愛莉の男を宣伝する気もないので、ぷんぷん丸のままでいい。
「私も名前が出てこないです。でもそのぷんぷん丸、あの時の受賞候補者の中で、唯一、名義変更をせずに、元の名前のままで活動してたと思いますよ」
「そうなんですか⁉︎ めちゃくちゃ炎上してた気がするのに……」
「もちろん炎上の影響もあって一時期活動自粛はしてたみたいですけど、ツブヤイターの名義も当時のままだった気がしますし、最近では、ぷんぷん丸をネタにされつつも、異世界ファンタジーでバイクが出てくる作品を書いて、それがコアな層に微妙にバズって、コミカライズが決まってたと思います」
「ええっ。そうなんですか?」
「はい。まあその方の誹謗中傷は元々賛否両論ありましたからね。素直に謝罪する姿勢に胸を打たれて逆にファンになったって人もいたのかもしれないですけど……。もし私が誹謗中傷の被害者だったら、そのデビュー作に辛口レビューぐらいは返しちゃうかもなあ……なんて、もちろんそれは冗談ですけどね」
悪戯めいた表情でふふっと笑う亜恋に、加藤もつられて苦笑している。
「あはは。いやあ、気持ちはわかりますが、辛口レビューを書かれるのは版元としてもあまり笑えない話なんでね……。それはそうと、亜恋さん、妙に詳しいですよね?」
加藤に問われ、亜恋はタブレットから再び顔を上げた。
「そりゃもちろん、赤草先生からも色々情報が流れてきますし、当時は自分が絡む盗作のことはもちろん、告発文の騒ぎが刺激的すぎて、ハラハラしながら結果発表を見守ってましたから。残る二部門の受賞候補者さんが現在どうなったかもちゃんと把握してますよ」
「なんと……。えっと、恋愛小説部門に、ファンタジー部門に、青春部門に、あとどなたでしたっけ? ブログ部門?」
指折り数える加藤に、亜恋は人差し指を立ち上げて答えた。
あれからの皇愛莉は、否定から一転、自身のブログに盗作が事実であったことの謝罪や、ノベルマ大賞を辞退していた旨の報告文を掲載し、大炎上。だが、その炎上に反応することはなく亜恋やその他の被害者への謝罪メールを送信後、本人は活動を自粛。
やがて、激務だった大手企業を辞職し、自分の身の丈にあった会社へ再就職。初めての転職で最初の頃は業務を覚えるのに四苦八苦しているようだったけれど、社員への労りが深いアットホームの優良企業だったようで、人の温かさに感謝しながら前向きにキャリアを積んでおり、新名義『莉衣亜』での執筆活動も、無理のないペースで続けている。
もちろん、更新ペースは以前ほど早くない。むしろ仕事やプライベートが充実しすぎて、遅いぐらいの速度でのんびりと更新しているぐらいだ。
時々、そちらの名義で惚気のようなボーイフレンドの画像(後ろ姿)がツブヤイターに上がってくるが、それを見るとなぜか無性にイラっとするので、そんな時は冷静に『悪質な画像を通報』ボタンを押し、二度とその惚気画像が自分のパソコンの画面に表示されないよう徹底している。
いずれにせよ、正直、かつての『皇愛莉』よりも、今の方が彼女らしく充実した毎日を送っているように、亜恋には見えていた。
「今頃、リアルな恋愛にでも忙しいんじゃないですかねぇ」
「……へ? 何か言いました??」
「あ、いえ。こっちの話です。春奈ちゃん……あ、今の赤草先生ですけど。彼女に聞いた話によると、あの騒動の後、ファンタジー部門で受賞候補に上がってた人と付き合い始めてラブラブだって噂なので……」
「ええ⁉︎ そうなんですか? あの時のファンタジー部門っていうと……田所? 田中? 島田?? ニイト? んー、名前出てこないや。誹謗中傷の〝ぷんぷん丸〟の人ですよね?」
くすくすと笑いながら「はい」と頷く亜恋だが、もちろんのこと、ラブラブだというのは嘘だ。
実際、ツブヤイターを監視している限り、その二人は付き合っているというより、いざという時に踏ん切りのつかない男の方が、創作に仕事に資格取得にと忙しい女の尻に敷かれており、友達以上恋人未満といったモダモダした関係を、三年経った今でも続けているといった感じ。
なお、その男の名前は、田所でも島田でもない、ぷんぷん丸こと〝田島チイト〟である。
たいして興味がない人物だし、皇愛莉の男を宣伝する気もないので、ぷんぷん丸のままでいい。
「私も名前が出てこないです。でもそのぷんぷん丸、あの時の受賞候補者の中で、唯一、名義変更をせずに、元の名前のままで活動してたと思いますよ」
「そうなんですか⁉︎ めちゃくちゃ炎上してた気がするのに……」
「もちろん炎上の影響もあって一時期活動自粛はしてたみたいですけど、ツブヤイターの名義も当時のままだった気がしますし、最近では、ぷんぷん丸をネタにされつつも、異世界ファンタジーでバイクが出てくる作品を書いて、それがコアな層に微妙にバズって、コミカライズが決まってたと思います」
「ええっ。そうなんですか?」
「はい。まあその方の誹謗中傷は元々賛否両論ありましたからね。素直に謝罪する姿勢に胸を打たれて逆にファンになったって人もいたのかもしれないですけど……。もし私が誹謗中傷の被害者だったら、そのデビュー作に辛口レビューぐらいは返しちゃうかもなあ……なんて、もちろんそれは冗談ですけどね」
悪戯めいた表情でふふっと笑う亜恋に、加藤もつられて苦笑している。
「あはは。いやあ、気持ちはわかりますが、辛口レビューを書かれるのは版元としてもあまり笑えない話なんでね……。それはそうと、亜恋さん、妙に詳しいですよね?」
加藤に問われ、亜恋はタブレットから再び顔を上げた。
「そりゃもちろん、赤草先生からも色々情報が流れてきますし、当時は自分が絡む盗作のことはもちろん、告発文の騒ぎが刺激的すぎて、ハラハラしながら結果発表を見守ってましたから。残る二部門の受賞候補者さんが現在どうなったかもちゃんと把握してますよ」
「なんと……。えっと、恋愛小説部門に、ファンタジー部門に、青春部門に、あとどなたでしたっけ? ブログ部門?」
指折り数える加藤に、亜恋は人差し指を立ち上げて答えた。