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 翌日の昼頃、少し早めの休憩をとっていた愛莉の元に、ノベルマ編集部より一通のメールが届いた。
[緊急のご連絡/送信者:ノベルマ編集部 赤入 沙穂]
 全身の血がサッと凍りつき、どくどくと煩いぐらいに鳴る心音。新着通知を見ただけで額に汗が滲み、嫌な緊張が走る。
(やだ、なに……)
 昨晩声明文をアップロードして以降、愛莉はツブヤイターの通知も、ノベルマのサイトも、一切確認していない。
 現実を直視してしまったら、メンタルがやられるのは確実。今日の勤務にも差し支えるであろうから、ツブヤイターの反応も、ノベルマの投票がどうなっているかも、今の段階では確認していなかった。
 全ての確認は帰宅後に……と思っていたのだが、編集部からの個別連絡で、さらに『緊急』とまで書かれているのであれば、中身を確認せざるを得ない。
 生唾を飲み込み、意を決してタップする。
 内容はやはり、昨晩の告発文についてのことだった。
 昨晩、ノベルマの公式掲示板に悪意ある書き込みが行われたこと。
 その書き込み自体は投稿者本人によってすぐに削除されたものの、現在もSNS上にスクリーンショットが出回り憶測が飛び交っていること。
 それが原因でノベルマ大賞の投票コメントが荒れ、一時的にコメント欄を非表示に変更した状態で読者投票が継続されているということ。
 サイト上には本日の十一時頃に〝悪質なデマによる情報の撹乱に注意してください〟といった旨の注意喚起文が掲載されたこと。
 それから、問題の告発文について、一度、受賞候補者たち全員にヒアリングを行いたいため、急で申し訳ないが、編集部までご足労願えないか? といったような要請が書かれていた。
 予想はしていたが、まさか編集部がここまで早くに対応に回るとは思ってもみなかった。
 編集部側が希望する面談日は三日ほど記されていたが、落ち着かないためなるべく早めに申開きを済ませてしまいたい。
 愛莉は鞄から手帳を取り出して予定を確認する。
 一番早い候補日は明日の夕方。明日は確か、口うるさい上司が持病の通院日だとかで休みを取っていたはずだ。明日の午後なら会議もないし、対応しなければならない案件もない。
 おそらく今日予定されていた受賞候補者たちの宣伝配信はこのまま中止になるだろうし、今日は残業になっても構わないから早めに明日分の仕事を済ませ、明日午後は体調不良を申告して早退しよう。間違っても有給を使って事前の休暇申請をしてはならない。有給の取得に気づかれれば、口うるさい上司に嫌味を言われるのが目に見えているからだ。
 愛莉は即座に明日の早い時間を候補日にあげて返信を送る。
 ほどなくして編集部からの返信があり、愛莉は明日の午後五時頃、再びスターライト出版社の一室にて面談を行うことが決まった。