◇

 愛莉は翌朝、スマホの短い通知音で目が覚めた。
 ぶるっと身を震わせながら、重たいまぶたを持ち上げる。
 ――朝だ。
 ハッとしたように上半身を起こし、スマホの画面を見る。
 日曜朝七時十三分。
 ツブヤイターのDMに、数件の新着メッセージが届いていた。
 昨晩は宵町と日暮にメッセージを送ったところで力尽き、寝落ちしてしまっていた。
 新着メッセージはその当事者たちからの返信だろう。慌ててメッセージを開封する。
 まず一つ目、宵町から。
 ――深夜一時二十一分。
[昨日はどうも。グループDMの件、お誘いはありがたいんですが、私たちは一応ライバルなので。そういう馴れ合い、自分はちょっと]
 相変わらずの潔さと塩対応ぶりである。
 だがしかし、立て続けにもう一通、宵町からのメッセージが入っている。
 ――深夜一時三十二分。
[すみません。よく考えたんですが、やっぱりそのグループ、入れてもらっても良いですか。自分のいないところで、自分の話されるのもアレだと思ったので]
 やはり宵町は、どこまでも宵町だった。
 愛莉は苦笑をこぼしつつ、すらすらと返信を打つ。
[おはようございます。みなさん喜ばれると思いますしありがたいです。そうしましたらグループDMの方のメンバーに追加しておきますね]
 送信ボタンを押し、昨晩届いていた田島からのグループDMのメンバーリストに、宵町を加えておく。
 すでにそちらには青木の名前も入っていた。
 きっとスムーズにやり取りが済んだのだろう。
 後ほど挨拶するとして、引き続き愛莉は次の新着メッセージを確認する。日暮からだ。
 ――早朝四時四十五分。
[わー! 愛莉さんはじめまして、かな? 挨拶ぐらいは交わしたことあると思ったけど、こうやってちゃんとやりとりするのはじめてですよねー。なんか嬉しいですっ。昨日は茶会に参加できずごめんなさい! それはそうと、グループDMの件、お誘いありがとうございますっ。ぜひ入りたいですー!]
 思いのほか滑らかで、むしろ善意的な返事だった。
 今まで自分が偏った目で見ていただけなのだろうかと、少々意外に思いながらも、当然社交辞令かもしれないという思いも捨てきれなかった。
 あくまで淡々と、愛莉は返事を打つ。
[ありがとうございます! 昨日はお会いできなくて残念でしたが、色々ご事情もあることかと思いますし、またの機会に……ということで。グループDMの件もありがとうございます。メンバーに追加しておきますね。そちらには青春部門の青木さんもいらっしゃるので、顔を出しやすいかと思います。こちらこそ、なかなかきっかけが掴めずにいたので、お話できて嬉しいです! 今後もぜひ、よろしくお願いします]
 ぺこりと頭を下げる絵文字付きで、無難に紡いだ文章を送信する。
 そこでふと、日暮からのメッセージの受信時間に目を留める。早朝四時四十五分。ずいぶん早起きだな、と思っていると、ほどなくして日暮からの返信があった。
[えーっ! 愛莉さんやさしい! そう言ってもらえて嬉しーですっ。愛莉さんいつも忙しそうだし、ファンの方もいっぱいで、自分なんかが話しかけていーのかなって、躊躇してたんですよねー。お言葉に甘えてこれからはたくさん絡んじゃおうかなー、なんて。それはそうと、ちょっと気になってたんですけど、お茶会ってどうでした⁉︎ 春ちゃんもきたんですよね? 彼女、かわいくなかったですか⁉︎]
 ものすごい早さで返信がきたうえ、話がさらに掘り下がっていた。
 愛莉は先程の返信でやり取りを一旦閉じるつもりでいたのだが、どうやら日暮の方はまだ話し足りないといった様子。今日は日曜日だし、こちらが休日であることは日々のつぶやきからうっすら把握しているだろうから、遠慮なく、とでも思っているのかもしれない。
[お茶会、緊張もありましたが有意義な時間を過ごせましたよ。春奈さん、とても愛らしい方でお話もしやすかったですし、チイトさんが率先して盛り上げてくださいましたので、会話に困ることもなかった感じです]
 無難な印象を入れて返すと、すぐに既読マークがついた。
 メッセージを打ち込んでいる最中だというマークが出ている。この時間、朝食や朝食の準備で忙しくないのだろうか? ほどなくして返事が届く。
[そうなんですね! うわー、自分も行きたかったなあ。実は、一番気になってるの、宵町さんなんですけどね(笑)。作品も個性的だし、ツブヤイター見ててもかなり毒舌な人っぽいし、いったいどんな人なのかな、春ちゃん大丈夫かなって気になっちゃって]
 なるほど。それは確かに、宵町がいるグループDMの方では出せない話題だろうと、愛莉は腑に落ちる。
 茶会については、仲が良いという青木とすでにやり取りをしているものかとも思ったが、そこまで頻繁に近況報告をしあうような間柄ではないらしい。
[そうですね、宵町さんはとてもクールでご自身の意見をはっきり言われる方でしたよ。最初は少し怖い雰囲気もあったんですが、打ち解けてからはそれなりにユニークな会話もされてましたし]
 送信ボタンを押してから、『ユニーク』はちょっと言いすぎたかと苦笑をこぼす。
 宵町は別に、何か特別に面白い話をしたというわけではない。毒の入った発言や、田島との攻防戦めいたコミカルなやりとりが、ある意味面白く見えたな……と、愛莉が勝手に思っているだけだ。
[おー。そうなんですね。盛り上がってたならよかったです! いやでも、色々アレな噂もあるから、てっきりもっとホラーな感じになるのかと思ってました]
 語尾に泣き笑いのような絵文字がついている。
 ――アレな噂?
 愛莉はその文言を見て、にわかに眉をひそめた。
[アレな噂って、宵町さん、何か噂があるんです?]
 突っ込んでいいものか一瞬は迷ったのだが、わざわざ話題にあげてくるぐらいだし、思わずダイレクトに聞いてしまった。
 するとすぐに、待ってましたと言わんばかりの返事が届く。