正直、グループDMのリストに名前を並べたところで相手とうまくコミュニケーションが取れる気はしなかったのだが、いかにもな態度をとって器の小さい女だと思われるのも避けたいので、ここはあえて自分が声がけ役にまわり、余裕のあるところを相手にアピールしようと、そんなひねくれた打算が、愛莉の中にはあったのだ。
[そうなんですねー。いかにもバリキャリって感じな愛莉さんと、いかにも主婦っぽい感じのセイさんってなんか反対属性な気がしてたんで、意外な感じっす! すっごく助かるんですが、ただ……実は、そもそもセイさん呼ぶべきかどうか、ちょっと迷ってたんすよ]
ここぞとばかりに名乗りをあげたつもりが、意外な返事が届いた。
[え、どうしてです?]
素直に尋ねると、ここで返信に間が空いた。数分の沈黙を時間を挟んでから、言葉を選んで紡がれたであろうメッセージが再び届く。
[んー、春奈ちゃんがそこそこ仲良いみたいなこと言ってたんで、今日の昼は黙ってたんですけど……セイさんって、一部の界隈で『不正ランキング』って言われてるんすよね]
想像もしていなかった言葉に、愛莉は目を剥いてスマホを落としそうになる。
[え⁉︎ 不正って……いったいどういうことですか?]
深く考える間もなく、指が勝手に動いて送信ボタンを押していた。
[金で専門の業者を雇って、いいねとかブクマとか評価なんかを付けまくるんです。そうすると一時的にランキングが跳ね上がるんで、そこから注目を集めて這い上がってくみたいな。あくまで噂ベースの話ではあるんですけど、ネットで細かく調べれば意外とすぐわかっちゃうような情報なんで、ノベルマ界隈では知ってる人が結構いると思います。自分も飲みの席で創作仲間から聞いたんですが、もしそれが本当の話だとしたら、最終選考の読者投票だって、不正ブチかまされる可能性もあるわけじゃないっすか? そう考えるとちょっと怖いかなって思って……]
それは確かに、と愛莉は思う。
だが、田島の件にしても、日暮の件にしても、あくまで『噂』や『憶測』だ。
愛莉自信、噂や憶測には嫌な思い出がある。確証のない話には振り回されるべきではないと判断して、愛莉はつとめて冷静なメッセージを返すことにする。
[ですねえ。もしそれが本当なら許せない話ですけど、さすがにノベ大は破格の賞金もかかってますし、読者投票の不正チェックもしっかり行われると思いますから、私たちが過剰に警戒する必要はないんじゃないですかね?]
田島の憂慮もわからなくはないが、だとすれば尚更、愛莉は日暮に声をかけてみたくなっていた。
不正を信じているわけではないが、やり取りを重ねる上で、万が一にでも向こうが不正をしていたというボロを出そうものなら、証拠として編集部に垂れ込めばいいだけだし、そもそも、所帯じみた呟きや写真が多い日暮に、専門の業者を雇えるだけの贅沢な金があるとも思えなかった。
愛莉のメッセージに、すぐさま田島が反応する。
[それもそうっすね……。さすが愛莉さん、考え方が大人だなあ。まあ、一人だけ仲間外れにするのもアレですしね。そしたらじゃあ、お言葉に甘えて、セイさんの件と、あとはヤミさんの件、お願いしてもいいですか?]
愛莉は了解の旨の返事を送り、一旦画面から視線を外して、ぽすんと枕に埋まった。
(不正ランキングか……)
果たしてそんなことが、本当に可能なのだろうか。
ネットで調べればすぐにわかってしまうといっていたので、試しに検索してみようかとも思ったが、横になった途端に強烈な眠気に襲われ、それどころじゃなくなった。
愛莉は染み付いている仕事の癖で、なんとしてでも今日中にやらなければならないタスクを脳内に思い浮かべる。
一、簡単な文面で、宵町にお伺いを立てる。
二、やや凝った文面で、あまりやりとりをしたことがない日暮にお伺いを立てる。
三、インプット用の恋愛作品を読みにいく。
四、今日の分の小説――連載中の作品の続きかショートストーリーか――を執筆する。
読者投票が迫っている今、三と四も欠かせないタスクではあるが、それ以上に一と二は早い方が良いだろう。そう判断して、宵町に簡単なメッセージを、日暮にはやや畏まった文体のメッセージを送信する。
相手からの返事がくるまで〝三〟の小説を読みに行こうとして――……気がつけば愛莉は、スマホを持ったままストンと深い眠りについていた。
[そうなんですねー。いかにもバリキャリって感じな愛莉さんと、いかにも主婦っぽい感じのセイさんってなんか反対属性な気がしてたんで、意外な感じっす! すっごく助かるんですが、ただ……実は、そもそもセイさん呼ぶべきかどうか、ちょっと迷ってたんすよ]
ここぞとばかりに名乗りをあげたつもりが、意外な返事が届いた。
[え、どうしてです?]
素直に尋ねると、ここで返信に間が空いた。数分の沈黙を時間を挟んでから、言葉を選んで紡がれたであろうメッセージが再び届く。
[んー、春奈ちゃんがそこそこ仲良いみたいなこと言ってたんで、今日の昼は黙ってたんですけど……セイさんって、一部の界隈で『不正ランキング』って言われてるんすよね]
想像もしていなかった言葉に、愛莉は目を剥いてスマホを落としそうになる。
[え⁉︎ 不正って……いったいどういうことですか?]
深く考える間もなく、指が勝手に動いて送信ボタンを押していた。
[金で専門の業者を雇って、いいねとかブクマとか評価なんかを付けまくるんです。そうすると一時的にランキングが跳ね上がるんで、そこから注目を集めて這い上がってくみたいな。あくまで噂ベースの話ではあるんですけど、ネットで細かく調べれば意外とすぐわかっちゃうような情報なんで、ノベルマ界隈では知ってる人が結構いると思います。自分も飲みの席で創作仲間から聞いたんですが、もしそれが本当の話だとしたら、最終選考の読者投票だって、不正ブチかまされる可能性もあるわけじゃないっすか? そう考えるとちょっと怖いかなって思って……]
それは確かに、と愛莉は思う。
だが、田島の件にしても、日暮の件にしても、あくまで『噂』や『憶測』だ。
愛莉自信、噂や憶測には嫌な思い出がある。確証のない話には振り回されるべきではないと判断して、愛莉はつとめて冷静なメッセージを返すことにする。
[ですねえ。もしそれが本当なら許せない話ですけど、さすがにノベ大は破格の賞金もかかってますし、読者投票の不正チェックもしっかり行われると思いますから、私たちが過剰に警戒する必要はないんじゃないですかね?]
田島の憂慮もわからなくはないが、だとすれば尚更、愛莉は日暮に声をかけてみたくなっていた。
不正を信じているわけではないが、やり取りを重ねる上で、万が一にでも向こうが不正をしていたというボロを出そうものなら、証拠として編集部に垂れ込めばいいだけだし、そもそも、所帯じみた呟きや写真が多い日暮に、専門の業者を雇えるだけの贅沢な金があるとも思えなかった。
愛莉のメッセージに、すぐさま田島が反応する。
[それもそうっすね……。さすが愛莉さん、考え方が大人だなあ。まあ、一人だけ仲間外れにするのもアレですしね。そしたらじゃあ、お言葉に甘えて、セイさんの件と、あとはヤミさんの件、お願いしてもいいですか?]
愛莉は了解の旨の返事を送り、一旦画面から視線を外して、ぽすんと枕に埋まった。
(不正ランキングか……)
果たしてそんなことが、本当に可能なのだろうか。
ネットで調べればすぐにわかってしまうといっていたので、試しに検索してみようかとも思ったが、横になった途端に強烈な眠気に襲われ、それどころじゃなくなった。
愛莉は染み付いている仕事の癖で、なんとしてでも今日中にやらなければならないタスクを脳内に思い浮かべる。
一、簡単な文面で、宵町にお伺いを立てる。
二、やや凝った文面で、あまりやりとりをしたことがない日暮にお伺いを立てる。
三、インプット用の恋愛作品を読みにいく。
四、今日の分の小説――連載中の作品の続きかショートストーリーか――を執筆する。
読者投票が迫っている今、三と四も欠かせないタスクではあるが、それ以上に一と二は早い方が良いだろう。そう判断して、宵町に簡単なメッセージを、日暮にはやや畏まった文体のメッセージを送信する。
相手からの返事がくるまで〝三〟の小説を読みに行こうとして――……気がつけば愛莉は、スマホを持ったままストンと深い眠りについていた。