空気を和ますように、愛莉は微笑んで言う。
「そうなんですね。意外でした。それじゃあ宵町さん以外でも、仲良くやりとりされてる方とかいらっしゃるんです?」
「はい。〝ルヨ〟の恋愛ジャンルの書き手さんとかはめちゃくちゃ仲のいい子が結構いたんですけど、みんな辞めちゃったり休止したりとかで、そちらは今も書いてる子自体が少なくて……」
ちらりと、愛莉の方に視線を投げつつ、少し寂しそうに呟く青木。
「あ、わかるかも。私の創作仲間にも結構いるなー。彼氏できたから創作どころじゃなくなったとか、リアルが忙しくなったとか……」
「あー、確かに、〝NARERUYO〟は登録者数が多い分、特に入れ替わり激しいっすよね。結果が出せなくて一、二年で辞めてっちゃう人とかも結構いるし。スッゲー才能あんのにもったいねーっていつも思うもん」
愛莉が同調して見せると、田島も前のめりで賛同してきた。
「チイトさんと愛莉さんは創作仲間多そうですもんね。ちなみにノベルマの方は、ヤミさん以外にもやりとりしてる方、何人かいますよ」
「え、まじすか。だれ?」
「ファンタジージャンルで活躍されてる書籍化作家の『マルコ』さんとか、前年度ノベ大受賞者の『ののあ』さんとか……」
「ええっ。まじで⁉︎ 『マルコ』さんとかノベルマに関わらず、ファンタジー業界じゃ鬼のように有名な人じゃん!」
「あとはエッセイ部門のセイさんとも、裏では結構やりとりさせてもらってますよ。セイさん、ノベ大に参加する時、ベンチマークとして私の作品を読んでくれたみたいで、受賞候補に入る前から編集部宛の感想をもらったり、ツブで繋がってからはDMでやりとりしたり、最近はどう、最近の高校生ってどんなのーって気にかけてもらったり、色々仲良くしてもらっていたので……」
「マジカー! なんだあ……セイさんと面識あったなら春奈ちゃんに声かけて貰えばよかったなー。っつか、春奈ちゃん界隈まじ激アツだな。めちゃくちゃ多方面にお仲間がいんのね」
いかにもはしゃいだように言う田島。青木はアイスティに口をつけつつ、落ち着いた口調でこぼした。
「田島さんほど数は多くないですよ。ありがたいことに、気にかけてもらったり仲良くしてもらってるような感じです」
「そっかあ。春奈ちゃん、ツブヤイターも常にポジティブ発言で性格も良さそうだし、年上から可愛がってもらえそうなタイプだもんね」
「いえ、そんなことは……」
謙遜しながら苦笑する青木に、田島は心からの賛辞を送っているように見える。
二人のキラキラしたやりとりを見ていると、やはり先ほどの『誹謗中傷の犯人が田島』という宵町の読みは、単なる勘違いや誤解だったのではないだろうかと、そんな気にすらなってくる。
(創作仲間……か)
――宵町の推測に疑念を抱く一方で、愛莉は、どことなく気後れしていた。
自分にも、やりとりを交わす創作仲間はいる。
しかし、最近は忙しくて、相手の作品を読みに行くことはあってもコメントを残せずにいたり、疎遠になっていることが多いと感じていた。
特に、自分より読者数が少なかったり経験の浅い創作仲間が早々に書籍化を決めたりコンテストで入賞しているのを見かけると、嫉妬めいた気持ちが止まらず、『おめでとう』を言うのですら躊躇いがちになってしまうことがあった。
そういう醜い感情を抱えている自分を曝け出すのが嫌で、最近はそういった書き手仲間からは自ら離れるようにし、自分の作品を愛してくれる読者とのやりとりを重視するようになっていた。
だから、どんなにプライベートで疲れていても読者との関わりを絶やすことはないし、毎日、連載小説の更新や、あるいは即興で作った短編ショートストーリーの公開を欠かすことはしない。
読者からの『愛莉さんの小説マジ大好きです』とか、『愛莉さんの新作だけが生きがいです』とか。自分を認めてくれる賞賛の声だけが、自分を生かす活力のように感じていて――。
「……愛莉さんは、特に仲のいい創作仲間とかいます?」
「え? あ、えっと……」
突然田島に話をふられ、ハッとする。
額にじわりと汗が滲んだ。創作仲間ならいる。ツブヤイターにも、ノベルマにも、〝NARERUYO〟にも。けれど、ここで名前を挙げられるほど、腹を割って、自分を曝け出して、何かを語り合える仲間っていただろうか?
「い、いますよー。でも最近は……」
自分でもよくわからないほど心拍数が上がり、全身が粟立つような、得体のしれない感覚に襲われていた――そのとき、ガチャリと扉が開いた。
「っと、ヤミさん、おかえりっすー」
宵町が部屋に戻ってきた。
田島がにこやかに出迎えたが、相変わらず宵町は「どうも」とそっけなくぺこりと小さく会釈をしただけで、冷ややかな目線を田島に向けている。
一方でソファの端に座っている青木が、再び顔を強張らせておたおたと視線を外した。
「あー……てか、もうこんなに時間経ってるじゃん。仲間の話もいいけど、せっかく集まったんだし、もっと表じゃ話せないような有益な情報交換とかしましょー?」
田島が気を利かせたように話題を切り替えたので、愛莉はほっとしたように小さく頷いてそこに飛び乗る。
「そ、そうですね。有益情報って言っても、たいした情報は持ってないですけど……普段はできない話がしたいですよね」
「そーそー。そうだ、みんなは読者投票期間とかどうします〜? ツブヤイターの宣伝はもちろんっすけど、配信機能使って呼びかけたりとか、前年は結構、特別ショートストーリーの連載をして読者にアピールしたりとか色々やってたみたいで……」
――結局。
誹謗中傷の話も、宵町と青木の確執の話も、青木のやらかしの話も、腫れ物のを扱うようそれ以降は触れられることなく時は流れ、様々な雑談や情報を交わした後、解散の時間を迎える。
場を仕切り直してからは、宵町も青木もちょこちょこ話題に乗ってくれたためほどよく会話が盛り上がったこともあり、あっという間の数時間だったように思う。
会計を済ませた後、宵町は最寄りのバス停からバスに乗り、青木は最寄りの駅から地下鉄に乗り、そして私鉄組の田島と愛莉だけが、人で賑わう私鉄駅ホームに上がり、途中の駅まで同行することになったのだった。
「そうなんですね。意外でした。それじゃあ宵町さん以外でも、仲良くやりとりされてる方とかいらっしゃるんです?」
「はい。〝ルヨ〟の恋愛ジャンルの書き手さんとかはめちゃくちゃ仲のいい子が結構いたんですけど、みんな辞めちゃったり休止したりとかで、そちらは今も書いてる子自体が少なくて……」
ちらりと、愛莉の方に視線を投げつつ、少し寂しそうに呟く青木。
「あ、わかるかも。私の創作仲間にも結構いるなー。彼氏できたから創作どころじゃなくなったとか、リアルが忙しくなったとか……」
「あー、確かに、〝NARERUYO〟は登録者数が多い分、特に入れ替わり激しいっすよね。結果が出せなくて一、二年で辞めてっちゃう人とかも結構いるし。スッゲー才能あんのにもったいねーっていつも思うもん」
愛莉が同調して見せると、田島も前のめりで賛同してきた。
「チイトさんと愛莉さんは創作仲間多そうですもんね。ちなみにノベルマの方は、ヤミさん以外にもやりとりしてる方、何人かいますよ」
「え、まじすか。だれ?」
「ファンタジージャンルで活躍されてる書籍化作家の『マルコ』さんとか、前年度ノベ大受賞者の『ののあ』さんとか……」
「ええっ。まじで⁉︎ 『マルコ』さんとかノベルマに関わらず、ファンタジー業界じゃ鬼のように有名な人じゃん!」
「あとはエッセイ部門のセイさんとも、裏では結構やりとりさせてもらってますよ。セイさん、ノベ大に参加する時、ベンチマークとして私の作品を読んでくれたみたいで、受賞候補に入る前から編集部宛の感想をもらったり、ツブで繋がってからはDMでやりとりしたり、最近はどう、最近の高校生ってどんなのーって気にかけてもらったり、色々仲良くしてもらっていたので……」
「マジカー! なんだあ……セイさんと面識あったなら春奈ちゃんに声かけて貰えばよかったなー。っつか、春奈ちゃん界隈まじ激アツだな。めちゃくちゃ多方面にお仲間がいんのね」
いかにもはしゃいだように言う田島。青木はアイスティに口をつけつつ、落ち着いた口調でこぼした。
「田島さんほど数は多くないですよ。ありがたいことに、気にかけてもらったり仲良くしてもらってるような感じです」
「そっかあ。春奈ちゃん、ツブヤイターも常にポジティブ発言で性格も良さそうだし、年上から可愛がってもらえそうなタイプだもんね」
「いえ、そんなことは……」
謙遜しながら苦笑する青木に、田島は心からの賛辞を送っているように見える。
二人のキラキラしたやりとりを見ていると、やはり先ほどの『誹謗中傷の犯人が田島』という宵町の読みは、単なる勘違いや誤解だったのではないだろうかと、そんな気にすらなってくる。
(創作仲間……か)
――宵町の推測に疑念を抱く一方で、愛莉は、どことなく気後れしていた。
自分にも、やりとりを交わす創作仲間はいる。
しかし、最近は忙しくて、相手の作品を読みに行くことはあってもコメントを残せずにいたり、疎遠になっていることが多いと感じていた。
特に、自分より読者数が少なかったり経験の浅い創作仲間が早々に書籍化を決めたりコンテストで入賞しているのを見かけると、嫉妬めいた気持ちが止まらず、『おめでとう』を言うのですら躊躇いがちになってしまうことがあった。
そういう醜い感情を抱えている自分を曝け出すのが嫌で、最近はそういった書き手仲間からは自ら離れるようにし、自分の作品を愛してくれる読者とのやりとりを重視するようになっていた。
だから、どんなにプライベートで疲れていても読者との関わりを絶やすことはないし、毎日、連載小説の更新や、あるいは即興で作った短編ショートストーリーの公開を欠かすことはしない。
読者からの『愛莉さんの小説マジ大好きです』とか、『愛莉さんの新作だけが生きがいです』とか。自分を認めてくれる賞賛の声だけが、自分を生かす活力のように感じていて――。
「……愛莉さんは、特に仲のいい創作仲間とかいます?」
「え? あ、えっと……」
突然田島に話をふられ、ハッとする。
額にじわりと汗が滲んだ。創作仲間ならいる。ツブヤイターにも、ノベルマにも、〝NARERUYO〟にも。けれど、ここで名前を挙げられるほど、腹を割って、自分を曝け出して、何かを語り合える仲間っていただろうか?
「い、いますよー。でも最近は……」
自分でもよくわからないほど心拍数が上がり、全身が粟立つような、得体のしれない感覚に襲われていた――そのとき、ガチャリと扉が開いた。
「っと、ヤミさん、おかえりっすー」
宵町が部屋に戻ってきた。
田島がにこやかに出迎えたが、相変わらず宵町は「どうも」とそっけなくぺこりと小さく会釈をしただけで、冷ややかな目線を田島に向けている。
一方でソファの端に座っている青木が、再び顔を強張らせておたおたと視線を外した。
「あー……てか、もうこんなに時間経ってるじゃん。仲間の話もいいけど、せっかく集まったんだし、もっと表じゃ話せないような有益な情報交換とかしましょー?」
田島が気を利かせたように話題を切り替えたので、愛莉はほっとしたように小さく頷いてそこに飛び乗る。
「そ、そうですね。有益情報って言っても、たいした情報は持ってないですけど……普段はできない話がしたいですよね」
「そーそー。そうだ、みんなは読者投票期間とかどうします〜? ツブヤイターの宣伝はもちろんっすけど、配信機能使って呼びかけたりとか、前年は結構、特別ショートストーリーの連載をして読者にアピールしたりとか色々やってたみたいで……」
――結局。
誹謗中傷の話も、宵町と青木の確執の話も、青木のやらかしの話も、腫れ物のを扱うようそれ以降は触れられることなく時は流れ、様々な雑談や情報を交わした後、解散の時間を迎える。
場を仕切り直してからは、宵町も青木もちょこちょこ話題に乗ってくれたためほどよく会話が盛り上がったこともあり、あっという間の数時間だったように思う。
会計を済ませた後、宵町は最寄りのバス停からバスに乗り、青木は最寄りの駅から地下鉄に乗り、そして私鉄組の田島と愛莉だけが、人で賑わう私鉄駅ホームに上がり、途中の駅まで同行することになったのだった。