それからというもの、僕たちは夏休みの間じゅう、河原で会い続けた。
 高校での交友関係について、進路について、楽しい話もあれば、お悩み相談をすることもあった。まったく違う地域の同級生だからか、お互いの高校生活の違いが顕著に分かって面白かった。

「東京の高校生って、放課後にライブなんか行くの!? いいなあ。私のところは、そういう娯楽が皆無だから。せいぜい駅前のチェーン店で一服するぐらい」

「まあ、僕は行かないけどね。ただでさえうるさいのにライブなんて、心臓がもたないよ」

「はは、そっか。それは損だね?」

 ハルカは僕の音の症状を揶揄うくらいに打ち解けてくれて。僕も彼女からいじられるのは全然不快じゃなかった。

 夏休みの三週間、母親は実家で祖母とのんびりお茶したり旧友に会いに行ったりしている中、僕はひたすらハルカの隣で話をしたように思う。普段の自分からは考えられない。高校では、こんなふうに友達と仲良くおしゃべりをすることもないから。

「あ、もうこんな時間か。そろそろ帰らなきゃ」

 夏休みも残り一日を残し、彼女との日々も終わりに近づいていた。夕暮れ時の時間になり、ハルカは持って来た鞄を持ち、立ちあがろうとした。
 その時、彼女の鞄の中からするりと何かが落ちる。

「あ、ごめんっ」

 ハルカが落としたものを拾おうとする。でも、僕がそれを——文庫型のノートをじっと見つめていたからか、彼女はぎこちなく動きを止めた。
 そのノートは、僕が以前ハルカから渡された日記と同じ大きさだが、表紙の色が違っていた。今ハルカが落としたのは、ブルーの表紙だ。

「それって、例の日記? まだ続けてるの?」

「ああ、うん。でもこれは……」

 僕の質問に、彼女の目が泳ぎ出す。
 僕は彼女の落としたノートを拾う。ハルカが「あっ」と声を上げた時にはもう遅かった。
 ノートはある一ページが開かれた状態で落ちていたので、自然と内容に目がいってしまう。

『二〇二二年八月一日。ハルカと約束した河原にやって来た。“透くん”らしき人物は現れなかった。夕方まで待って帰った』

『二〇二二年八月二十五日。どうやら今年はもう来ないみたいだ。東京の子だって聞いてたし、忙しいのかな。また来年に期待』

『二〇二三年八月一日。今年も透くんに会うために頑張って待ってみる。ハルカとの約束だから。絶対に伝えないと』

『二〇二三年八月二十七日。今年もダメだった』

 日記に目を通しながら、僕の頭は混乱していた。
 ハルカとの約束? 
 透くんらしき人?
 どうしてハルカ本人が(・・・・・・)、まるで他人事のような口ぶりで日記を書いているのだろう。
 見れば、目の前のハルカの表情がどんどん曇っていくのが分かった。心の音はピリピリ、チリチリ、と緊張感のあるものに変わる。水族館で聞いたものと同じだ。やっぱりハルカは何かを隠している——。