部屋に着いた俺はトートバッグから自分の執筆ノートを取り出し、今日彼女に話した自分の奥底の想いを箇条書きでまとめる。
 溜まっていたもの全てを掻き出せたからか心は軽くなり、物語の構成をまとめていざ文章を書こうとして手を止める。

 この話は、あの日行けなかった理由を伝え謝る為に書いた物語。
 だからこの話は、彼女が書いたメッセージの後の返事として読んで欲しい。
 そう思った俺は彼女の執筆ノートを出し、彼女のメッセージの後に物語を書き始める。
 するとその手は止まることを知らず、俺が握るボールペンはカリカリと文字を綴ってくれた。
 
「……ふぅ」
 想いの全てを物語に落とし込むことが出来た頃には、カーテンより朝日が溢れてきていた。
 結局徹夜してしまったと苦笑いを浮かべながら読み返そうとページを戻すと、そこには初めて目にする物語があった。
 こんな話あったかと遡っていくと、どうやら吉永さんは俺が避けた後でも一人で執筆していたみたいだ。
 だけどその話は途中で途絶えておりまだ未完成で、その次のページに俺へのメッセージが書き込まれていた。

 どんな物語を執筆していたのかと読み進めていくと、大切な人に避けられるようになってしまった主人公の女子高生がどう謝って良いのかが分からず悩んでいて。それを助けてもらう為に、十年後の自分に来てもらうという内容だった。
 十年後から来た女性は、優しくて、包容力があって、ハキハキしていて、そして女性らしい口調だった。

 未来の吉永さんの、言葉遣いに対する違和感。
 気軽に手を握って座らせてくれた、あの積極性。
 彼女が十年前のノートだと渡してきた物が、綺麗過ぎた理由。

 その中で俺が出した結論は一つ。
 ……彼女は、十年後の吉永さんじゃない。