そんな関係がまた変わった、いや変えてしまったのは高校二年生の春。
 きっかけは吉永さんと、同じクラスになったことだった。

 彼女は変わらず学校では関わろうとせず、俺は平穏な生活を送っていた。
 時折、吉永さんを目で追いそうになり、慌てて逸らす。
 それに気づいたのか彼女も一瞬だけこちらに目をやって、すぐ逸らすことをしてきて、横目にその気配を感じる。
 たったそれだけで心は満たされ、にやけそうな口元を抑えて俯いてしまう。
 それはまるで、切り取られた小説のワンシーンみたいだった。
 そんな一瞬が嬉しくて。
 あの場所で会える時間が楽しくて。
 物語のことを話している時間が永遠に続いて欲しいと願ってしまって。
 かけがいのない時間になっていて。

 だからこそ俺は、段々と彼女を避けるようになってしまった。

 そんな一学期の終業式前日だった。
 雨がポツポツと降った日、移動教室の為にクラスメイト全員が出払った教室から出ようとすると、そこに吉永さんが居た。
 学校で関わってくるのは初めてで戸惑っていると、彼女は自身の青色ノートを渡してきて、そのまま走り去ってしまった。
 ペラペラとページを捲ると、そこには。
『渡辺くんへ
 話したいことがあります。明日、いつもの場所に来てくれませんか?』
 と、初めて約束をする文章が綴られていた。

 だけど俺は、あの日あの場所に行かなかった。
 この胸の高鳴りが、怖かったからだ。