「ああっ、さっさとランカールに戻って、恋人が死んで傷心中のフィーネと金玉が痛くなる程ヤリてぇぜ!」

 フィーネの顔を思い浮かべ、オルテガは男の欲望を膨らませる。
 フィーネは金髪碧眼で少し吊り目のクールな女だ。いつもは物静かだが、戦いの時となると表情がより厳しくなり、戦闘が終わると安堵して笑みを浮かべる。そのギャップにオルテガは夢中だった。
 彼女にはパーティー加入後から二年もの間アプローチをしていたが、肝心なところであと一歩及ばなかった。

(それを、あの糞野郎はたったの数か月で、だと? 許せるはずがねえ!)

 思わず麦酒のジョッキを握る手に力が入る。

「へへっ、逸るなよお頭。そもそもそんなに簡単に行くんですかい?」
「簡単に、とはどういう事だ?」
「フィーネだって本気でアデルと付き合ってたんでしょうに。死んだからってすぐにお頭に乗り換えるってぇとのは、ちょっと考え難いって事ですよ」
「ああ、そいつは簡単な話だ。直径三メルトほどの()()()()()()()()便()()()()()()()()()()簡単さ。こいつがあればな」

 オルテガは下卑た笑みを浮かべて、ポケットからワインを更に濃い色にした様な液体が入った小さな小瓶を取り出した。

「それは何かの薬で?」

 イジウドがオルテガに訊いた。

「ああ、闇市のルーアンは知ってるだろう?」
「ルーアン? 闇市で怪しげな薬を売ってるっていうあのルーアンかい?」
「そうだ。こいつはそのルーアン史上最高傑作の薬ってわけだ。文字通り()()()()()()()だぜ」

 オルテガの説明に、ギュントとイジウドが首を傾げる。
 闇市のルーアンは、魔法と薬学を混ぜて禁忌に触れたせいで、魔法学からも薬学の方から嫌われ、どこにも居場所をなくした薬師だ。
 今では魔法と薬学を混ぜた劇薬を闇市で売って生計を立てているそうだ。薬の副作用で死んだ人間もおり、ルーアンの薬は自分で飲むより人に飲ませて暗殺する方が使い勝手が良いとまで言われている。

「簡単にいやぁ、男を知らない修道女でもこれをひと口飲ませるだけで狂った様に男を求めちまう()()()()媚薬だ」
「び、媚薬? 本当に効くのだろうか?」

 魔導師イジウドが懐疑的な表情を見せる。
 媚薬という売り込みの薬は闇市以外にも多く存在するが、実際は気分的なもので、効果がないものが大半だ。魔法学で言っても、人の心を操る魔法はあっても都合よく性欲だけを増強する魔法など存在しないのである。
 しかし、オルテガはそんなイジウドを一蹴する。

「ああ、実際使うまではマユツバだったが、それも一回試すまでだ。事前に三日は禁欲しておくべきだったと後悔したくらいにはな」

 先日娼館でひとりの娼婦を一晩買った時の話だ。その女は娼婦のくせに本番行為は嫌だと言い、口だけで満足する様にオルテガに懇願した。
 どうやら恋人に娼館で働いている事が判明し、別れを切り出されていたそうだ。金の為に娼婦はやめられなかったが、男とも別れたくないらしい。金を上乗せしても絶対に嫌だと言って聞かなかった。
 頭に来たオルテガは、この媚薬をその娼婦に無理矢理飲ませたのだ。

「それで、その女はどうなったのだ……?」
「どうなったと思う? 聞いて驚くなよ?」

 ごくり、とギュントとイジウドが固唾を飲んだ。

「一晩どころか二晩ほどヤリまくってたよ。ヤリ過ぎて穴が擦り切れて血ぃ出てやがんのに、ずっと上になって狂った様に腰振ってやがったぜ。挙句にケツ穴まで差出やがった」

 御蔭で金玉が二つともスッカラカンになっちまったよ、とオルテガは下品な笑い声を上げた。

「ひええええ! マジかよ、俺も買おうかな」
「おう、買え買え! 帰りに闇市でお前らの分も買ってやるぜ。今回のアデル殺しの褒美だ」
「やったぜ、さすがお頭!」

 オルテガ一行の下品な会話は、アンゼルム大陸に着くまで尽きなかったという。