偵察魂 

 若い女性の体から偵察魂がふわっと浮き出て空中に遊離した。それはマンションの一室の天井近くにとどまってあらゆるものを見下ろした。
 突然ぶるっと震えた。体内にいる卵子に報告する準備が整ったのだ。しかし、偵察魂は自らの言語を持っていなかった。だから、状況を言語にして的確に説明することはできなかった。そのため、捉えた映像と音声をそのまま送り届けることしかできなかった。ただ、それは単なる映像と音声ではなかった。偵察魂が見た人物の心を写し取り、心の声を読み取ることができるものだった。だから、映像と音声を受け取った卵子はその人の言動だけでなく、何を見て、何を思い、何を考えているのかまで把握することができた。更に、その背景や過去の出来事まで掴むことができた。あらゆる情報が送り届けられることになるのだ。
 偵察魂がゆっくりと降下し始め、2人の人物に近づいた。それは将来のママとパパになる人物だった。
 またぶるっと震えた。その瞬間、卵子への送信が始まった。