太陽系の微惑星が衝突・合体を繰り返して原始の地球が出来上がりました。それが46億年前のことです。原始の地球は今の半分くらいの大きさでしたが、そこに次々と微惑星が衝突してきました。そのエネルギーは凄まじく、地表が高温になってドロドロに溶けたマグマの海が出来上がりました。この時、鉄やニッケルなどの重い物質は地球の中心へと沈んでいき、それが核になりました。そして、軽い物質はマントルや地殻になったと考えられています。その後、衝突する微惑星が減っていきました。すると地球の表面は冷えていき、地表が出来上がりました。それと共に大気中に存在していた水蒸気が雨となって降り注ぎ、それが海になりました。海ができたのは約44億年前と考えられています。しかし、海ができたからといってすぐに生命は誕生しませんでした。その後も微惑星の衝突が続いたからです。そのエネルギーによって海の水は何度も蒸発したと考えられています。やっと安定的に海が存在できるようになったのは約38億年前になってからです。

「そこから生命誕生へと繋がっていくんだよね」
「そうなの。熱水噴出孔がある場所で最初の生命が誕生したことはこの前話したわよね」
 新は頷き、「単細胞の微生物だったよね」と答えた。
「ありがとう、覚えてくれていて」
 自分の話に興味を持って積極的に理解しようとする夫がたまらなく愛しくなった。だから抱きつきたくなったが、ぐっと我慢して話を続けた。
「単細胞の生物は核を持っていない原始的な形をしていたの。そして、酸素がなくても生きていくことができたの。でもね、海の中で取り込める有機物には限界があって、自分で栄養を作り出す必要に迫られたの」
「それって光合成?」
「ピンポン。あなたって凄~い」
 考子がキッスを投げると、新は口をすぼめて受け取った。それに気を良くした考子は更に熱を込めて話を続けた。
「シアノバクテリアという光合成をするバクテリアが単細胞生物の中に入り込んで、それが葉緑素になって光合成を始めたの。その中から藻類が現れて更に光合成が進んで、そこで生み出された酸素が海中に蓄えられていったの。海の中に酸素が増えてくると、それを利用して呼吸する微生物も誕生したの。海の中に多様性が生まれたのよ」

 単細胞生物は当初、核膜がなくDNA分子が裸のままになっている原核生物だけでしたが、その後、核膜を持つ真核生物が現れ、更に長い年月をかけて多様な進化を遂げていきました。そして、遂に多細胞生物が生まれることになったのです。その進化の過程には20億年以上という長い年月が要されたと考えられています。
 
「ところで、陸上では生命は誕生しなかったの?」
「そう、陸上では無理だったの。強い紫外線が立ちはだかっていたから」
「そうか、紫外線か~、なるほどね。強い紫外線は生物のDNAを破壊してしまうから生きていけないんだよね」
 納得顔で新が頷いた。
「そうなの。陸上で生物が生きていくためには紫外線対策が必要だったの」
「確かに。その頃、UV化粧品はないしね」
 新は化粧品会社のコマーシャルを頭に浮かべていた。
「水着の女性のことを考えていたでしょ」
 頭の中を見透かされた新はドキッとしたが、〈そんなことないよ〉というふうにポーカーフェイスでとぼけた。
「UV化粧品はなかったけど、強い味方が生まれたの。なんだと思う?」
 いきなり質問をふられた新は戸惑ったが、頭の中の水着女性を追い出して必死に考えた。
「オゾン層」
「そう、大正解」
 考子が、新の頭をイイ子イイ子するふりをした。

 海中の藻類が活発な光合成を行った結果、海中で飽和状態になった酸素は海面から大気中に放出され、徐々に酸素量が増えていきました。それがオゾンへと変わり、その後、長い時間をかけて上空にオゾン層が形成されました。生物にとって有害な紫外線が上空で吸収されるようになったのです。

「オゾン層といえば、オゾンホールが拡大しているという報告があったんじゃなかったっけ」
「そう、日本人の研究者が発見したのよ」
「えっ、日本人? 確か宇宙最古の光を観測したのも日本人だったよね。やるね、日本人も」
 新は我がことのように顔を綻ばせた。
「そうなのよ。気象庁の予報研究部に所属していた南極地域観測隊員が1982年に昭和基地でオゾン層の観測をしている時、南極上空のオゾン量が著しく減少していることを発見したの。それを国際会議で発表したのが世界初の南極オゾンホールの報告なの。オゾン層は太陽からの有害な紫外線を吸収して地上の生態系を保護すると共に成層圏の空気を温める効果があるから、生物や気候に大きな影響を及ぼすことがわかっていて、当時大変な反響があったらしいの」
「それって、確かフロンが原因だったよね」
「そう、冷蔵庫や空調機に使われているフロンは夢のガスとも呼ばれて色々なものに使われていたの。そしてその多くが廃棄される時に空気中に放出されていたの。当時誰も有害だと思っていなかったのよ。でもね、アメリカの研究者がフロンによるオゾン層破壊の可能性を指摘して大騒ぎになったの。その後、国際的な議論が盛り上がって、1985年に『オゾン層保護のためのウィーン条約』が締結されたの。そして、1987年に『オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書』が採択されて、やっとフロンの規制が本格的に始まったの。現在は代替フロンが使われるようになっているけど、温室効果が高いことには変わりがないから、将来的にはノンフロンへの代替が必要と言われているわ。でも、ノンフロンの開発は緒に就いたばかりだし、オゾンホールの動向には注意が必要ね」
「オゾン層が破壊されると皮膚がんの発生が増加すると言われているので心配だな。僕たちの子供の健康のためにも一日でも早く解決して欲しいね」
 新は不安そうな目で考子のお腹を見つめた。