*  *
 東京都の23区内に住んでいる考子は、住居地の区の保健相談所のホームページを見ていた。母子手帳の交付をしてもらうためだ。何箇所かある中から最寄り駅に一番近いところを選んだ。
 その翌日、9時前に保健相談所に着いた考子は、すぐに窓口に行って母子手帳の交付を依頼した。
「この妊娠届に記入してください」
 丸顔で感じの良さそうな中年女性から用紙を渡された。本人氏名や夫の氏名、住所や妊娠週数、出産経験、医師の診断、それに性病や結核に関する健康診断の有無まで書くようになっている。一番下にはマイナンバーの記載箇所もあった。間違いのないように慎重に記入していき、それが終わると下欄にあるアンケートの質問項目を確認した。妊娠がわかった時の気持ちや分娩予定施設に加えて里帰りの予定などの項目もあった。これは差しさわりのないところだけを記入して提出した。
 担当者による記入内容の確認が終わると、いくつかの物を渡された。母子健康手帳と出生通知表に加えて母と子の保健バッグというものがあり、色々な受診票が入っていた。妊婦健診診査受診票、妊婦超音波検査受診票、妊婦子宮頸がん検診受診票、新生児聴覚検査受診票。そして各種案内も同封されていた。母親学級・パパとママの準備教室のご案内、妊産婦歯科検診のご案内、里帰り出産等妊婦健康診査費助成のご案内、子育て応援ハンドブック、父親ハンドブック、マタニティストラップ等々。覚えなければいけないこと、勉強しなければいけないことがいっぱいあった。そのせいか、「ふ~」と聞こえてしまうようにため息をついてしまった。それを耳に留めたのだろう、担当者はくすっと笑って「一つずつ、少しずつ、ゆっくり確認していってください」と優しい眼差しを投げかけてくれた。
 そうですね。出産までの長い旅が始まるのだから、今から気が急いていたんじゃ持たないですよね。わかりました。焦らずゆっくり一つずつ確認していきます。
 心の中で呟いた考子は担当者に目礼をして保健相談所をあとにした。