ギラギラ照りついていた太陽が姿を隠し、代わりに月光が辺りを照らす。暗闇の中、まるで一筋の光みたいな言葉通りの景色で、静かに身体を休める。
私には両親が居ない。居たかもしれないが、顔も名前も一切知らない。そしてどうやら兄弟もいるらしいが、物心ついた時から私は一人。
産まれた時から孤独であり、幼少期は気味が悪いと追いやられ、時には命の危険を感じる程身体を痛め付けられたこともある。成長した私はどうやら化けるタイプらしいが、今更綺麗と誉められた所で心の傷は治るわけが無い。
だからかな。誰も信じられくて、誰も助けてなんてくれない。そう思うのはある意味当然のことだ。
それなのに、彼に対する興味の感情が頭から離れない。理由なんて分からない、好奇心という言葉で終わらせたくない。ただ透き通るような白い肌の彼の姿が、目、頭、私の全てが焼き付いて離れない。
誰にも見つからないように身を守り、身体を隠して明日を迎える。ここが何処だか正直分からないが、だけどあの場所へ、私の本能が手助けしてくれるのならば彼にまた会える。
そう信じて。どうやら明日も晴れらしい。私の直感はハズレない。
身体を動かす時間がやってきたが、やっぱり朝から蝉がうるさい。ミンミンジージーと、そんなに鳴くから子供に見つかるのも分からないのかな。学習能力の無い奴らめ。噂に聞くと鳴いてる蝉はオスだけらしく、メスを引き寄せる為に大きな声で鳴くのは強いアピール。
くっだらない。今まではそう思っていたんだけど取り消してあげる。だって私も、昨日の彼の姿を追い求めて同じ場所に向かっている。そっか、私も「くっだらない」一員だったみたいだね。
時計は持っていないから今が何時か分からないし、そもそも昨日が何時だったかも分からない。流れる水の音を頼りに、左右前後と周辺を探索しながら昨日の場所を探していく。
フワッ
まるで背中を押されるような涼風。「アッチだよ」と、風が導いてくれるかのような心地好くて優しい風圧。
視線の先、目的の場所。
昨日と同じ場所に一人の男の子。
「良かったね」と、またしても風の声が聞こえてきそうな暑い夏の香りに包まれながら進む目的地。
近づくことはしない。またしても遠くで見ているだけ。
──ミンミンミーン
うるさいなぁ、ほっといて。あんた達みたいに私は積極的じゃないの。
──ジージージージ
分かってるって。だけどあんた達だって分かってるじゃん。煽らないでよ。
ミーンミーン ジージージージ
蝉達が悪いんだ。蝉が鳴くのは求愛のアピールの筈なのに「声をかけろ」「ビビってるの?」と、全く違う意味で私を焚き付ける。触りたくもない容姿のくせに。