目が覚めたら夏の暑い、気温が上昇する前の時間帯。暑いは暑いが比較的涼しい、ふわりと風が心地いい良い晴天の朝。
 
 蝉の音がうるさい。朝からそこまで鳴かなくても、君たちの存在は強いからそこまで主張しなくても良い。何故小学生くらいの男の子が、キラキラとした眩しい笑顔で、蝉達を捕獲するのか全く理解が出来ない。
 けっこう気持ち悪くない?あのフォルム。しかも何年も土の中にいて、ようやく開放されたところで捕獲されるって、運が悪いのにも程がある。せっかく目が覚めたのに、蝉なんかで「今日」を始めたくない。

 何処に行こうか。ワクワクするような、それでいて嬉しさが溢れるようなそんな一日を探し求め、夏の青い空の下。行ったことのないあてのない旅をする。

 風に身を任せ、花の匂いに誘われ、空に吸い込まれ、木陰で休む。
 照り出している太陽に、帽子なんて被らない。


 きっと私は生まれた時から、死ぬまでこんな感じだろう。
 これが私。何者でもない、私だ。誰にも縛られず、自由気ままに。


 水の音が聞こえ、行ったことが無い河川敷の遊歩道を道なりに進むと、名前の分からない樹木の日陰で休んでいる一人の男の子の姿が見える。

「何をしてるんだろう」

 こっそり近づいてみると、高校生くらいの男の子がなだらかに流れる川の水を、ぼんやり眺めていた。携帯も触らず、体育座りで遠くを見つめている。

 カッコいいなぁこの男の子。

 第一印象はこれだった。黒髪の柔らかそうな髪の毛が、時々吹く気まぐれの強い風で乱れていたが気にもしないのか、遠くを見つめている体制は一つも変わっていない。
 夏なのに、日に焼けていない白い肌は半袖から見えている。何だかまるで、今日生まれたような透き通る白い肌。まだ大人の階段を全て登っていない顔立ち。

 その姿を見ているだけ。遠くでその容姿を見ているだけの私。
 声なんてかけられない、私は見ることしか出来ないが、その容姿に目を逸らせない私がいた。


──ニコッ


 彼が私に微笑んだ気がしたが、そんなことある筈ないと急いで身体を方向転換させる。
 風は向かい風。身体が思ったより前に進まないが、それでも恥ずかしくてその場から逃げてしまった。

 もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないのに。
 もしかしたら、もう二度と来れないかもしれないのに。

 私は自由気まま。来た道なんて覚えていない。



 だってそれが私だから。