瞼を開けば太陽の光が差していて、繋がれていた手はいつの間にか解かれていた。
夢のひとときは終焉を迎え、私はベッドにひとりぼっち。
仕方がないよね。これが私の選んだ道なのだから。
無理矢理頭を切り替えて、久しぶりに朝まで寝られたとスマホを手に取ったら、とんでもない事実が分かる。
朝はとっくに過ぎ去っていて、現在は昼の十三時。いくら日曜日とはいえ、幼馴染の間柄とはいえ、大寝坊をしてしまった現実に震え上がる。
やってしまったー! と、階段を駆け降りると驚くほどに体と心は軽く、身軽に降りていける。
私は健康になったんだ。心も体も。
この町に帰ってきて、みんなに会ったおかげで。
「……はい。ですので、申し訳ありませんが……」
和室の襖を開けようとして、拓也の声が微かに聞こえてきた。
内容はよく聞こえないけど、襖の隙間から見える拓也の表情は見たこともないほど凛としていて、外で働く男性の顔だった。
終わったんだ。全て。
「綾子?」
私を見た途端に表情を緩めた拓也は、何でこんなところに突っ立っているんだと言いたげにこっちに寄ってくる。
「あ、ごめん。大寝坊しちゃって!」
ははっと笑う声は、どんどんと萎んでいく。
「いーよ。あんまり寝れてなかったんだろ? それより朝……、昼ご飯にするか?」
昔ながらのリビングは変わっておらず、テーブルには鮭、卵焼き、納豆が用意されていて、こんなしっかりとした食事を見るのは久しぶりだった。
一緒に食卓を囲んで食事を共にするなんて、なんだかくすぐったくて目を合わせられない。別に何もなかったんだけどね。
だけど私にとって、最初で最後の一夜だろうから。
「うん、美味しい。おばさんのと同じ味がする」
「母さんには、散々仕込まれていたからな」
「そっか。……奥さんになる人は幸せだね」
「どうだろうな……?」
そこで終わってしまう会話。
肯定してよ。あなたは一人で居られない寂しがり屋。
だから、誰かと幸せになってよ。
「私ね、東京に戻るね」
「……大丈夫か?」
またしてくる、神妙な表情。
「地元に帰ってきて、同窓会に出て思い出したの。服はただ着るものじゃなくて、着る人を引き立ててくれる大切なものだって。みんな輝いていて、久しぶりにこうゆう服を着ると嬉しいと笑っていて。だから、こんなデザインの服を着てみたかって喜んでもらえるように、もう一度頑張りたいの」
やっと、本心からの笑顔を浮かべられる。
だってそれは、子供の頃からの……。
「そっか。幼稚園の卒園式にそう言ってたもんな?」
目を細めて、拓也は柔らかな微笑みを見せてくれる。
「……覚えてくれていたんだ」
「当たり前だろ?」
あまりにもサラッと言ってしまう拓也に、胸がまた締め付けられてしまう。
「拓也も幸せにね?」
「……ああ」
だから、そんな気持ちを振り切る為にそう呟く。
二つを手に入れることは出来ない。恋か、夢か。
選択をしなければならないのだから。
この先、この日のことを後悔するかもしれない。
拓也の妻になり農園を切り盛りすれば良かったとか、好きな人との最後の思い出を作れば良かったとか、仕事に戻る自分にとか。
だけど私の出した結論は十年前と同じ。
この恋は実らない。
夢のひとときは終焉を迎え、私はベッドにひとりぼっち。
仕方がないよね。これが私の選んだ道なのだから。
無理矢理頭を切り替えて、久しぶりに朝まで寝られたとスマホを手に取ったら、とんでもない事実が分かる。
朝はとっくに過ぎ去っていて、現在は昼の十三時。いくら日曜日とはいえ、幼馴染の間柄とはいえ、大寝坊をしてしまった現実に震え上がる。
やってしまったー! と、階段を駆け降りると驚くほどに体と心は軽く、身軽に降りていける。
私は健康になったんだ。心も体も。
この町に帰ってきて、みんなに会ったおかげで。
「……はい。ですので、申し訳ありませんが……」
和室の襖を開けようとして、拓也の声が微かに聞こえてきた。
内容はよく聞こえないけど、襖の隙間から見える拓也の表情は見たこともないほど凛としていて、外で働く男性の顔だった。
終わったんだ。全て。
「綾子?」
私を見た途端に表情を緩めた拓也は、何でこんなところに突っ立っているんだと言いたげにこっちに寄ってくる。
「あ、ごめん。大寝坊しちゃって!」
ははっと笑う声は、どんどんと萎んでいく。
「いーよ。あんまり寝れてなかったんだろ? それより朝……、昼ご飯にするか?」
昔ながらのリビングは変わっておらず、テーブルには鮭、卵焼き、納豆が用意されていて、こんなしっかりとした食事を見るのは久しぶりだった。
一緒に食卓を囲んで食事を共にするなんて、なんだかくすぐったくて目を合わせられない。別に何もなかったんだけどね。
だけど私にとって、最初で最後の一夜だろうから。
「うん、美味しい。おばさんのと同じ味がする」
「母さんには、散々仕込まれていたからな」
「そっか。……奥さんになる人は幸せだね」
「どうだろうな……?」
そこで終わってしまう会話。
肯定してよ。あなたは一人で居られない寂しがり屋。
だから、誰かと幸せになってよ。
「私ね、東京に戻るね」
「……大丈夫か?」
またしてくる、神妙な表情。
「地元に帰ってきて、同窓会に出て思い出したの。服はただ着るものじゃなくて、着る人を引き立ててくれる大切なものだって。みんな輝いていて、久しぶりにこうゆう服を着ると嬉しいと笑っていて。だから、こんなデザインの服を着てみたかって喜んでもらえるように、もう一度頑張りたいの」
やっと、本心からの笑顔を浮かべられる。
だってそれは、子供の頃からの……。
「そっか。幼稚園の卒園式にそう言ってたもんな?」
目を細めて、拓也は柔らかな微笑みを見せてくれる。
「……覚えてくれていたんだ」
「当たり前だろ?」
あまりにもサラッと言ってしまう拓也に、胸がまた締め付けられてしまう。
「拓也も幸せにね?」
「……ああ」
だから、そんな気持ちを振り切る為にそう呟く。
二つを手に入れることは出来ない。恋か、夢か。
選択をしなければならないのだから。
この先、この日のことを後悔するかもしれない。
拓也の妻になり農園を切り盛りすれば良かったとか、好きな人との最後の思い出を作れば良かったとか、仕事に戻る自分にとか。
だけど私の出した結論は十年前と同じ。
この恋は実らない。



