3つ目の信号右で、赤色の螺旋階段の下ってここか。
今日は幼馴染に誘われて夕ご飯を食べに来た。
久々だ。さなと会うの。
楽しみだな~なんて呑気にスマホで前髪をチェックしていると
「ごめん待たせた」
と前髪を振り乱したさなが息を切らして近づいてきた。
「全然、今来たところ。久しぶり」
「それは良かった。マジ久しぶり、よし行こ」
飲んで、しゃべれたらそれでいいよねと簡単に決めた居酒屋。
2人で適当に頼んで乾杯した。
「最近どお? 」
「いやーこないだ実習が終わったばっかだからさ~。レポートに追われて休めないって感じ」
さなは保育学生。
いつもほんとに大変そうだし文字どうり時間に追われてる。
「ふたばは? 最近どお? 」
私かーとシンキングタイムに1口お酒を口に含む。
さなの前では私の大変話は言えないな。
さなの方がよっぽど大変だもん。
「それなり、かな」
ごまかす私をみてさなは「うそだね」とポテトを私の口に押し込んだ。
「バイト2つ、サークル、就活、その他諸々追われてる人がそれなりなわけないでしょ」
凄いな幼馴染って。
というよりも自分が大変な境遇にいるのに他人に気をまわせるさながすごいと思った。
「そんでまだ友達の出席出してるの? 」
「だしてるよ。むしろいまさら悪びれる様子もないしね」
私の大学の友達は効率がいい。
自分が出なくていいと判断した講義は出ない。
私が出席を出せば単位が取れるから。
最初こそ「ごめんね」とお菓子の1つや2つ渡してくれたけど今となっては
”彼氏と喧嘩して病んだ 出しといて欲しい”
”ライブ入っちゃった 出席よろしく”とメッセージが来るだけ。
断ればいいじゃんと言われるし私もそう思う。
でも、出席の1つや2つで今ある関係を微妙なものにしたくなかった。
それにきっとこれは
「まぁ友達税でしょ」
そういう私に「出た。その考え絶対やめたほうがいいよ」と口をとがらせる。
これは私の考え方で私と友達でいてくれることへの対価を出席だとかで補ってると思ってる。
だから厳密には私が何かをしてあげたことへの対価を期待するんじゃなくて私と仲良くしてくれていることに私が対価を払ってるんだ。
「私、ふたばといたら楽しいよ」
「私もさなといると楽しいよ」
付き合いたての恋人かよと2人で笑う。
でもすぐに少し複雑そうな顔を私に向けた。
「そう思うのはやっぱり中学の時のが原因なの? 」
掘り起こしていいのか探るような物言いに”気にしないんでいいだよ”という意味を込めてわざと明るく
「うん。そうだと思う」
そう軽く返事をした。
私は中学生の頃、人間関係で大きくつまずいた。
いじめとかそんな大層なものじゃないけど、男子が修学旅行で作成した「クラスの顔面偏差値ランキング表」が流出し、私が最下位であることが学年全員に知れ渡った。
「そんなことないよ」「ふたばちゃんかわいいよ」
言われる言葉全部が嘘に聞こえた。皆で寄ってたかって私を馬鹿にしてるんだ。
全員が敵に見えた。
自分への自信は地の底へ落ち、生きてる価値を感じなくなった。
皆はブスで不器用で勉強のできない私と仕方なく一緒にいたんだ。
私なんかのことを好きになってくれる人なんているわけがない。
これ以上誰かに嫌われたり、足手まといだと思われたり、邪魔だなと思われたくない。
ぜーんぶ被害妄想だった。
1つのことがきっかけで私は私のことを心の奥底から軽蔑して、死ねばいいのにと自分に思うくらいには絶望していた。
思春期真っただ中の年頃にはそう思うのに十分すぎるビックイベント。
当時のやさぐれた私はランキング1位だったさなにも冷たくあたった。
最悪だと思う。
それでも今こうやって会ってくれるさなの心の深さには頭が上がらない。
だから、なのかさなといると楽しいし会えることが嬉しいのに、どこか本音で話せないでいた。
バカみたいな話して笑う。
これがさなとの楽しみ方だった。
「今日、不安になったよ。あの頃と表情というか空気感が一緒だもん今のふたば」
「うそ。20歳にもなって情けないよ。あれ、中学の時の話なのに」
「大人になれば勝手に傷が癒えるなんてことないからね」
そんなはずない。そう思いたいけど。
余裕のない生活、友達の悩み、真面目な優等生を演じる日々、寝不足、ストレス発散不足。
結構、心は悲鳴を上げていた。
でも悲鳴を上げる心の口に手を当てて「黙っててよ」と1番自分を追い込んでいるのは自分。
それでも自分を一旦置いといて手一杯にしてしまうのは
昔から、誰かの役に立つことが好きだったから。
というより誰かの役に立っていると実感したときしか自分に生きてる価値を感じない。
どんなに苦しくても頼られてるという感覚が気持ちよく心を潤してくれる。
「ありがとう」とか「ふたばちゃんがいてくれてよかった」と言われる為だけに面倒ごとを引き受けていたし、それによって無理をしすぎて体調を崩してもむしろ勲章だと思っていた。
今も思ってる節は、あると思う。
だから見えない努力が嫌いで所々で大変アピールをしてしまう。
そういう自分が心底キモくて嫌になる。
この性格をさなも知ってるから「断りなよ」「無理しすぎ」って強く言ってこないんだと思う。
「大きなトラウマとかを抱えてる人って人よりも繊細に育つんだよ。昔と比べてまだ大丈夫って思っちゃだめだからね。むしろ耐性ついてると思い込んでる分厄介なんだから」
その手の話は私もそれとなく理解はしてるつもり。
それでもお得意の私は例外だからという考えがよぎってしまう。
皆は無理しちゃだめだよ。私がやればいいんだからってやつ。
「就活もあんまり? 」
「そうなんだよね。就活難しいのよ。私を落としたこと後悔しないかな~なんて」
苦し紛れのポジティブ発言。
SNSを見て友達は少しずつ内定をもらってることに焦ってはいたけどそれを悟られないよう、さながフォローしやすいよう、わざとお茶らけて言う。
「ふたばいつも辛い時明るく言ったりユーモア含ませてしゃべるから心配になるよ」
「心配? 」
枝豆をポイっと口に入れながらさなは「うん」と相槌を打った。
「ちゃんと泣けてる? 」
泣く。か。
泣いたって誰かが助けてくれるわけじゃないからあまりその方法に頼ってこなかった。
泣きたい時は、もちろんある。
なんなら今泣きたいくらい。
でも強がってしまう。
泣いて心配してもらえるのはかわいい子だけ。
さなは優しいね。何でこうやって言ってくれる人がいるのに苦しいんだろ。
これ以上さなに心配かけたくなくて
「さながいれば大丈夫な気がするよ。頼む? グラス空いてるよ」
そうやって話題を変えた。
そのあとも本当に楽しい時間を過ごした。
この時間がずっと続けばいいのにって自分の気持ちにふたをしてそう思った。
今日は幼馴染に誘われて夕ご飯を食べに来た。
久々だ。さなと会うの。
楽しみだな~なんて呑気にスマホで前髪をチェックしていると
「ごめん待たせた」
と前髪を振り乱したさなが息を切らして近づいてきた。
「全然、今来たところ。久しぶり」
「それは良かった。マジ久しぶり、よし行こ」
飲んで、しゃべれたらそれでいいよねと簡単に決めた居酒屋。
2人で適当に頼んで乾杯した。
「最近どお? 」
「いやーこないだ実習が終わったばっかだからさ~。レポートに追われて休めないって感じ」
さなは保育学生。
いつもほんとに大変そうだし文字どうり時間に追われてる。
「ふたばは? 最近どお? 」
私かーとシンキングタイムに1口お酒を口に含む。
さなの前では私の大変話は言えないな。
さなの方がよっぽど大変だもん。
「それなり、かな」
ごまかす私をみてさなは「うそだね」とポテトを私の口に押し込んだ。
「バイト2つ、サークル、就活、その他諸々追われてる人がそれなりなわけないでしょ」
凄いな幼馴染って。
というよりも自分が大変な境遇にいるのに他人に気をまわせるさながすごいと思った。
「そんでまだ友達の出席出してるの? 」
「だしてるよ。むしろいまさら悪びれる様子もないしね」
私の大学の友達は効率がいい。
自分が出なくていいと判断した講義は出ない。
私が出席を出せば単位が取れるから。
最初こそ「ごめんね」とお菓子の1つや2つ渡してくれたけど今となっては
”彼氏と喧嘩して病んだ 出しといて欲しい”
”ライブ入っちゃった 出席よろしく”とメッセージが来るだけ。
断ればいいじゃんと言われるし私もそう思う。
でも、出席の1つや2つで今ある関係を微妙なものにしたくなかった。
それにきっとこれは
「まぁ友達税でしょ」
そういう私に「出た。その考え絶対やめたほうがいいよ」と口をとがらせる。
これは私の考え方で私と友達でいてくれることへの対価を出席だとかで補ってると思ってる。
だから厳密には私が何かをしてあげたことへの対価を期待するんじゃなくて私と仲良くしてくれていることに私が対価を払ってるんだ。
「私、ふたばといたら楽しいよ」
「私もさなといると楽しいよ」
付き合いたての恋人かよと2人で笑う。
でもすぐに少し複雑そうな顔を私に向けた。
「そう思うのはやっぱり中学の時のが原因なの? 」
掘り起こしていいのか探るような物言いに”気にしないんでいいだよ”という意味を込めてわざと明るく
「うん。そうだと思う」
そう軽く返事をした。
私は中学生の頃、人間関係で大きくつまずいた。
いじめとかそんな大層なものじゃないけど、男子が修学旅行で作成した「クラスの顔面偏差値ランキング表」が流出し、私が最下位であることが学年全員に知れ渡った。
「そんなことないよ」「ふたばちゃんかわいいよ」
言われる言葉全部が嘘に聞こえた。皆で寄ってたかって私を馬鹿にしてるんだ。
全員が敵に見えた。
自分への自信は地の底へ落ち、生きてる価値を感じなくなった。
皆はブスで不器用で勉強のできない私と仕方なく一緒にいたんだ。
私なんかのことを好きになってくれる人なんているわけがない。
これ以上誰かに嫌われたり、足手まといだと思われたり、邪魔だなと思われたくない。
ぜーんぶ被害妄想だった。
1つのことがきっかけで私は私のことを心の奥底から軽蔑して、死ねばいいのにと自分に思うくらいには絶望していた。
思春期真っただ中の年頃にはそう思うのに十分すぎるビックイベント。
当時のやさぐれた私はランキング1位だったさなにも冷たくあたった。
最悪だと思う。
それでも今こうやって会ってくれるさなの心の深さには頭が上がらない。
だから、なのかさなといると楽しいし会えることが嬉しいのに、どこか本音で話せないでいた。
バカみたいな話して笑う。
これがさなとの楽しみ方だった。
「今日、不安になったよ。あの頃と表情というか空気感が一緒だもん今のふたば」
「うそ。20歳にもなって情けないよ。あれ、中学の時の話なのに」
「大人になれば勝手に傷が癒えるなんてことないからね」
そんなはずない。そう思いたいけど。
余裕のない生活、友達の悩み、真面目な優等生を演じる日々、寝不足、ストレス発散不足。
結構、心は悲鳴を上げていた。
でも悲鳴を上げる心の口に手を当てて「黙っててよ」と1番自分を追い込んでいるのは自分。
それでも自分を一旦置いといて手一杯にしてしまうのは
昔から、誰かの役に立つことが好きだったから。
というより誰かの役に立っていると実感したときしか自分に生きてる価値を感じない。
どんなに苦しくても頼られてるという感覚が気持ちよく心を潤してくれる。
「ありがとう」とか「ふたばちゃんがいてくれてよかった」と言われる為だけに面倒ごとを引き受けていたし、それによって無理をしすぎて体調を崩してもむしろ勲章だと思っていた。
今も思ってる節は、あると思う。
だから見えない努力が嫌いで所々で大変アピールをしてしまう。
そういう自分が心底キモくて嫌になる。
この性格をさなも知ってるから「断りなよ」「無理しすぎ」って強く言ってこないんだと思う。
「大きなトラウマとかを抱えてる人って人よりも繊細に育つんだよ。昔と比べてまだ大丈夫って思っちゃだめだからね。むしろ耐性ついてると思い込んでる分厄介なんだから」
その手の話は私もそれとなく理解はしてるつもり。
それでもお得意の私は例外だからという考えがよぎってしまう。
皆は無理しちゃだめだよ。私がやればいいんだからってやつ。
「就活もあんまり? 」
「そうなんだよね。就活難しいのよ。私を落としたこと後悔しないかな~なんて」
苦し紛れのポジティブ発言。
SNSを見て友達は少しずつ内定をもらってることに焦ってはいたけどそれを悟られないよう、さながフォローしやすいよう、わざとお茶らけて言う。
「ふたばいつも辛い時明るく言ったりユーモア含ませてしゃべるから心配になるよ」
「心配? 」
枝豆をポイっと口に入れながらさなは「うん」と相槌を打った。
「ちゃんと泣けてる? 」
泣く。か。
泣いたって誰かが助けてくれるわけじゃないからあまりその方法に頼ってこなかった。
泣きたい時は、もちろんある。
なんなら今泣きたいくらい。
でも強がってしまう。
泣いて心配してもらえるのはかわいい子だけ。
さなは優しいね。何でこうやって言ってくれる人がいるのに苦しいんだろ。
これ以上さなに心配かけたくなくて
「さながいれば大丈夫な気がするよ。頼む? グラス空いてるよ」
そうやって話題を変えた。
そのあとも本当に楽しい時間を過ごした。
この時間がずっと続けばいいのにって自分の気持ちにふたをしてそう思った。