幼い頃の夢を見た。それは過去の記憶で、普段なら思い出せないものだったけど、夢の光景はすごくはっきりしている。
「よいしょ、よいしょ」
そこは近所の公園で、僕は四人の友達と砂場遊びをしていた。スコップで穴を掘ったり、ちょっとした家みたいなのを作ったりしていた。
「……」
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた所で遊びに加わりたそうに見つめているアオがいた。小さい時の彼女は引っ込み思案で、積極的な子ではなかった。いつも口をきゅっと閉じていて、表情も硬くてあまり友人もいない状態でいて。けれど話しかけると、とても嬉しそうにして色んな表情を見せてくれた。
小さい僕は、砂場の作業を一旦中断してアオへ距離を詰める。そして、ぎゅっと握っていた手を掴んだ。
「アオちゃん、一緒に遊ぼ?」
「……いいの?」
「うん!」
頷くと彼女はパァッと表情を輝かせる。それから、僕達は共に砂場に行って一緒に家を作っていった。
「ユウくん、楽しいね!」
そう無邪気に笑う。僕はそんな彼女の表情を見るのが好きだった。
*
「うぅ……ここは?」
「おはよう、ユウワくん」
目を開けるとさっき見た白い天井があった。横には小さな椅子に座っているアヤメさんがいる。身体の上にはふんわりとした黒の掛ふとんが乗っていて、それをはがして上体を起こした。
「ええと……」
何故こうなっているのか逡巡すると、後頭部に痛みが走る。それの痛みで置かれている状況を思い出した。
「ごめんねーミズアの君に対する思いが相当強かったみたいでさ。……売りに出すにはもう少し改良しないといけなさそうだなー」
人差し指をくるくる回しながら独り言を呟きながら考え込みだす。
「あ、あの。思いの強さって、ネガティブなことも含むんですか?」
「そうそう、二つ含んだ総量で決まるんだ」
つまり、めちゃくちゃ僕のことを恨んでるという可能性もあって。そう考えると血がすうっと引いていった。
「っていうか、頭だーいじょぶそ? 十分くらい意識を失っていたけれど」
「まだ多少痛みますけど、問題ないと思います」
頭を触って確認しても、少し腫れているだけで血が出ているわけでもなさそう。
「そういえば、アオはどこに?」
「あの子は、さっき来た依頼者さんのお話を聞いてるよー」
「依頼者?」
尋ねるとアヤメさんは霊に関する依頼だと教えてくれた。
それを聞き終えると部屋のドアが開かれて、アオが中に走り込んできた。
「ゆ、ユウ! 目が覚めたんだね!」
不安げだったアオは僕を見るなり、一転して安心したように破顔した。それは、幼い時に見た光景と似通っていて。
「体調の方は大丈夫? どこかおかしな所とかはない?」
「うん。少し痛みが残るけどだーいじょぶ。なんてね」
アオやアヤメさんの言い方を真似してみる。アオは焦っていると、普通の言い方になるらしいので、少しからかいを込めて。
「良かった、本当良かったよ〜! また私のせいでユウのことを……ごめんね」
「うわわっ……」
だけど赤面させられるのは僕の方だった。だって、アオに抱きしめられたのだから。
恥ずかしさやら嬉しさやらで血の巡りが加速して身体が熱くなる。アヤメさんの方を見ると、ニヤニヤと眺めながら、両手でハートマークを作ったりもしてきて。
「お、落ち着いて」
「あっごめんね、つい」
「う、うん」
少し気まずい空気が流れて僕は顔を俯かせた。チラリと様子を伺うと、アオも頬を紅潮させていて。そしてすぐそばにいるアヤメさんは、僕と視線が合うとウインクをした。
「ねぇ、ミズア。依頼の事はどうだったのー?」
「そ、そうだった。お話をしてきたんだけど、何だか少し難しいそうで……」
「ほほー? 話してみてなさいな」
アオは頷く。立った状態のまま話し始めそうだったので、僕はベッドから身体を出して縁に座り直して、僕の隣に座るよう促した。
「ありがとね。それでなんだけど……」
そこからアオの説明が始まった。
「来てくれたのはアリアケ・カイトさん。土木関係のお仕事をしている人で、家族は妹さんだけ。二人で暮らしていたんだって。そして、その妹のレイアちゃんが霊になってしまったそうなの」
「妹さんが……」
「カイトさんはすごーくレイアちゃんを愛していたみたいなの。だから深い未練を持ってもおかしくないよね。しかも、唯一無二の家族だし」
アオはどこか遠くを眺めた。
「それでミズア、何に問題を感じているのー?」
「実は、そのレイアちゃんが死んでいる事に気づいていないみたいで……未練云々よりもどう伝えればいいかがわからなくて」
「確かにそれは難しいね」
どれだけオブラートに包んでもすごいショックを与えてしまって、未練解決どころじゃなくなるかもだし、かといって伝えなければ亡霊化してしまう。
「それと今レイアちゃんは、霊になってからずっと部屋の中にいるみたい。カイトさんが何とか外に出ないようお願いしているんだって。いつまでもつかわからないみたいだけど」
「ふむふむ……それは早めに行かないとねー。亡霊化のこともあるし」
そう一度言葉を切ってから、パンと掌を叩くと。
「よしっ。じゃあとりあえず二人でレイアちゃんに会ってきなよー。時間も無さそうだし、まずは行動あるのみ」
「ぼ、僕も?」
「モチのロン。大変な戦いも起きなさそうだし、初めてのお仕事にはぴったりだと思うなー。ミズアとも一緒だしさ」
アオと目を合わせると、一回頷いてくれて大丈夫だよと伝えてくれる。正直、まだ僕みたいな人間が、ロストソードを振るって良いのかわからなかった。でも、やらなきゃいけないことだともわかっていて。
「わ、わかりました。頑張ります」
僕は覚悟を決めてそう宣言すると、それを聞いたアオはあの頃みたいに表情を輝かせる。それだけで、間違ってないと思えた。
「よいしょ、よいしょ」
そこは近所の公園で、僕は四人の友達と砂場遊びをしていた。スコップで穴を掘ったり、ちょっとした家みたいなのを作ったりしていた。
「……」
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた所で遊びに加わりたそうに見つめているアオがいた。小さい時の彼女は引っ込み思案で、積極的な子ではなかった。いつも口をきゅっと閉じていて、表情も硬くてあまり友人もいない状態でいて。けれど話しかけると、とても嬉しそうにして色んな表情を見せてくれた。
小さい僕は、砂場の作業を一旦中断してアオへ距離を詰める。そして、ぎゅっと握っていた手を掴んだ。
「アオちゃん、一緒に遊ぼ?」
「……いいの?」
「うん!」
頷くと彼女はパァッと表情を輝かせる。それから、僕達は共に砂場に行って一緒に家を作っていった。
「ユウくん、楽しいね!」
そう無邪気に笑う。僕はそんな彼女の表情を見るのが好きだった。
*
「うぅ……ここは?」
「おはよう、ユウワくん」
目を開けるとさっき見た白い天井があった。横には小さな椅子に座っているアヤメさんがいる。身体の上にはふんわりとした黒の掛ふとんが乗っていて、それをはがして上体を起こした。
「ええと……」
何故こうなっているのか逡巡すると、後頭部に痛みが走る。それの痛みで置かれている状況を思い出した。
「ごめんねーミズアの君に対する思いが相当強かったみたいでさ。……売りに出すにはもう少し改良しないといけなさそうだなー」
人差し指をくるくる回しながら独り言を呟きながら考え込みだす。
「あ、あの。思いの強さって、ネガティブなことも含むんですか?」
「そうそう、二つ含んだ総量で決まるんだ」
つまり、めちゃくちゃ僕のことを恨んでるという可能性もあって。そう考えると血がすうっと引いていった。
「っていうか、頭だーいじょぶそ? 十分くらい意識を失っていたけれど」
「まだ多少痛みますけど、問題ないと思います」
頭を触って確認しても、少し腫れているだけで血が出ているわけでもなさそう。
「そういえば、アオはどこに?」
「あの子は、さっき来た依頼者さんのお話を聞いてるよー」
「依頼者?」
尋ねるとアヤメさんは霊に関する依頼だと教えてくれた。
それを聞き終えると部屋のドアが開かれて、アオが中に走り込んできた。
「ゆ、ユウ! 目が覚めたんだね!」
不安げだったアオは僕を見るなり、一転して安心したように破顔した。それは、幼い時に見た光景と似通っていて。
「体調の方は大丈夫? どこかおかしな所とかはない?」
「うん。少し痛みが残るけどだーいじょぶ。なんてね」
アオやアヤメさんの言い方を真似してみる。アオは焦っていると、普通の言い方になるらしいので、少しからかいを込めて。
「良かった、本当良かったよ〜! また私のせいでユウのことを……ごめんね」
「うわわっ……」
だけど赤面させられるのは僕の方だった。だって、アオに抱きしめられたのだから。
恥ずかしさやら嬉しさやらで血の巡りが加速して身体が熱くなる。アヤメさんの方を見ると、ニヤニヤと眺めながら、両手でハートマークを作ったりもしてきて。
「お、落ち着いて」
「あっごめんね、つい」
「う、うん」
少し気まずい空気が流れて僕は顔を俯かせた。チラリと様子を伺うと、アオも頬を紅潮させていて。そしてすぐそばにいるアヤメさんは、僕と視線が合うとウインクをした。
「ねぇ、ミズア。依頼の事はどうだったのー?」
「そ、そうだった。お話をしてきたんだけど、何だか少し難しいそうで……」
「ほほー? 話してみてなさいな」
アオは頷く。立った状態のまま話し始めそうだったので、僕はベッドから身体を出して縁に座り直して、僕の隣に座るよう促した。
「ありがとね。それでなんだけど……」
そこからアオの説明が始まった。
「来てくれたのはアリアケ・カイトさん。土木関係のお仕事をしている人で、家族は妹さんだけ。二人で暮らしていたんだって。そして、その妹のレイアちゃんが霊になってしまったそうなの」
「妹さんが……」
「カイトさんはすごーくレイアちゃんを愛していたみたいなの。だから深い未練を持ってもおかしくないよね。しかも、唯一無二の家族だし」
アオはどこか遠くを眺めた。
「それでミズア、何に問題を感じているのー?」
「実は、そのレイアちゃんが死んでいる事に気づいていないみたいで……未練云々よりもどう伝えればいいかがわからなくて」
「確かにそれは難しいね」
どれだけオブラートに包んでもすごいショックを与えてしまって、未練解決どころじゃなくなるかもだし、かといって伝えなければ亡霊化してしまう。
「それと今レイアちゃんは、霊になってからずっと部屋の中にいるみたい。カイトさんが何とか外に出ないようお願いしているんだって。いつまでもつかわからないみたいだけど」
「ふむふむ……それは早めに行かないとねー。亡霊化のこともあるし」
そう一度言葉を切ってから、パンと掌を叩くと。
「よしっ。じゃあとりあえず二人でレイアちゃんに会ってきなよー。時間も無さそうだし、まずは行動あるのみ」
「ぼ、僕も?」
「モチのロン。大変な戦いも起きなさそうだし、初めてのお仕事にはぴったりだと思うなー。ミズアとも一緒だしさ」
アオと目を合わせると、一回頷いてくれて大丈夫だよと伝えてくれる。正直、まだ僕みたいな人間が、ロストソードを振るって良いのかわからなかった。でも、やらなきゃいけないことだともわかっていて。
「わ、わかりました。頑張ります」
僕は覚悟を決めてそう宣言すると、それを聞いたアオはあの頃みたいに表情を輝かせる。それだけで、間違ってないと思えた。