僕達は居間で話の続きをすることになり、店を後にして家に戻った。
三人でソファに腰掛け、向こう側の机ではアヤメさんが一人で食事をしながらこちらを眺めていた。食べているのがスープっぽいものだけど色が藍色で、入ってる具も謎の黒い丸いものとかピンクの四角ものとかで、その見た目はもはやそれは食べ物もどきと表現すべきだろう。アオによると、アヤメさんはリクエストするとちゃんとしたものを作るけど、自由だと発明家としての血が騒いで創作しだしてしまうらしい。
「これは……また新しい味……!」
食べている彼女は、顔を真っ青にしながらも好奇心に目を輝かせている。見た目が美人なだけにより狂気的に見えた。
「おや、ユウワくんこれに興味あるのかなー?」
「い、いえ。ごめんなさい、お腹がいっぱいで」
食べてくることを言っていなかったので、僕達の分の食事も作ってくれていて、少し申し訳なくなるけど、助かったという気持ちの方が強かった。
「師匠〜ユウを変な道に誘わないでよ。それとここで食べないでよ、臭いがやばいから」
「うぅ、ちょっと換気するわ」
「あははっ、皆いい顔するなー」
アヤメさんと同じように、今にも倒れそうな桃奈さんが、部屋の窓を開けて空気の入れ替えをする。それによって、多少はマシになり、息がしやすくなった。それから、顔色が良くなった桃奈さんはアオの隣で話し始める。僕は二人の反対の位置で話を聞くことに。
「それでクママさんのことなんだけど、相手のギュララさんが全然会話に応じてくれなくて、しかも半分くらい亡霊化していて困っているのよ」
「えっと、クママさんが持つ未練はギュララさんへの贖罪だったけ?」
「ええ。けれどギュララさんは、そんなのいいからクママさんに自分を倒してみろって。拳で語るみたいなスタンスで未練についても教えてくれないし、クママさんも戦いたくない感じで、一向に進展しないの」
クママさんといえば、あの泉であったテーリオ族の人で、穏やかそうな感じだった。それに、ギュララさんという人は、多分アオが戦ったあのデスベアーのことだろう。
「やっぱり難しいか〜。譲り合えない状態だもんね」
「何とかして話し合いしてもらおうと色々やったのよ? クママさんが大切に思っていることとか、自分のために犠牲になったことをすごく気に病んでいることを伝えたの。でも、どこ吹く風で、元々二人が仲良かったとか信じられないわ」
桃奈さんは理解できないといった感じで不機嫌そうに状況を説明してくれた。僕はその中のある言葉が気になり質問する。
「犠牲って?」
「ユウはまだ知らなかったよね。クママさんは、森の中にいた魔獣に襲われてね、その時にギュララさんが助けに入った。だけど、逃がすのが精一杯でそのまま殺されてしまったんだ」
「……自分を犠牲にして守ったんだね」
僕ができなかったことだ。少しその人を羨ましく思ってしまう。
「話を戻すけど、現状だと亡霊化を止められそうにないわ。そこで、最強なミズちゃんに来てもらいたいの。万が一のためにね」
「りょーかいっ。もちろん行くよ、ユウと一緒にね」
「……ミズちゃんとの森デートはお預けかぁ」
アオの同調を求める視線と桃奈さんの少し嫌そうな視線の二つがこっちに向いてくる。
「はは……」
板挟みで何ともいえず苦笑いで答える。逃げるようにアヤメさんを見ると、顔色が紫に見えるほど悪そうになっていて。けど、皿には何も残っておらず何とか完食したようだった。
「そういえば……ユウワくん。戦闘用の衣装ができたんだー。森に行くなら必要になるだろうし、今持ってくるよー」
アヤメさんは皿を持ちながら席を立ち、居間を出ようとするけど足取りが覚束なくて、生まれたての子鹿のようだった。
「し、師匠フラフラだけど、肩貸そうか?」
「だーいじょぶ、動けるから」
「感覚が麻痺しているわ……」
部屋を出て、五分後くらいに戻ってくるとその手には渡した制服があった。
「これにあなたの手が触れれば、ロストソードと同じくあなたの一部になって、装備したい時に意識すればすぐに呼び出せるよー」
僕は畳まれた白のワイシャツに紺色のブレザーとズボンを受け取りに行って、それに触ると光の粒になって身体に入ってきた。
ロストソードを出現させる要領で、出てこいと念じると瞬時に制服を身に纏えて。
「す、すごい……!」
「でしょー? これが神様に貰った発明能力なのです!」
制服のデザインや形はほとんど同じだけど、胸にあった校章が無くなって、代わりに白の剣に羽が二つ付いているエンブレムになっていた。それと、当然だけど飛び降りた際に捨てたネクタイは無かった。服の上に着ているのに圧迫感とかは、普通に着用しているのと変わらなく、着心地は悪くない。
「ふーん、あんたは制服なのね」
「やっぱり似合ってるよ! すごくいい感じ!」
「なっ……あたしも変更しようかしら。でも……これが最高だしなぁ」
そのゴスロリローブは戦闘服だったらしい。三人で並び立つ姿を想像すると、僕だけ明らかに場違い感がすごくて。そんな僕は、何だかまだ向こうの世界に縛られている人のように思えた。
「モモはそのままが一番だよ」
「ミズちゃん……!」
「うわわっ、ちょっと〜」
感極まったように桃奈さんがアオに抱きついた。アオもはにかんでそれを受け入れて、されるがままでいる。
「うふふ、良いものだねーああいうの。見ていて癒やされるなー。そう思わない?」
「ちょっとわかりますけど」
「君も入ってみたら?」
からかっている感じではなく、純粋にそんなことを提案してくる。それが聞こえたのか、桃奈さんはこちらを見て威嚇してきた。
「色々な意味で殺されそうなので無理です。ボコボコです」
「諦めたら駄目だよ。強くなって頑張ろー」
「いや、そういう問題じゃなくてですね」
ああいう空間には、異分子は入ってはいけないだろう。絶対やってはいけない禁忌と言っても過言じゃない。
「そういえば、君の能力値って確認してなかったね」
「着々と戦う準備を進めないで下さい」
「まぁまぁ、とりあえず見てみてよ。ロストソードの水晶部分を二回タップすれば、確認できるんだー」
ロストソードを出して、言われた通りちょちょんとタッチすると、水晶部分の上空にゲームみたいなステータス画面が映し出された。
「どうかな? こっちの世界に来た最近の人達から、色々アドバイスを貰って作ったんだよー」
「……すごくわかりやすいです、本当に」
攻撃力とか魔力とか速さとか、いくつか項目があって、その横に数字が書かれていた。そして、中身を見るとほとんどの値がギリギリ二桁で、唯一知力だけは五十三あった。
「もしかしなくても弱いですよねこれ」
「あー結構あれだね。長年見てきたけど最弱の部類に入るなー」
「ですよね……」
ちょっと期待していた、こっちに来てすごい能力があるんじゃないかって。でも、現実は甘くないみたいだ。
「そう悲観しなくてもいいよー。ここに書かれているのは、今のところ数値化できる部分だけだからさ」
「そうなんですか?」
「うん。ここでわかることは、戦闘力が壊滅的ってことだけだよー」
軽い感じで最低評価を伝えてくる。ダメージは軽減されるわけもなく凄くメンタルに来た。
「ユウ、私達にも見せて」
二人にも僕の弱さを見てもらうと、どちらからも憐憫の眼差しを向けられた。
「だーいじょぶだよ。強さは重要じゃないもん。それに私がいるから安心して」
「ちなみにアオはどのくらいなの?」
「まぁ……ほとんどの能力が三桁くらい……かな」
アオは目を逸らしてすごく気まずそうに答えた。圧倒的な差に絶望的な気持ちになる。
「最強クラスのミズちゃんと比べたら駄目よ。攻撃力とか速さとかはあたしも同じくらいだし大丈夫よ」
「えっと、他の能力とかは……?」
「二桁の後半ぐらいかしら。魔力に関してはミズちゃんよりもあるけれど、まぁそんなの些細なことね。気にすることはないわ」
桃奈さんは、さっきまで敵対的だったのに今はすごい気遣ってくれる。けど、やっぱり僕は駄目なことがよりわかってきて。
「……」
「た、鍛錬すれば少しは強くなれるから。一緒に頑張ろう?」
「その通りよ。あたしも少しは手伝ってあげるから……元気だして」
二人の優しさが凄く沁みてきた。
「……頑張ります」
とりあえず毎日腕立て伏せを十回しようと思った。
三人でソファに腰掛け、向こう側の机ではアヤメさんが一人で食事をしながらこちらを眺めていた。食べているのがスープっぽいものだけど色が藍色で、入ってる具も謎の黒い丸いものとかピンクの四角ものとかで、その見た目はもはやそれは食べ物もどきと表現すべきだろう。アオによると、アヤメさんはリクエストするとちゃんとしたものを作るけど、自由だと発明家としての血が騒いで創作しだしてしまうらしい。
「これは……また新しい味……!」
食べている彼女は、顔を真っ青にしながらも好奇心に目を輝かせている。見た目が美人なだけにより狂気的に見えた。
「おや、ユウワくんこれに興味あるのかなー?」
「い、いえ。ごめんなさい、お腹がいっぱいで」
食べてくることを言っていなかったので、僕達の分の食事も作ってくれていて、少し申し訳なくなるけど、助かったという気持ちの方が強かった。
「師匠〜ユウを変な道に誘わないでよ。それとここで食べないでよ、臭いがやばいから」
「うぅ、ちょっと換気するわ」
「あははっ、皆いい顔するなー」
アヤメさんと同じように、今にも倒れそうな桃奈さんが、部屋の窓を開けて空気の入れ替えをする。それによって、多少はマシになり、息がしやすくなった。それから、顔色が良くなった桃奈さんはアオの隣で話し始める。僕は二人の反対の位置で話を聞くことに。
「それでクママさんのことなんだけど、相手のギュララさんが全然会話に応じてくれなくて、しかも半分くらい亡霊化していて困っているのよ」
「えっと、クママさんが持つ未練はギュララさんへの贖罪だったけ?」
「ええ。けれどギュララさんは、そんなのいいからクママさんに自分を倒してみろって。拳で語るみたいなスタンスで未練についても教えてくれないし、クママさんも戦いたくない感じで、一向に進展しないの」
クママさんといえば、あの泉であったテーリオ族の人で、穏やかそうな感じだった。それに、ギュララさんという人は、多分アオが戦ったあのデスベアーのことだろう。
「やっぱり難しいか〜。譲り合えない状態だもんね」
「何とかして話し合いしてもらおうと色々やったのよ? クママさんが大切に思っていることとか、自分のために犠牲になったことをすごく気に病んでいることを伝えたの。でも、どこ吹く風で、元々二人が仲良かったとか信じられないわ」
桃奈さんは理解できないといった感じで不機嫌そうに状況を説明してくれた。僕はその中のある言葉が気になり質問する。
「犠牲って?」
「ユウはまだ知らなかったよね。クママさんは、森の中にいた魔獣に襲われてね、その時にギュララさんが助けに入った。だけど、逃がすのが精一杯でそのまま殺されてしまったんだ」
「……自分を犠牲にして守ったんだね」
僕ができなかったことだ。少しその人を羨ましく思ってしまう。
「話を戻すけど、現状だと亡霊化を止められそうにないわ。そこで、最強なミズちゃんに来てもらいたいの。万が一のためにね」
「りょーかいっ。もちろん行くよ、ユウと一緒にね」
「……ミズちゃんとの森デートはお預けかぁ」
アオの同調を求める視線と桃奈さんの少し嫌そうな視線の二つがこっちに向いてくる。
「はは……」
板挟みで何ともいえず苦笑いで答える。逃げるようにアヤメさんを見ると、顔色が紫に見えるほど悪そうになっていて。けど、皿には何も残っておらず何とか完食したようだった。
「そういえば……ユウワくん。戦闘用の衣装ができたんだー。森に行くなら必要になるだろうし、今持ってくるよー」
アヤメさんは皿を持ちながら席を立ち、居間を出ようとするけど足取りが覚束なくて、生まれたての子鹿のようだった。
「し、師匠フラフラだけど、肩貸そうか?」
「だーいじょぶ、動けるから」
「感覚が麻痺しているわ……」
部屋を出て、五分後くらいに戻ってくるとその手には渡した制服があった。
「これにあなたの手が触れれば、ロストソードと同じくあなたの一部になって、装備したい時に意識すればすぐに呼び出せるよー」
僕は畳まれた白のワイシャツに紺色のブレザーとズボンを受け取りに行って、それに触ると光の粒になって身体に入ってきた。
ロストソードを出現させる要領で、出てこいと念じると瞬時に制服を身に纏えて。
「す、すごい……!」
「でしょー? これが神様に貰った発明能力なのです!」
制服のデザインや形はほとんど同じだけど、胸にあった校章が無くなって、代わりに白の剣に羽が二つ付いているエンブレムになっていた。それと、当然だけど飛び降りた際に捨てたネクタイは無かった。服の上に着ているのに圧迫感とかは、普通に着用しているのと変わらなく、着心地は悪くない。
「ふーん、あんたは制服なのね」
「やっぱり似合ってるよ! すごくいい感じ!」
「なっ……あたしも変更しようかしら。でも……これが最高だしなぁ」
そのゴスロリローブは戦闘服だったらしい。三人で並び立つ姿を想像すると、僕だけ明らかに場違い感がすごくて。そんな僕は、何だかまだ向こうの世界に縛られている人のように思えた。
「モモはそのままが一番だよ」
「ミズちゃん……!」
「うわわっ、ちょっと〜」
感極まったように桃奈さんがアオに抱きついた。アオもはにかんでそれを受け入れて、されるがままでいる。
「うふふ、良いものだねーああいうの。見ていて癒やされるなー。そう思わない?」
「ちょっとわかりますけど」
「君も入ってみたら?」
からかっている感じではなく、純粋にそんなことを提案してくる。それが聞こえたのか、桃奈さんはこちらを見て威嚇してきた。
「色々な意味で殺されそうなので無理です。ボコボコです」
「諦めたら駄目だよ。強くなって頑張ろー」
「いや、そういう問題じゃなくてですね」
ああいう空間には、異分子は入ってはいけないだろう。絶対やってはいけない禁忌と言っても過言じゃない。
「そういえば、君の能力値って確認してなかったね」
「着々と戦う準備を進めないで下さい」
「まぁまぁ、とりあえず見てみてよ。ロストソードの水晶部分を二回タップすれば、確認できるんだー」
ロストソードを出して、言われた通りちょちょんとタッチすると、水晶部分の上空にゲームみたいなステータス画面が映し出された。
「どうかな? こっちの世界に来た最近の人達から、色々アドバイスを貰って作ったんだよー」
「……すごくわかりやすいです、本当に」
攻撃力とか魔力とか速さとか、いくつか項目があって、その横に数字が書かれていた。そして、中身を見るとほとんどの値がギリギリ二桁で、唯一知力だけは五十三あった。
「もしかしなくても弱いですよねこれ」
「あー結構あれだね。長年見てきたけど最弱の部類に入るなー」
「ですよね……」
ちょっと期待していた、こっちに来てすごい能力があるんじゃないかって。でも、現実は甘くないみたいだ。
「そう悲観しなくてもいいよー。ここに書かれているのは、今のところ数値化できる部分だけだからさ」
「そうなんですか?」
「うん。ここでわかることは、戦闘力が壊滅的ってことだけだよー」
軽い感じで最低評価を伝えてくる。ダメージは軽減されるわけもなく凄くメンタルに来た。
「ユウ、私達にも見せて」
二人にも僕の弱さを見てもらうと、どちらからも憐憫の眼差しを向けられた。
「だーいじょぶだよ。強さは重要じゃないもん。それに私がいるから安心して」
「ちなみにアオはどのくらいなの?」
「まぁ……ほとんどの能力が三桁くらい……かな」
アオは目を逸らしてすごく気まずそうに答えた。圧倒的な差に絶望的な気持ちになる。
「最強クラスのミズちゃんと比べたら駄目よ。攻撃力とか速さとかはあたしも同じくらいだし大丈夫よ」
「えっと、他の能力とかは……?」
「二桁の後半ぐらいかしら。魔力に関してはミズちゃんよりもあるけれど、まぁそんなの些細なことね。気にすることはないわ」
桃奈さんは、さっきまで敵対的だったのに今はすごい気遣ってくれる。けど、やっぱり僕は駄目なことがよりわかってきて。
「……」
「た、鍛錬すれば少しは強くなれるから。一緒に頑張ろう?」
「その通りよ。あたしも少しは手伝ってあげるから……元気だして」
二人の優しさが凄く沁みてきた。
「……頑張ります」
とりあえず毎日腕立て伏せを十回しようと思った。