4
 あまりにも唐突な砲撃だった。
 雨あられと降り注ぐ魔術系の爆発物。

「なんだ、これは?」

 アリオンは目を白黒させる。
 櫓や物見台からの砲撃ではなかった。しかもかなりの長距離から、大雑把にポンポンと惜しげもなく投げ込んできている感じだ。
 とっくに中下級の魔術者の部下や従者たちが何人か犠牲になってしまっていた。彼らからすれば付き従って見届けるつもりで、まだ本格的な撃ち合いの間合いにすら入っていないはずだったのだ。

「ええい!」

 片眼鏡で千里眼を発動し、犯人を見極める。
 あいつか、「罠師」! データ資料で見たことがあるランク6。
 しかし「ランク評価」というのは実力だけでなく、評価する側の魔術協会にとっての忠実さや有益さも判断要件だから、全くそれだけで測れるわけではなかった。リベリオ派(離反・反逆した反魔族強硬派)の場合には、奥義や最新の秘術研究にはあまりあずかれない反面で、実戦向けに特化している者が多いとも聞く。

「フハハ! 見事だ、だが私の勝ちだ! 貴様のことは覚えておくぞ!」

 闘争の興奮と強敵、もとい戦うに値する獲物に巡り会った充実感。それを自ら仕留められる歓喜がアドレナリンを氾濫させる。それもまた、男や狩人の本能なのだろうか。
 スナイパー・アリオンの放った必殺の魔術の光条は眩い柱が倒れ込み走るようで、並の魔術者のレーザー攻撃とは比べものになるまい。威力にして凡百の数倍で、この距離による減衰も問題になるまい。
 だが、当たらない。
 砲撃は依然として続いている。

(何故だ?)

 少し考えればわからなくもない。乱射されている砲弾は事前に作っておけばしばらくは効力が持つだろうし、前方に幻惑や認識操作、防御障壁の魔術を「設置」すれば敵の攻撃の狙いを逸らせる(あるいは事前に準備していたものを利用したのかもしれない)。
 いわゆる設置タイプの魔術は仕掛ける際に魔法力を消費するが、使った魔力は時間経過で回復するのだ。しかもいざとなれば「回収」すれば、設置した際に消費したパワーの半分くらいは戻るのだから、本人にとっては魔法力回復アイテムのようにも使用できる。
 二射目と三射目の応戦のあとで、既に敵の罠師がそこにいなくなっている。

(転移の魔術まで使うのか? 器用な奴だ!)

 しかも、もしそれが事前に仕掛けておいた転移魔法トラップを使ったなら、本人はたいして魔法力を消費してもいないだろう。別方面から新たに砲撃してくるつもりなのか。
 そして悪いことには、部下や従者たちの半分もが負傷してしまい、手当てしなければ命に関わるだろう。既に三人くらいは死亡している。

(迂闊に連れてきたのは失敗だった)

 アリオンは舌打ちして、魔力の過半を使って回復と応急処置を施し、即席の防御シールドを付与してやる。これで大幅なパワー消費してしまったし、このまま力の劣る部下たちを庇いながら戦うのは無理な話だった。

「撤収する。後退の転移魔法を」

 苦虫を噛んだアリオンが指示を出して、部下の魔術者たちが複数人で協力して、脱出のための転移魔法を発動する。
 そのとき、突然に背後から現れた鉄仮面の罠師が、ノコギリのようなフランベルジュ剣で斬りつけてくるのだった。とっさに無造作なシールド魔法で防げたのは幸運だっただろう。
 アリオンが短距離での白兵戦のための短杖を向けたときには、罠師の姿はとうにない。転移魔法の設置トラップを使ったらしいが、それも事前にこのあたりに仕掛けてあったのだろう。

(なるほど、迎撃戦はお得意ということか。このあたりの土地そのものが、あいつの「罠」も同然ということか!)

 薄れゆく幻影と残像になって脱出しながら、アリオンはつい笑ってしまった。恐ろしいし脅威ではあったが、魔術者としての「戦いが楽しかった」からなのだろうか。


5
 トラが、防塁と堀のある屯田兵村村の内部に戻ったとき、さっきレトと遊んでいた場所に人だかりができていた。

「いやっ! 見ないで! 笑ってないで誰か助けてよ、もうっ!」

「あ、なんなの、これっ!」

 あれはたしか、レトのチームメンバーのエルフの女魔法使い、ミケナ・フロラともう一人。空中に浮かび上がって捕獲されて藻掻いてもいる。スカートがめくれ上がって(シャツまで?)、とんでもないことになってしまっているのだった。
 呆然としたトラが浮遊・捕獲用のトラップを解除すると、二人の女はようやく解放されたが、「あなたの仕業?」と詰め寄られ、もう一人から真っ赤な顔で向こう脛を蹴り飛ばされてしまった。