「私は、君が居なくなるのが嫌なんだ」
「そんな大げさな……」
「大げさじゃないもん。でも、私のこれは気にしないで良いよ。めちゃくちゃ涙もろいんだ私」
「……あのさ」
「うん?」
「――もうしないよ」
それは、僕の気まぐれだったのかもしれない。
「へ?」
「僕は二度と飛び降りようとなんてしない。もちろん、他の方法も、未遂も、一切しない。死んでたまるかってこと」
彼女ははっとしたように伏し目がちだった顔を上げた。
「――ホント? 私と、約束してくれる?」
「……ああ。ただし、君も生きてくれるなら約束するよ」
「ほえ?」
「だって、君、さっき自分で言ってたよね。自分も死のうと思ってたけど、僕を見たら、なんだかバカバカしくなっちゃったとか、って」
「あ」
僕の言葉に、彼女はバツが悪そうな声を出した。
「わ、私、そんなこと言ったっけ」
とぼける彼女だったけど、痛いところをつかれたような表情を見過ごせなかった。
「言った。たしかに言った。だから、もう二度と死のうとしないって君が約束するなら、僕も約束は守る」
僕はそこでようやく話を終わらせようとする。正直に言って、会話をここまで持ってくるのは、かなりしんどかった。
「……わかった、私も死なないって、約束する。けど、そういう話なら、私もたった今、君に用事ができた」
だけどやっぱり、あっさり解放はしてくれないらしい。
「用事って?」
訊くと、彼女は薄く微笑みぽつりぽつりと語り出した。
「君に、私の目の前で死のうとした罪滅ぼしをして欲しいって言ったら、――。そして、せめて夏の間だけでも、……君が死なないように、そばにいたいと言ったらどうする」
思わせぶりな彼女の言葉に、僕はただ首をかしげる他になかった。
「それって……どういう意味? ええと――」
目の前の彼女はすぐには疑問に答えず、ふいにつぶやいた。
「私は、佐野彩葉」
「そう」
「……むぅ、他に言うことはないの?」
「……いい名前だね?」
僕が心のこもってない口調で言うと、彼女――佐野さんは少し複雑そうな顔をした。それから取り繕うように言う。
「そうじゃないってば。こういうの知らないかな?」
「だから、何のこと?」
「名前だよ、な・ま・え。私が名乗ったんだから、君のほうも名乗るの」
「……ああ。僕、城田零実」
「――零実くん」
「……ちょっと待ってくれ。唐突すぎないか」
くんが付いているとは言え、いきなり下の名前で呼ばれていいものかと一瞬で思い、すぐに彼女にその呼び方を止めさせようとする。
「え。別に良いじゃん。ちなみに私、一度決めた呼び方を変えるつもりはないよ」
無駄だった。
「はぁ……さっきから思ってたけど、君ってわりと強引だよね。じゃあ僕は、佐野さんで」
「――はいはーい、どうも、佐野です。お好きにどうぞ!」
「あ、良いんだ」
「だって、名前で呼びたいのと呼ばれたいのとは別じゃん?」
そう言って佐野さんは自分のフレンチトーストに初めて口をつける。
「うん! やっぱり良いね。ここのフレンチトースト。なんて言うか、頭の中で鳴ってノリノリになれる」
「何?」
聞き間違いでなければ、トーストが鳴るって言わなかったか? どういうことなんだ、と僕は困惑する。
「そんな大げさな……」
「大げさじゃないもん。でも、私のこれは気にしないで良いよ。めちゃくちゃ涙もろいんだ私」
「……あのさ」
「うん?」
「――もうしないよ」
それは、僕の気まぐれだったのかもしれない。
「へ?」
「僕は二度と飛び降りようとなんてしない。もちろん、他の方法も、未遂も、一切しない。死んでたまるかってこと」
彼女ははっとしたように伏し目がちだった顔を上げた。
「――ホント? 私と、約束してくれる?」
「……ああ。ただし、君も生きてくれるなら約束するよ」
「ほえ?」
「だって、君、さっき自分で言ってたよね。自分も死のうと思ってたけど、僕を見たら、なんだかバカバカしくなっちゃったとか、って」
「あ」
僕の言葉に、彼女はバツが悪そうな声を出した。
「わ、私、そんなこと言ったっけ」
とぼける彼女だったけど、痛いところをつかれたような表情を見過ごせなかった。
「言った。たしかに言った。だから、もう二度と死のうとしないって君が約束するなら、僕も約束は守る」
僕はそこでようやく話を終わらせようとする。正直に言って、会話をここまで持ってくるのは、かなりしんどかった。
「……わかった、私も死なないって、約束する。けど、そういう話なら、私もたった今、君に用事ができた」
だけどやっぱり、あっさり解放はしてくれないらしい。
「用事って?」
訊くと、彼女は薄く微笑みぽつりぽつりと語り出した。
「君に、私の目の前で死のうとした罪滅ぼしをして欲しいって言ったら、――。そして、せめて夏の間だけでも、……君が死なないように、そばにいたいと言ったらどうする」
思わせぶりな彼女の言葉に、僕はただ首をかしげる他になかった。
「それって……どういう意味? ええと――」
目の前の彼女はすぐには疑問に答えず、ふいにつぶやいた。
「私は、佐野彩葉」
「そう」
「……むぅ、他に言うことはないの?」
「……いい名前だね?」
僕が心のこもってない口調で言うと、彼女――佐野さんは少し複雑そうな顔をした。それから取り繕うように言う。
「そうじゃないってば。こういうの知らないかな?」
「だから、何のこと?」
「名前だよ、な・ま・え。私が名乗ったんだから、君のほうも名乗るの」
「……ああ。僕、城田零実」
「――零実くん」
「……ちょっと待ってくれ。唐突すぎないか」
くんが付いているとは言え、いきなり下の名前で呼ばれていいものかと一瞬で思い、すぐに彼女にその呼び方を止めさせようとする。
「え。別に良いじゃん。ちなみに私、一度決めた呼び方を変えるつもりはないよ」
無駄だった。
「はぁ……さっきから思ってたけど、君ってわりと強引だよね。じゃあ僕は、佐野さんで」
「――はいはーい、どうも、佐野です。お好きにどうぞ!」
「あ、良いんだ」
「だって、名前で呼びたいのと呼ばれたいのとは別じゃん?」
そう言って佐野さんは自分のフレンチトーストに初めて口をつける。
「うん! やっぱり良いね。ここのフレンチトースト。なんて言うか、頭の中で鳴ってノリノリになれる」
「何?」
聞き間違いでなければ、トーストが鳴るって言わなかったか? どういうことなんだ、と僕は困惑する。