色彩を持った謎の彼女に手を引かれた先は、 展望台がある駅前施設の1階に入っているベーカリーカフェだった。そのまるいテーブル席に、僕は座らされていた。
僕を地上に引きずり下ろした犯人である彼女は、トングでお盆の上に何かを乗せていて、それからカウンターで会計を済ませていた。
「すみません、あと、アイスコーヒーを2杯お願いします……はい、これで全部です!」
会計を済ますと、彼女はお盆を持って僕の正面に立ちはだかった。ワンピースのスカート部分からすらりと伸びた脚がまぶしくて、目をそらしそうになった。
「ほら、お金はいらないから飲みなよ、これも食べなよ」
そう言って彼女はようやく席に着いた。
「…………はぁ。ありがとう」
アイスコーヒーと一緒に差し出されたのは、僕が普段から見ているのと同じ色合いをした、灰色の四角い物体だった。いつもの事だけど、食欲なんて、湧くはずもない。
僕はそんな自分の不自然さを悟られないように、その物体が乗ったプレートを受け取ると、彼女にもっともらしい理由をつけて反論する。
「あのさ。飲み物はともかく、僕が今食べ物を摂取したいような気分だと思う? 君、僕が今さっきあの展望台で、何をしようとしていたか……気づいてたんだよね?」
「パン一枚くらいなら、喉通らないかな?」
少女はあまり人の話を聞かないみたいだ。
「食べやすいようにひと口ずつ切ってあげようか?それか別のパンにした方が良かったかな?」
「いや……別に」
僕はぶっきらぼうに答える。それでも彼女は、備え付けのメニュー表を指で示して一方的に語りかけてくる。
「私この辺あまり詳しいわけじゃないけど、このカフェのフレンチトースト、とてもおすすめなんだ。食べたらきっと元気になれるよ」
……そうか。この皿に乗った四角い板だと思っていたものはフレンチトーストだったのか。いつしか物体を正しく認識することもままならなくなっていた自分の衰弱ぶりに、僕は小さくため息をつく。